とにかくこいつ嫌い
「遅くない?」
店に到着後、開口一番目に入ったのは、ふてぶてしい態度の店長だった。
言われたその言葉に「おはようございます」と答えになってない挨拶で返す。
面接の時の優しそうなあの店長は3日目にして居なくなった。
現在は22時58分。
シフトインは23時だ。
文句を言われる筋合いなどない。
まだ何かいいたげな店長の視線から逃れるように、そそくさとバックヤードへ向かう。
これでタイムカード切れなかったらそれこそシャレにならん。
スタッフオンリーと書かれた扉をあけ、すぐに閉める。
扉の向こうからわざとらしい大きな咳払いが聞こえた。
ロッカーに荷物を押し込み、制服に腕を通す。
鏡の前で軽く髪を整えて、即座にタイムカードを押した。
23時ぴったりだ。
いざ参る!
右のおしりのポケットにスマホを滑り込ませ、とんとん、と叩く。じんわりスマホの温かい熱が広がり、自然と画面の彼を思い浮かべた。頬が緩む。
よし、今日も頑張ろう!
元来た扉を開け、突き刺さった視線に気づかないフリをして、颯爽と業務にとりかかる。
3日目にしてこれからワンオペ。
簡単に店内を見回すと、商品の陳列や、ホットスナックの廃棄チェックなど、まだまだやることがありそうだった。
「……雪見さん」
「はい」
案の定掛けられた声に、返事をする。
なんだよ?遅れてねぇぞ。
文句あんのか?
ドラマみたいなセリフが脳裏をよぎるも、そんなことは言いません。言ったこともありません。
そんな脳内コントを店長は覗いたのか、呆れたような表情で
「お疲れ様でした」
たった一言告げ、消えていった。