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第77話 彼女と叔父

「貴様らかッ……! この俺様が望む『解呪の黒鍵』を売りたいと言う奴は!」



 生ける伝説の冒険者による、俺らへの第一声がそれか。

 うん、老婦人が言っていた通り偉そうではある。


 ま、歳上だろうがタメ口を使ってしまう俺が言えたことじゃないがな?



「……あの、旦那」

「あ? なんだ、なんかあったか?」



 このやりとりの本来の客であろう、〈竜星〉に付き添っている三十路は超えてそうなオジサン冒険者が、どうやらさっそくロナに気がついてしまったようだ。



「そこにいるお嬢さん、竜族みてぇですが……」

「ん……あ! おおッ! そうか、そうかそうかそうか! ハハハハハハッ! 同族か! うむ、同族だなッ! こんなところ会うとは嬉しいものだ!」

「あの、それがおかしいことに……って」



 まだ何かを言おうとしているオジサンを無視……というよりは耳に届いていない様子で、叔父はロナに近づいてきた。


 ……はは、おいおい。なんだこれは? 

 近くに来られただけなのに、自然と冷や汗が出てきたぞ……!


 なんというか俺の身体が、別にこれから殺されるわけでも無いのに、本能的にこの人物に恐怖しているみたいだ。

 

 人間がこんな威圧感を出せるもんなのか⁉︎

 こ、これが最強ってやつなんだ。まあでも、こうでなくっちゃな……とも思うが。



「いやはや、どこの国の郷の出身だッ! 喜べ、竜族の生ける伝説にして英雄ッ! 〈竜星〉ザスター・ドラ……おいおい、どうしたんだずっとうつむいて!」

「あの、ちょっと旦那! まだ続きが……」

「えらい弱気だな、それでも同胞か貴様ッ! せめて返事をしたらどうだ! そんな弱い竜族など……あー、ほかに一人しか知らんぞ!  まあ、その一人ってのは俺様の姪っ子なんだが……ああ、そういや姪も貴様みたいに髪が綺麗な紅色で……」



 親戚の叔父さんってどこの家庭もこんな感じなのか? 

 テンション上がると次々と言葉が出てくるよな。マダム達の井戸端会議レベルだ。とにかくめっちゃ喋ってる。


 まあ、それでもこの肌で感じる威圧感はそのままだからな……変な気分になってくるぜ。


 ロナはロナでずっと黙ってるし……いや、返事する隙が見つけられないだけか? どっちだこれ。



「──── でな、アイツは悪くないんだよ。周りの環境のせいで弱気になっちまったんだ。だがその分、オレ様の話をしっかり聞いてくれるいい子でなぁ……ッ! 宝具の自慢をすると目を輝かせて『もっともっと!』って……」

「旦那、聞いてくだせぇ、旦那! ……聞けってば!」

「なんだよウルサイぞ!」

「だから、その子、おかしいんだって!」

「何がだッッ! 竜族の癖に弱気なとこがかッ! 貴様とて同族を侮辱するなど許さんぞッ! オレ様はこいつが姪っ子に似てるから気に入ったんだッ!」



 完全に俺のことなど眼中にないな……まあ、俺だけじゃなくてこの店の老婦人達も忘れ去られてるみたいだけど。

 いや、いいんだけどさ。紳士は待つのも(たしな)みだからな? 


 しかし一つ言えることがあるとすれば、この付き添いのオジサンも大変だな。同情するぜ。



「違う、違って! 馬鹿にはしてねぇですってば!」

「じゃあ、何がどうおかしいんだ!」

「はぁ、やっと聞く気になった。その子、旦那と魔力の質(・・・・)が四分の一ほど一緒なんでさ……。同じ竜族でもここまで似てるのは滅多にない。だから、親戚じゃないかって」

