湖と魔剣とドラゴンと
シャルカール王国を目指して早3時間。街道を歩いているとベリーの言っていた湖が見えてきた。
「これが例の湖…。確かに綺麗!」
「せっかくだからご主人様!ここでランチタイムにしようよ!ベリーさんのお弁当楽しみなんだ〜。」
キグルンがそう言うので私達は湖のほとりで弁当を食べる事にした。カゴを開けると様々な具材を挟んだサンドイッチが詰まっていた。
「わぁ…沢山入ってる!いっぱい食べるぞ〜!」
『どれも美味しそうですね。ぱっと見た所…10個以上は入ってますね。』
喜ぶキグルンと見つめるプルンデス。私はサンドイッチを手にとって食べようとしたその時…
「…出ていけ。私の湖から…出ていくがいい…。」
と、湖から不気味な声が聞こえてきた。私が湖を見つめると大きな影が水面に上がってきた。
「出ていかぬならば…お前たちはここでオシマイだ…!」
水面から大きな波と共にメタリックブルーの巨大なドラゴンが現れた。
『あ…あれは!メタルリヴァイアサン!【ステージⅢ】のモンスターです!メタルと名がついているものの、その由来は金属のように硬く光沢を放つ鱗から来ているんです!』
プルンデスが慌てながら解説し、私達はメタルリヴァイアサンを見つめる。
「今ならば見逃してやってもいいぞ?それとも、私の牙の餌食となるか?」
メタルリヴァイアサンは恐ろしい牙をちらつかせながらこちらを睨みつけている。…しかし、どことなく様子がおかしい気がする。
「ご主人様…どうしよう!?ドラキグルンだった頃なら倒せたかもしれないけど、今のボクじゃ勝てないよ〜!」
「ハッハッハ!私が怖いか?怖いだろう!早く逃げたほうが良いんじゃないか?私は長く待ってやるほど優しくはないぞ?」
そう言いながらメタルリヴァイアサンは歯をカチカチと鳴らしている。…そこで私はハッタリをかけてみることにした。
「さっきから言葉だけで攻撃しないのはどうして?もしかして…そこまで強くないとか?」
私がそう言った瞬間、メタルリヴァイアサンの目が泳ぎだした。それはそれはわかりやすいくらいに。
「な…何を言うか!私は凄く強いのだぞ!お…お前たちに逃げるチャンスを与えてやってるだけだ!」
私達は確信した。コイツ、言うほど強くないという事を…。
「ふ…ふん!私が弱いかどうか…試してみるか!?メタルキラーボム!」
メタルリヴァイアサンは尻尾から巨大なエネルギー弾を放ってきた。私はエネルギー弾に向けて手をかざし、叫んだ。
「ショットバブル!」
無数の水の泡がエネルギー弾に当たる。すると思った通り、エネルギー弾はアッサリと消えてしまった。
「う…うわっ!私のメタルキラーボムが!」
「やっぱりね。姿こそ強そうだけど…実際はそんなに強くない!さぁ…今度はこっちから行くよっ!」
私はメタルリヴァイアサンに対して剣を構え、ゆっくりと近づいた。
「…ひえ〜っ!まいりました!」
メタルリヴァイアサンは情けない声で降参した。やっぱり強くなかった。
『どうして私達を追い払おうとしたのですか?』
プルンデスがそう問いかけるとメタルリヴァイアサンは俯きながら口を開いた。
「…本当はこんな事したくないんです。私は一族の中で最も弱くて臆病なんです。かつて私は海の中を泳いで海藻を食べて暮らしていました。ですが…禍々しい魔剣を持った男に捕まり、この湖に入れられました。男は私に…力が惜しくばこの湖に近づく者を追い払え…と。」
メタルリヴァイアサンは悲しそうな声で続けて語った。
「私はそれで仕方なく強いフリをして街の人達を筆頭に冒険者…子供…ご飯をくれたベリーさん…沢山の人を追い払いました。」
メタルリヴァイアサンは泣いていた。そこでプルンデスが質問をした。
