トライアングルレッスンU〜就活編〜
「じゃぁ、ゆいこ、俺ら面接に行ってくるから」
「朝ごはん、付き合ってくれてありがとうな、送れないけど、気をつけて帰れよ」
リクルートスーツをスマートに着こなして、たくみとひろしがわたしに言う。
小さく手を上げて颯爽と去っていく後ろ姿を疎外感と共に見送った。
せっかくわたしにとっては高校最後の夏休みだと言うのに、2人は就職活動に余念がない。
わかってはいても追いつけない年齢差に寂しさが押し寄せる。
思わず俯いてため息を吐いた時だった。
「あれ、ゆいこ?」
背後から呼ばれてびっくりして振り返る。
「むっくん!?」
そこには見慣れない学ランに身を包んだむっくんがポケットに手を突っ込んで立っていた。
「え、学ラン?あ、そうか、むっくん、中学生になったんだよね!
うわぁ、大きくなったねぇ!」
わたしは久々会った弟分のむっくんの成長した姿に興奮し、昔のようにわしゃわしゃと両手で彼の髪の毛を撫でた。
「ちょ、やめろって...!」
わたしの手から逃げるように身を交わすむっくんの耳が赤く染まっていた。
「...何してんの、こんなところで」
むっくんがぶっきらぼうに問う。
「ん〜?.....たくみとひろしとご飯食べて.....面接に行くの見送ったところ。今日から毎日就活で忙しいんだって。.....わたし、高校最後の夏休みなんだけどなぁ....」
思わず愚痴るように呟いてから、はっとしてむっくんを振り返る。
いけない、この子にこんな話する訳にはいかない。
「あ、むっくんは夏休みなのに学校?部活?」
取り繕うように明るい声をあげるわたしを、むっくんが静かに見つめた。
「.....ムリ、すんなよ。寂しいなら寂しいって伝えればいいじゃん。....あいつらだって、わかってくれるよ」
むっくんの年不相応な大人びた視線に、思わず涙ぐんだ。
「あ〜....つっかれた....」
「まだ初日だぞ。俺もお前もまだまだ面接やら研修やら予定が詰まってるんだから、気合い入れろよな」
「わ〜かってるけどさぁ」
慣れないリクルートスーツのジャケットを脱ぎながら、首をコキコキと鳴らす。
今日はひろしと一緒の面接だったけど....明日からは別々。
この緊張とプレッシャーに耐えられるのか。
行き先が不安で、思わず隣のひろしを見る。
涼しげな顔で緊張とは無縁のその余裕な表情に思わずため息が漏れた。
「ひろし!たくみ!お疲れさま!」
俯いていた俺の耳に癒しの声が響いてくる。
数メール先の俺の家の前に、泣いてたのか、若干赤い目で微笑むゆいこの姿があった。
おれは思わず走り寄るとゆいこを抱き寄せた。
「た、たくみ!?」
「.....ただいま」
「….」
無言で不機嫌そうな鼻息を鳴らしつつ、ひろしが俺の腕の中からゆいこを引っ張り出す。
「ゆいこ、ただいま」
ちゅっ...
どさくさに紛れてゆいこのほっぺたにキスを落とすひろしの胸ぐらに掴み掛かった事は言うまでもない。