学校一のギャルがプールのど真ん中でぶっ倒れていた
「姫愛華、まだ意識戻らないんだって?」
「ヤバ、通知鳴りやまない……」
「昨日、またどっかの記者に声かけられたよ」
生徒がそれぞれ、噂する中で赤井先生は溜め息交じりに廊下を歩く。
三年二組の星月姫愛華が一人、プールで倒れているところを通りがかった生徒の一人に発見された。
十二月という、プールを使用するには程遠い季節。いじめ等、何らかの事件を疑われるのは当然のことだった。既に学校では何度も全校集会を開き、緊急の保護者会で何度も教員たちが頭を下げている。
「陽真理、実際どうなんだ? 星月はそんな、何かのトラブルに巻き込まれそうな生徒なのか?」
「まさか。星月さんといえば見た目も性格も最高な、学校一の人気者。ギャルの究極進化系、アルティメットギャルだよ」
赤井先生の問いかけに、真剣な面持ちで答える陽真理。学校では生徒と教師という関係を貫いているが、家庭ではどこにでもいる兄と妹だ。能天気な陽真理に対して、まだまだ教員経験も浅い赤井先生は頭を抱える。
「そうは言っても、発見された状況もかなり異様だったんだぞ……青い風船やらペンライトやらが散乱していて、どれも光ったままだからやたらギラギラしていたって……」
「何その情報、今初めて聞いた。ってかそれ、星月さんインスタ用の写真撮ってたんじゃない?」
うっかり、児童に漏らしてはならないだろう現場の状況を口にしてしまった赤井先生に陽真理はスマホの画面を向ける。
「ほら、これ。星月さんって毎日写真アップしてるけど最近『夏のプール写真も楽しかった』『冬でもプールサイドぐらいならイケるよね?』とか書いてたし、もともと映え写真撮るためには手間暇惜しまないタイプだったからさ。写真撮るのに夢中になって、怪我したことも何回かあったからさ。てかスマホのデータ見れば、一発でしょ」
本人が目を覚まして事情を話してくれるのが一番だけどさ。
事も無げに語る陽真理に、赤井先生の力が抜ける。
「まぁ、良かったじゃん。ウチの学校はいじめを隠蔽したり、教員がまともに対処しようとしないクソみたいな学校じゃないってわかってさ。きっと真相がわかればみんな安心するし、元気出してよお兄ちゃん」
脱力する兄を、咄嗟にフォローする陽真理だったが――それでも赤井先生はしばらく、「あれだけ大騒動して、真相が『季節外れの映え写真を撮ろうとしていた最中の事故』だったなんて……」と力なく項垂れることしかできなかった。