美穂
「ほんとにそれ本人なの?」
バイト仲間兼友人の美穂は、またはじまったよ、と言わんばかりの呆れ顔だ。
無事お昼のアルバイトに遅れずに済んだ私は、出勤するなり昨日の出来事を彼女に話し始めた。
美穂は大学3年生で年が近いこともあり仲が良い。
抑えきれない欠伸をかみ殺しながら、彼女の言葉に食って掛かった。
「ルイの声を私が間違えるとも?」
「うーん、わからん」
適当な返答をしつつ、彼女の手は常に動き続けている。
コーヒーをドリップしつつ、パンケーキのトッピングに手を伸ばす。
ふわふわの出来立ての生地に、綺麗な生クリームのタワーが作られてく様をじっと見つめていると「チョコかけて」と彼女からの指示がとんだ。
冷蔵庫からチョコソースを取り出し、ふんだんにかける。
「でもさ、もしあれがルイだとしたら……また会えるかもだよね」
考えてみれば、家が近い可能性すらある。
辞めたくて仕方なかったアルバイトに少し希望が見えてきた。
今度会ったらどうしよう、ドキドキしてきた……。
今日からジャージ出勤やめよう。
「かもね。じゃあ、2卓様に提供おねがい」
いつの間にかトレイに乗せられたコーヒーとパンケーキ。
私の興奮をよそに相変わらずの手際の良さだ。
「うん。ありがとう」
両手でしっかりと持ち上げれば、コーヒーの香ばしさと、パンケーキの甘い香りが鼻をくすぐった。
うん、今日も美味しそう。
私は、大事に抱えたトレイと共に2卓へと足を運んだ。