学園一の美少女に罰ゲームで告白してOKされてから振られることなく一ヶ月が経過した件について。
──おかしい。
何かが、絶対におかしい。
「弘人くん。今日はどんな所に遊びに行きますか? 私、カフェ巡りをしたいんですけど」
「う、うん。そうだね……」
俺の腕にピッタリとくっついた黒瀬菜月がニコニコと笑いながら今日のデートの予定を立てている。
俺はそれに冷や汗をかきながら笑顔で頷きながら返事をした。
やっぱり、絶対におかしい。
──学園のアイドルが、俺の告白をOKするなんて。
俺、赤城弘人は一ヶ月前、学校一の美少女である黒瀬菜月に罰ゲームで告白した。
もちろん、俺は振られると思っていた。
相手は超がつく程の高嶺の花。俺とはとても釣りあわない。
しかし意外にも菜月は俺の告白に対してOKした。
俺は困惑した。
だがすぐに菜月が俺に恥をかかせないためにOKしたことに気づき、すぐに振られるだろうと考えていた。
当然だ。ごく普通の俺と学校一の美少女が釣り合うはずもない。
──しかし、一ヶ月経過した現在、俺は何故かまだ振られていなかった。
「好きです! 付き合ってください!」
俺は告白していた。
現在は放課後。教室には誰もいない。
もちろん、これは罰ゲームだ。
友人とのトランプに負けて罰ゲームで告白させられることになったのだ。
その証拠に、ドアの隙間から友人たちがニヤニヤして俺を見ている。
俺が告白させられることになったのは、学校一の美少女である黒瀬菜月だった。
栗色の長い髪に、天使のような可愛い容姿。
そして誰にでも優しく接することから『聖女』とあだ名が付けられている。
当然告白したところでOKされるとは思っていない。
俺なんかが菜月と釣りあうわけもないだろうし、次の瞬間には玉砕するだろう。
(ん……?)
しかし、いつまで経っても菜月から返事が返ってこない。
顔を上げてみると菜月が驚いたような顔をしていた。
こんな平凡な男子が鏡も見ずに告白してきたことに驚いているのだろうか。
だが、次の瞬間菜月から出てきたのは予想外の言葉だった。
「嬉しい……!」
「え?」
俺は思わず素っ頓狂な声をあげる。
「ずっと片思いだと思ってたけど、弘人くんも私のことが好きだったなんて……!」
菜月は感極まったのか、目には涙が溜まっている。
あ、あれ? おかしい。
バッサリと振られるはずなのに、何か空気が違う。
後ろの友人たちもポカンとしている。
「これからよろしくお願いします……!」
そして菜月は俺の手を握った。
俺はその意味が一瞬分からなくて、菜月に質問する。
「えっと、これはどういう意味で……?」
「え? 付き合うってことだけど……」
菜月は俺の質問に不思議そうに首を捻った。
「え? もしかして嘘だったの……?」
「ち、違う! 本心だ!」
菜月が泣きそうな顔になったので、慌てて俺は否定した。
「よかったぁ……!」
菜月は安堵したように息を吐いた。
俺に対して今まで誰も見せたことのないような、とびきりの笑顔を見せた。
まるで俺と付き合えたことが嬉しいと感じているような表情だ。
「弘人くん、不束者ですがこれからよろしくお願いします」
「は、はい……」
そして何故か、罰ゲームで学園のアイドルに告白した俺は付き合うことになった。
廊下を歩きながら俺は必死に思考を巡らせる。
今、隣には学校一の美少女である菜月がいる。俺の彼女として。
なぜこんな美少女が彼女になっているのだろうか。
そうか。
俺は気づいた。
きっと菜月は俺が罰ゲームで告白したことに気づいていて、それで俺に恥をかかせないために告白をOKしたのだ。
さすがは『聖女』だなんてあだ名をつけられただけはある。
「弘人くん」
「ん?」
「えへへ、呼んでみただけです……」
菜月は照れたように笑う。
不覚にも可愛い、とそう思ってしまった。
俺だって男子高校生なのだ。
美少女である菜月に憧れていなかったといえば嘘になる。
だが、これから俺はすぐに振られるだろう。
学校の正門を出たあたりで振られるのではないだろうか。
何故なら、今菜月は俺が恥をかかないように付き合ってるフリをしているだけなのだから……。
しかし、正門を出ても振られるなんてことはなかった。
家に帰っても、翌日を迎えても、一週間経っても振られなかった。
そして、振られることなく一ヶ月が過ぎた。
俺はこの一ヶ月間、今にも振られるだろうと思いながら生活してきた。
菜月がその聖女の優しさで俺と付き合ってくれているのだ、と思っていた。
当然だ。俺と菜月では全く釣り合わない。
それなのに一向に振られる気配がない。
どういうことだろうか。
「弘人くん。今日も一緒にお昼を食べましょう」
「今日は友達と食べようかな、と思ってるんだけど……」
俺がそう言った瞬間、菜月は泣きそうな顔になった。
