晴れた霧、空の上には......。
「全く! 何なんだ、ここはぁ!」
「喋ってないで、手を動かしてください!」
「五月蝿い! やってるわ!」
閃光が瞬き、爆発音が響く。大小の魔法が飛び交い、剣戟の音が喧しく鳴り続ける。ちなみに、別に戦争中ではない。あの後、しばらくは順調に進んだ二人だったが、小鬼族の群れに遭遇したのだ。50匹以上はいるであろう。しかも、魔力が濃いからか、一体一体が単なる雑魚ではなく、かなりの強さを持っている。油断したらあっという間に囲まれ、袋叩きにされるだろう。
「ああもう! 邪魔だあぁ! 『爆裂』!」
「ちょっ!?」
纏わり付かれるのがうざったくなったのか、広範囲殲滅用の爆裂魔法をぶち込む。ゴブリンは、爆発の直撃を食らって一匹残らず黒焦げになったが、本来は対軍団用の魔法であるため、威力も高ければ消費する魔力も普通とは比較にならないほど多い。けっして個人で気軽にぶっ放せるものではないのだ。そんな訳で、当然魔力切れで倒れる。
「あ、やば......」
「ちょっとおぉっ! 何倒れちゃってんですかっ! こんな魔境の真っ只中で寝転ぶとか、自殺願望ですかっ!?」
「そんなことより、防御しないとあんた死ぬよ?」
「......え?」
爆裂魔法は、「爆発」させる魔法だ。よって、使えば当然衝撃波が発生する。そして、衝撃波は、閉鎖空間において高い殺傷能力を誇る。つまり、ゴブリンの死体と、爆発で倒れた周囲の大木などで押さえ込まれていたものが一気に放出される訳だ。
「ちょま......」
カッ!
爆音が鼓膜を破壊し、意識が暗転した。最後に見たのは、一人だけ、うっすらと光る障壁で身を守る美女だった。
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「......ハッ!?」
「お〜、起きたか。どこか痛むとか、動かないところとかはあるか? 治癒魔法掛けたから、多分大丈夫だと思うんだが......」
「ああ、身体に異常はありませんよ。けど、酷い悪夢を見ていたような気が......」
「悪夢?」
「ええ。爆裂魔法を放って、その後に衝撃波が来ることがわかっていたのに、放置した美女の皮を被った悪魔が出て来ましたね」
「へ、へぇ〜......。酷い悪魔もいるもんだねぇ」
「ええ全くです。ところで、その悪魔と貴女がすご〜く似ているんですが......」
「そ、そうかな? 気のせいじゃない?」
「いえいえ、気のせいではありませんよ。ところで、悪魔は退治しないといけないですよねぇ?」
「......えっと」
「何か言うことは?」
「ごめんなさい…」
「貴女は、もうちょっと常識を身につけてくれないと困ります。何でもかんでも吹っ飛ばせばいいってわけじゃないんですよ?」
「そんなこと言われてもね......」
「兎に角! ちゃっちゃと調査を終わらせますよ! それからお説教です!」
「......チッ」
「ほらほら、どこなんですか?」
「もうすぐそこだよ。こっちだ」
「......わかりました。何がいるかわかりませんからね。気を引き締めていきましょう」
「お前は気張りすぎだ」
「貴女が呑気すぎなんですよ」
「......行くぞ」
「一人で突っ込まないでください! また何かに出くわしたらどうするんですか!」
「五月蝿い! 私の勘が大丈夫だと伝えてるんだよ! さっさと来い!」
「あ〜もう! 貴女は自由奔放すぎです! ここ、仮にも帰って来た者が一人もいない魔境なんですよ! どんな怪物がいるかもわからないのに! ちょっとぐらいは自分の興味のあるもの以外にも注意を向けて…」
その瞬間、喋るのをやめた。