『そういえば、男の持っている剣の名前って分かります?』
「確か…魔剣ダルセリアって言ってたな…。」
私とプルンデスはその魔剣の名前に覚えがあった。私達を襲ったあの男の持っている剣の名前だったからだ。
『…では、メタルリヴァイアサン。その剣の持ち主の名前は…?』
プルンデスが質問した瞬間…
「ゼノニス。それが我の名だ。」
後ろから突然魔剣の男…ゼノニスがやって来た。
「こんな簡単な命令もできぬとは…所詮は【ステージⅢ】よ…。」
ゼノニスは魔剣ダルセリアを構えてメタルリヴァイアサンに高速で斬り掛かった。
「うわぁぁぁ!助けてぇぇぇ!」
メタルリヴァイアサンが泣きながら逃げようとしたその時、一筋の光がダルセリアを弾いた。
「やれやれ…弱い者をいじめるなんて…騎士道がなってないね。」
ゼノニスをふっ飛ばしたのはベリーだった。
「大丈夫かい?みんな?」
何故ベリーがここに居るのか問いかけると、娘の写真立てが突然倒れた為、嫌な予感がしたので走ってきたという。
「まさかゼノニス王子が居るとは思わなかったけどね…!」
ベリーは剣を構え直してゼノニスを睨みつける。そしてゼノニスへ向かって喋りだした。
「シャルカール王国の第3王子ともあろうものが、どうしてこんな事をしている!精霊とモンスターから無差別に力を奪うなんて…!」
「ククク…簡単な事だ。全ては魔剣ダルセリアを強くする為よ。この世は力だ!力こそ全て!…だが、我もバカではないのでな!」
そう言いながらゼノニスはプルンデスをチラリと見つめた。
「お前と戦うなら下級精霊をダルセリアに吸収させてからだ!」
ゼノニスはプルンデスめがけて左手を出し急接近してきた。
「前は防がれたが今回はそうは行かんぞ!デスタッチ!」
プルンデスはあまりの速さに反応できていない!危ない!…そう思った時
「パペットパンチ!」
足元に隠れていたキグルンがゼノニスのスネを思いっきりぶん殴った。次の瞬間…
「い…いってぇぇぇ!我に…何をした!?」
理由も分からず転倒したゼノニスが私に向かって叫んでいる。私は何もしてないんだけどなぁ…。
「ボクだよ!あの時はよくも力を奪って吹き飛ばしてくれたな〜!?もっと喰らえ!パペットパンチ!パペットパンチ!パペットパンチ!」
キグルンが同じ箇所を何度もぶん殴っている。見てるこちらが痛くなるくらいに。
「あがっ!ぐぁっ!…しつこいし痛いんだよ!この着ぐるみ野郎!」
ゼノニスは思いっきりキグルンを蹴り飛ばし素早く立ち上がった。しかし、スネへのダメージが大きいのかフラついている。
「おのれ…我のスネをここまで攻撃するとは!今日のところはこれで引いてやる!次は必ず精霊を渡してもらう!そしてメタルリヴァイアサン!お前はもういらぬ!何処へなりとも消えるがいい!」
ゼノニスは片足を引きずりながら逃げていった。
「ふぅ…ボクめっちゃスッキリした!」
満面の笑みで微笑むキグルンを横にメタルリヴァイアサンが話しかけてきた。
「あの…皆さん…この度はありがとうございました!ゼノニスは私を捨てたので自由の身になれました。ですが…私はこれからどうすれば良いのでしょう…海に戻るには遠すぎるし…私はご存知の通り弱い…。」
メタルリヴァイアサンが悩んでいるとベリーが優しく声をかけた。
「それなら…私と一緒に住む?家の横に大きな池があるの。そこで暮らすと良いわ。」
「い…良いんですか!?あ…ありがとうございます!」
泣きながら喜ぶメタルリヴァイアサンを撫でながら、ベリーは私達にも声をかけた。
「シャルカール王国はもうすぐだからね。気を付けていくんだよ!お嬢さん!」
「はい!色々とありがとうございました!」
私達は湖を後にしてシャルカール王国へ向けて歩き出した。