力を奪う者
生まれたメカンドラにメタルと名前をつけ、さらに旅をする私達は野宿をしていた。
「…そういえばご主人様の名前、聞いてなかったね。何て名前なの?」
ドラキグルンがそう訪ねた。
「私の名前?アカネだよ〜。」
『アカネちゃんか…ん〜!かっわいい〜!』
メタルをなでているプルンデスはそう言った。なんだか最近テンションがおかしい気がするが…恐らく気のせいだと思う。
「名前通りの眼の色をしてるんだね〜。髪色は暗めだからか、まるで炎のように感じるよ。」
ドラキグルンはそう言いながら、焚き火に極小のパペットファイアを放ち、火種を絶やさないようにしてくれている。
「まぁ…今日はもう遅いし、寝ましょう。」
私はそう言い、木にもたれかかり、ゆっくりと目を閉じた。
「…うわっ!何をするんだ!」
ドラキグルンの声で目を覚ました。いったい何事かと思ってあたりを見渡すと…何かに捕まり力を吸い取られているドラキグルンが居た。
「…ふぎっ!」
フードを被った謎の男はドラキグルンを投げ捨て、不気味に笑っていた。
「う…うわぁぁぁ!【ステージⅠ】のキグルンに戻ってるーっ!?」
どうやらドラキグルンは力を吸われて弱体化してしまったようだ。
「キシャーッ!」
メタルがフードの男を引っ掻こうとしたが、軽く避けられてしまった。メタルはその拍子に木に引っかかってしまった。
「ふん…つまらん。もっと力を持つ者はいないのか!たかが【ステージⅡ】と【ステージⅢ】のモンスター如きが…。」
男はそう言うと衝撃波を放ち、キグルンを空の彼方へ吹き飛ばしてしまった。
「何でボクばっかり〜!」
吹っ飛ぶドラキグルンを見つめる事しかできず、ポカンとしていたら…
「お前…精霊を宿しているな?」
男は私の前でそう言った。
「お前の精霊を我によこせ。そうすれば命は助けてやろう。」
禍々しい剣を構えて男は私に問いかける。
「…誰が渡すものですか。プルンデスは私の大切な友達なのに!」
私は声高々にそう言い、素早く剣を振るった。
「バカなやつだ…。自らの命を捨てるとは。ならばお前を切り刻み、我の手で自ら精霊を抜き取ってやろう!」
男は勢いよく飛びかかってきたが、私も負けじと対抗する。鉄と鉄のぶつかり合う音が森に響き火花を散らす。男の剣を振るう速度は遅いが力の差で防戦一方となってしまう。
「くっ…!これじゃあジリ貧ね…。」
私は素早く男から離れ、精霊の力を使った。
「ショットバブル!」
沢山の水の泡が男へ飛んでいくが、男はお構い無しと言わんばかりに突っ込んできた。
「水の精霊か…力は強いが、魔法は弱い下級精霊…。だが、我の野望には精霊がとにかく必要なのだ。」
男はそう言って私に斬りかかる構えを取った。男の剣に宿る禍々しい気配が更に強まる。
「我の剣…〔魔剣ダルセリア〕はモンスターの力と精霊を吸って強くなる。モンスターの力だけでは大して強くはならない。精霊を吸わせてこそ強くなるのだ…たとえ、それが下級精霊であろうともな。」
なんてことだ。この男は自らの剣を強くする為だけにドラキグルンの力を奪い、プルンデスを犠牲にしようとしている。
「それなら、尚更負けるわけにはいかないわ!」
私は素早く剣を振るい男の一撃を止めた。しかし男の方が強く、押し負けそうになってしまった。
「んぎぎぎ…」
私は必死に抵抗する。
「諦めよ。我に精霊を渡すのだ。さすれば命だけは助けてやる。…だがこの状況でも渡さぬと言うのだろう?」
男はそう言った。
「へぇ…よく分かってるじゃないの…。」
男の力が強くなっていく。その時…
『私の友達になにするんです!?』
プルンデスが身体から飛び出し、男にラリアットを決めた。
「ぬおっ!?…さすがは精霊と言ったところだな。下級でもこのパワーか。」
男は華麗に着地し、にやりと笑った。
「だが我にとって好都合!精霊が自ら出てきたのだから!我が魔剣の力となるがいい!」
男は左手を構え、プルンデスへ向かっていく。
「デスタッチ!」
男は叫びながらプルンデスに掴みかかろうとした。
しかしプルンデスは逆に男の顔をぶん殴った。
「ぬぐぐ…何故だ!?どうしてデスタッチを決められない!?」
『簡単な事よ。友達を…アカネを想う私の気持ちが私に力を与えたの!それに…貴方の腕は短いもの!』
プルンデスはそう言いながら私に言った。
『今のうちにウォータークラッシュを!』
私は頷いた。
「ウォータークラッシュ!」
いつもよりも勢いの強い水柱が男めがけて襲いかかる。
「そんなもの…ダルセリアで防いでやるわ!」
男は剣を構え水柱を防ぎ始めた。しかし、踏ん張っている地面がウォータークラッシュの影響で、ぬかるみ始めた。
「…おかしい。踏ん張れん!ぬっ…ぐっ…ぐぁぁぁぁ!」
男はついに水柱の勢いに耐えられず吹っ飛んだ。
「…今回は負けを認めよう!だが、次に会ったときこそ!お前の精霊を我に渡してもらうぞ!覚悟しておくがいい!」
男は高笑いしながら空へ消えていった。
「ふぅ…ありがとうプルンデス。」
私はプルンデスにキスをした。
『…あえええ!?と…友達からキスされちゃった!?私、キスされた!?アカネちゃんのキス!?にへへ…。』
プルンデスは悶えながらも、ニヤけていた。ちょっと気持ち悪かった。同じ女の子同士とはいえども、これはさすがに…。
私は木に引っかかって泣いていたメタルを降ろし、身悶えしているプルンデスに呼びかけて吹っ飛ばされたドラキグルン…いや、キグルンを探すため、また歩き出したのだった。
『アカネちゃんの唇…柔らかかった…。』
そろそろ怖くなってきた。