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第76話 彼女と後ろめたさ

「ま、マジかよ……!」



 ああ、なんということだ。こんなことってあり得るかよ⁉︎ いや、あり得ないだろ普通! 

 しかもここ密室だぞ、逃げ場なんてないんだぞ⁉︎



「……おじさん? なんだい、うちの曾孫が連れてきた奴はアンタの叔父だってのかい?」



 老婦人の問いに、ロナはコクコクと頷いた。


 マジか……あぁ、マジかおい。

 まさかこんな事態になるとは。無理にでもロナだけ先に宿に帰すべきだったな、こりゃあ。


 それとも、美術館とこの店の場所がロナの叔父の居るギルドの近くって時点で、こうなる運命だったのか? 


 いや、そもそも店主に別の場所を聞けば良かったよな。

 クレバーじゃない……クールでもないっ……!


 ああ。クソ、今になって反省しまくってもキリがないぜ。



「おやまあ、叔父と会うったって何か問題があるのかね? ……ふむ。この外からでも伝わってくる気迫。魔力の膨大さ。そして、お嬢ちゃんの身内なら竜族か。 ……〈竜星〉だね」

「……っ!」



 ロナは返事の代わりにピクリと体を震わせる。

 それを見て、老婦人は面倒くさそうに肩をすくめた。



「あーあー、どうやらそのようだね。まぁ、あの冒険者は『百獣のレオン』所属だって言ってたから、もしやとは思っていたが。とんでもないのを連れて来たもんだよ、まったく。 ……で? 〈竜星〉と会うとそんな顔色を悪くするほどヤなことがあるのかい? たしかに面倒臭い性格はしてると聞くがね」

「……そ、それは」



 そうこうして話をしている間にも、この店の扉についてる鈴が鳴ったようだ。こちらに向かう団体の声もすぐそこにある。


 ロナも、諦めたのか拳をぎゅっと握り締め、塞ぎ込んだ暗い顔のままその場から動こうとしない。


 ……そんな彼女を、老婦人は品定めするように覗き込んだ。

 そして、何かに納得したように軽くため息をつく。



「なるほどね。その様子じゃあ、お嬢ちゃん自身になにか後ろめたいことがあるんだね。怒られるのを恐がってるわけだ?」

「は……はい」



 エルフの老婦人の見透かしたような一言に、ロナは素直な返答をした。


 そうか……やっぱりそういうことだったのか。

 昼間、カフェでの相談中によぎった俺の勘は当たってたってわけだ。


 大人しくて、義理堅くて、仲間思いで……こんないい子が何をしたんだろうか、一体。


 腹を空かせて、身体まだ危険に晒して、なんなら死にかけてても会いたくない。それほどに後ろめたいことってなんだ?


 いや、とにかくこうなってしまったのなら仕方がない。


 ひとまず、ロナ自身が悪いって認めてるなら俺が変なことをいわない方がいいだろう。火に油を注ぐことになってしまう可能性もある。


 ただ、いざって時に絶対の味方としてフォローくらいはできるような心構えでいようじゃあないか。



「はてさて、この場で何が起こることやら……」



 ああ。老婦人の言う通り、相当なことになりそうだ。


 この場で大喧嘩になって、その流れで、俺たちが二度と会えないようにされてしまう可能性も考えた方がいいかもしれない。

 イヤすぎる。それはだけは絶対に回避しないと。

 

 ところで一行は今はカウンター前だろうか? もう全員の声がはっきりと聞こえてくる。



「最後にもう一度訊くがな、小娘。本当にそいつらは黒鍵を持っているんだろうな?」

「流石にしつこいっすよ旦那ァ、これで十回目! エルフのお嬢さんってば何回もそう言ってるでしょうに」

「ううん、いいのいいの! 欲しい宝具が手に入る直前の人って、そう言う反応すること多いし……! そ、それより私ももう一回お願いします~! サイン! あとでサインをください~っ‼︎」

「ハハハハハッ! 十二回目だなそれは! だが何度でも答えてやる。いいだろう、このオレ様のサイン……あとでしっかりと描いてくれるわッ‼︎」

「わ~い!」



 ああ、こっちと違って向こうは随分とほのぼのしてるな……。

 しかしな、今のだけ聞くと叔父さんは本当に悪い人ではなさそうだ。声はデカいが。



「……じゃ、出迎えてくるかね。二人はそこで待ってな」



 老婦人は騒がしい声に再び肩をすくめながら、この部屋から出ていった。


 よし……一瞬だろうがロナと二人きりになれたな。

 ここで俺とロナ、仲間 兼 友達として短くともしっかりと話し合いをしておくべきだろう。



「なぁ、ロナ。もう、逃げなくていいのか?」

「逃げ……⁉︎ あ、うん、でもそうだよね、逃げてた、ね。でも、もうこうなっちゃったらどこも行けないし……あ、あのねザン」

「ん?」

「もしかしたら私、故郷に連れ戻されるかもしれない。い、嫌だ……嫌だけど。でも、その、もしそうなったら……ど、どうしよう? 私……っ!」



 彼女は今にも泣き出してしまいそうな、哀愁漂う表情を浮かべている。……そうかロナも、そんなに俺と離れるのが嫌なのか。


 ああ、超がつくほどの美女にここまで(した)われてるってのはいいもんだ。

 

 おっと……ちょっと浮かれてしまいそうだが、それはクールに我慢だ。そう言う時じゃあない。



「まあ、どうなるかはわからない。全部は結果次第だ。俺だってロナみたいな、魅力的なレディと離ればなれになりたくないさ」

「はