新天地へ①
俺たちはサモン港での食料の調達、船の手続きを済ませ、乗船した。
豪華客船ってほどでもないが、そこそこ大きな船だ、二週間くらいの船旅になるらしいが、、
そういえばジーニスが支払いを済ませてくれたが金銭面は大丈夫なのだろうか。
「ジーニスさん、今回の船旅に掛かった費用ってどれくらいなんですか?」
「お、なんだ。一丁前に金の心配か?」
「この時期だから三人で300リラだ」
「ちなみに金の心配ならいらねぇからな」
300リラ、日本円で3万円くらいだ。たしかに安いな、、
「衛兵団長ってそんなにお給料高かったですか?」
「あんたそんなことも知らないの?国の衛兵団長ともなると数年務めれば一生遊んで暮らせるわよ」
「そんなに?確かにうちは家こそそんなに大きくはなかったけど食べ物に困ったり生活に不自由はなかったな、、」
「それにシュナイドさんは衛兵団長を引退してからも貧困層への支援は続けてたからな」
父さんがちょくちょく家を出ていたのは支援関係だったのか、知らなかった、、
それにしてもエマは国に住んでいたわけでもないのに物知りだな。
「そういえばこの時期だから安いっていうのはどういうことです?」
「あんたほんと何も知らないのね」
「海の魔物は活動時期がある程度決まってて、今がまさにその活動時期なんだ」
「クラーケンやホーエルが見られるかもな」
「見られるって、、観光気分じゃないですか。弱いんですか?」
「弱い?いや弱くはないな、毎年被害が報告されてるしなぁ」
「じゃあなんでそんな余裕なんですか!!」
「まぁお前やエマもいるからなぁ、大丈夫だろ!出ると決まったわけでもないしな」
それをフラグって言うんだよ、、
そんな話をしながら部屋の前についた。
「俺とセレンは308号室、エマは309号室な」
エマは部屋の前で立ち止まってジーニスの顔を見た。
「べつにこれからは気遣って部屋分けてくれなくてもいいわよ、私気にしないから」
「年頃の娘なんだ、気にしろ」
「さ、荷物だけおいて船内をみて回るか」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
俺達が部屋に入ろうとした時、下の方から女性の甲高い声が船内に響いた。
「なによ!?」
「見に行くぞ!!」
俺たちは急いで階段を降り、人だかりができているところへ向かった。
「何があったんですか?」
ジーニスが乗客に尋ねた。
「215号室で人が殺されていたのよ!大きな爪のような傷があったらしいわ、、」
爪?獣人か?この世界、特にノース地方にはあまりいないはずだが、、
獣人はサウス地方でしか見かけないって聞いていたけど、、現に俺は獣人を見たことがない。
ちなみに俺が住んでいるノース地方にはエルフと人間が大半を占める。エルフも人間と比べると少ない方だが。
「私はやってない!!離して!!」
先ほど悲鳴を上げていた声にそっくりだ、どんな奴なんだ。
俺は少し背伸びをして奥の方を覗き込んだ。
するとエマと同じくらいの背丈をした女の獣人が船員達に捕らえられていた。
「傷を見れば明らかだ!お前を牢獄に入れセントラルで即刻処刑してやる!」
女の獣人が船員達に連れられる際、俺と目があった。
その瞬間、俺の体は動いていた。
「ミスディレクション」
姿くらましで俺は船員の懐まで近づいた。
「スモークフラッシュ(ボソッ)」
俺は光の目くらましで船員をひるませ、その隙に獣人を連れ、急いで部屋に戻った。
その間人には遭遇しなかったのが救いだった。
部屋に入るとジーニスやエマがすでに戻っていた。
「お前何やってんだよ!!!」
ジーニスは激昂していた、当然だろう。だが、、、
「この子はやってない、目があった時、助けを求める目をしていました、、」
「たったそれだけの理由で?!」
「船員につき出すにしてもさきの件で咎められるのは必至だ」
「まずはこの獣人の話を聞きましょうよ」
「“本当に”殺っていないなら真犯人がいるんでしょうし」
獣人の女の子はひどくおびえていたが、ゆっくりと口を開いた。
「私はマカフィー、殺された人は奴隷商人のリーダーでした、、」
ん、連れてきた俺が言うのはおかしいが、、
「売られる前にやっちゃったとか、、ではない?」
よくみれば首に魔方陣が付けられている、、この子は商品として運ばれていたのか、、
「、、違います、信じてください、、」
ど、どっちだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
俺そういえば前世で人狼ゲームの類においてめちゃくちゃ騙されるタイプだった、、
「そういえば爪痕があったんだよね、その奴隷商人に」
「はい、、けど私まだ10歳で、、あんなに大きな傷をつけられるほどの爪もないです、、」
確かにマカフィーの手は、爪はそこまで大きくはない、、せいぜい俺より少し大きいくらいだ。
獣人は大人になると人間より1.5から2倍くらい大きくなるという、、
このまま事件の謎が解けない限り俺たちは全員処刑まっしぐらだ、、
何としてでも解決しないと、、
焦りを抱え、ジーニスさんやエマにも申し訳なさを感じながら俺は頭をフル回転させるのであった、、