「……マジ? いや、お前の感知は信じてはいるが……」

「だからその、さっきから言ってる姪っ子さん本人じゃねぇんですかい?」



 オジサンの話を素直に聞いた伝説の冒険者である〈竜星〉は、目をキョトンとさせつつ、喋るのをやめてロナの顔を覗き込もうとした。

 それに合わせて、ロナも顔を上げる。

 ……二人の目がバッチリ合った。



「あ、あの……。お、叔父さん……」

「ろ、ロナ……!」




◆◆◆




「はい、紅茶です~っ」

「すまんな」

「ありがとう、お嬢さん」



 叔父さんとオジサンの分の紅茶が運ばれてきた。

 大人しくなったおっさん二人組は今、俺達と対面するように席についている。


 ちなみに老婦人はこの話し合いが長くなると見越して、他の客が来ないように店仕舞いをしているところだ。

 追い出されなかったことと、その気遣いに深く感謝しなきゃな。


 さっそく叔父が、一口だけ紅茶を飲んでから話を始めた。



「ふぅ……。さて、まずはなんと言うべきか。久しぶりだなロナ。三年ぶり? いや、前に里に戻ったのはコイツを相方にする前だったから……そうか、もう四年経つのか」

「う、うん。ほんとに久しぶり……」

「そんなに帰省してなかったんすか旦那」

「オレ様は超人気者の英雄様だぞ? 忙しくってそんな暇なかったのは貴様も知ってるだろう」



 まあ、そりゃあそうだよな。

 俺みたいな田舎者でも知ってるような人だし……。



「いいや、その忙しいのうち半分以上の時間はダンジョン巡りか自己満足のケンカでさぁ。依頼なんて滅多に受けてない」



 え? マジかよ、なんだそれ。特に喧嘩が意味わからない。

 それでいいのか、英雄扱いの人が。



「ま、まあ、そういうこともある。そもそもここから遠すぎるからあんまり帰りたくないんだよ」

「えぇ……」


 

 ……さっき竜族をとても大事にしているかのような発言をしていただろうに、これらが本音か、本性か?


 いいのか、こんなところで本心を出してしまって。

 ロナっていう身内がいるから安心してるのか、そもそもこういう性格なのか……いやぁ後者っぽいな、どうも。


 俺の中の『伝説の冒険者』イメージがちょっとずつ崩れていく……。



「にしても、本当に大きくなったな色々と、え? 前に会った時なんてまだまだこーんな子供だったのに。まあー、義姉に似て随分と美人になったもんだ。どうせ、あの里に引きこもってる兄貴を中心とした古臭い田舎者共じゃあ、その顔の価値もわからんだろうが」

「あ、ありがと……」



 そうか。叔父がいうならもう間違いないだろう。

 やっぱりロナの故郷の竜族はこのあまりにも可憐で美しい顔の良さがわからないらしい。


 美しいものを美しいと思えないとは、ちょっぴり可哀想だな。

 叔父は理解があるみたいだが……あれだ、都会に長く居て価値観が変わったのかもしれな──── 。



「……そうそう、今いくつだ? なァ、ロナ?」



 ……ん?

 年齢の話が始まった途端、急に雰囲気が変わったぞ。声色も、表情もだんだんと……なんだ、年齢に問題があるのか?



「たしか、少し前に誕生日の手紙出したばっかだから十六歳だったか。大きくなったとはいえ、まだ酒は飲めないんだな。……なァ、そうだろう? それで間違いないな?」



 おいおい、もはや威圧感を通り越して殺気すらこもっているような、そんな気迫があるぞ⁉︎

 第三者なのに、まるで俺が尋問されているような気分だ。



「だ、旦那?」

「……っ」



 叔父は持っていたティーカップをそっとおくと、本物のドラゴンのような黄色い眼から、ロナに鋭い視線をぶつけた。

 そして、淡々と……しかし攻めるように呟く。



「……十八歳未満は里を出てはならない。そういう決まりだったな。あの兄貴がそれを許すはずもないから、家出したんだろう?」



 その問いに対し全身をこわばらせているロナは、ほんの小さく、弱々しく頷いた。







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