「霧の森」、そこにあるのは......。
常に霧が立ち込め、一寸先すら見えないほどに見通しが悪い森がある。そこの麓にある街に、王都からの使いだと言う二人の研究者が来た。一人は、研究者というより、何処ぞの王族だと言ったほうが通じそうな美貌を持つ朱色のグラデーションが掛かった長い金髪のグラマスな美女で、もう一人は、癖の付いた青髪に筋肉隆々の身体を持つ、左目にざっくりと斜めに入った傷が痛々しい青年である。美女は、その美貌とは裏腹に粗野な口調であり、青年は、非常に丁寧な口調という、誰もが「普通逆だろ」と思う組み合わせであった。兎に角、その二人は、「霧の森」に入りたいと言って来た。あそこに入って帰って来た者はいないという理由で、必死に引き止めたが、結局、責任は自分で取ると言われて押し切られた。ん? 私は誰だって? ああ、自己紹介をしていなかったね。「霧の森」の麓にある街の領主をやっている。一つ宜しく頼むよ。あれ? もう行ってしまうのかい? 用事? ならしょうがないね。また会えることを願っているよ。
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「しっかし、酷い霧だな。これもうこの辺り一帯吹き飛ばせば解決するんじゃないか? なあ?」
「いや、王家から勲章まで貰った公認研究者が破壊活動をしちゃダメでしょ。表向きには、晴れない霧の調査ってことになってるんですから......」
「そうだったな。じゃあ、大人しく探すしかないのか......」
「そうですね。頑張りましょう」
「......面倒くさい。ちまちま探すなんて私の性分に合わんぞ。もっとこう、ドカーンとしないと」
「それ、戦争時ならともかく、実際にやったらダメですよ。というか、研究者はちまちま探すものなんです」
「くそ〜、この邪魔な霧さえなければな......」
「風魔法で吹き飛ばせないし、火魔法で蒸発しないと来ましたからねぇ......。どうなってるのやら」
「それを探すのが私たちの役目だろ」
「表向きはね。裏の目的としては、突然現れた空間の歪みと一般人には認識することすら不可能な量の膨大な魔力と精霊力の原因の調査ですね。封印されてた破壊神の片割れとかじゃなきゃいいんですが......」
「まあ、わからないものを考えてもしょうがない。とりあえず、発生源の近くに行ってみるしかないだろ」
「そう言われちゃ、そうなんですが......。さてはて、どうなることやら」
「......よし、こっちだな。ついて来い」
「え? ちょ、なんでわかるんですか?」
「森の奥に行くたびに魔力が強くなってるだろ。つまり、奥の方に発生源があるってことだ」
「そんな単純な......。というか、霧のせいで方向感覚とか狂ってるのに、こっちが奥ってわかるんですか?」
「は? 別に私は方向感覚なんぞ狂ってないぞ?」
「え? だって、霧が......」
「いや、私が霧程度で道に迷うわけがないだろ。馬鹿なのかお前」
「......そーいや、一緒にいて道に迷った記憶ってないですね」
「だろ? ほら行くぞ」
「はいはい。わかりましたよ......」