「い、いや! やっぱり今日は菜月と食べることにしよう!」
「そうですよね! だって、私は弘人くんの彼女なんですから!」
唐突な恋人アピール。
菜月がそう言うと教室の男子たちから舌打ちが聞こえてきた。
そう、最近何故か菜月は周囲に対して俺の恋人であることまでアピールし始めた。
そのせいで男子からは日々嫉妬の目を向けられている。
ちなみに俺の菜月呼びも菜月自身にそう呼ぶように言われたからだ。
そのせいで学校ではもはや俺と菜月はカップルとして浸透しており、バカップルとまで言われるようになった。
俺と菜月は屋上へと移動する。
最初の頃は食堂で食べていたのだが、あまりにも視線を向けられて居心地が悪いので、人目の少ないこっちに移動することにした。
「弘人くんのために今日もお弁当を作ってきました。愛妻弁当です」
「あ、ありがとう……」
菜月は毎日お弁当を作ってきてくれる。
食費は流石に払っているが、毎日作ってきてくれるのは流石申し訳ない気もする。
しかし菜月の弁当はとても美味しいのでいつもついつい食べてしまう。
「美味い……」
「ふふ、それはよかったです」
あまりの美味しさに感動する俺に対して菜月は嬉しそうに笑う。
「いつも悪いな。けど、毎日作ってきてくれなくても……」
「私、弘人くんの彼女ですから」
「いや、でも」
「彼女ですから」
ニコリ、と笑う菜月の圧に俺は勝つことができなかった。
そして昼休みも終わり、その後は放課後になった。
「弘人くん。一緒に帰りましょう」
菜月が俺の机の近くまでやってきた。
俺は菜月と一緒に下校する。
「弘人くん」
歩いていると、菜月が俺の手を握ってきた。
それも指同士を絡めるような恋人繋ぎだ。
ここまできたら分かる。
菜月は俺が恥をかかないように気を使ってくれているのではない。
本当に、俺に好意があって付き合ってくれているのだ。
となると、恐らく菜月は俺が罰ゲームで告白させられたことは知らないだろう。
俺はこのまま勘違いさせて付き合い続けるのは、菜月に対して誠実さを欠いていると思った。
いや、既に罰ゲームで告白する時点で誠実さも何の無いのだが。
とにかく今は精一杯謝ろう。
「菜月」
「何ですか?」
俺は真剣な表情で菜月を見る。
「一ヶ月前、俺は菜月に告白したと思うんだ」
「そうですね」
俺は頭を下げた。
「ごめん! あれは本当は罰ゲームで告白させられただけなんだ!」
「はい。知っていましたよ?」
「今まで騙すようなことして──え?」
「ですから弘人くんが罰ゲームで告白してきたのは知っていました。後ろにご友人の姿が見えていましたし」
俺は困惑した。
菜月が罰ゲームで告白したのを知っているということは、俺が好きだから付き合っていたわけではなく、やはり俺に気遣って付き合ってるフリをしているだけなのだろうか。
「なら、なんで……」
「それは、弘人くんが本当に好きだからです」
菜月は優しく微笑む。
「お、俺のことが?」
初耳だ。
一ヶ月付き合ってきて、そんな話は聞いたことがない。
「弘人くんは覚えていますか? 授業中に騒いでた罰として先生に花壇の掃除を任された時のこと」
「ああ、覚えてる」
俺は静かにしてたのに、友人に話し掛けられたせいで一緒に騒いでたと勘違いされたのだ。
「本当は弘人くんは関係無いのに、ご友人と笑いながら花壇の掃除をしていました。その時に、この人はなんて素敵な人なんだろう、って思ったんです」
「でも……そんなことで」
菜月は首を振った。
「そんなことかもしれません。でも、好きになってしまったんです」
菜月が俺の手を握る。
「その時から、ずっと弘人くんが好きでした。だから、罰ゲームで告白されたことを逆に利用してでも、弘人くんと付き合いたかったんです」
だから、私も騙していたんです、と菜月は笑った。
「弘人くんは、私のことが嫌いですか?」
握っている菜月の手に、ぎゅっと力がこもった。
「いや──」
好きか嫌いで言えば、俺は菜月のことは好きだ。
告白した時は、ただ菜月に憧れているだけだった。
だけど、菜月と一緒に一ヶ月間を過ごして、俺は本当の意味で菜月のことが好きになっていた。
菜月に惹かれるようになった。
「俺は菜月が好きだ」
俺は菜月の手を握りかえす。
「嬉しいです」
菜月は安堵したような、嬉しいような表情で笑った。
そして、この日から正式に俺と菜月は付き合うこととなる。
学校中からバカップルと認識されるようになるのはそれから一ヶ月後のことだ。
【お願い】
少しでも面白いと思って下さった方!作者の励みになりますので、感想、ブクマ、評価、レビュー、いいね、作者のフォローを是非お願いします!!!!
下の☆☆☆☆☆が★★★★★になったりすると作者的に超ハッピーになります!!!!!!!
お願いします!!!!!!!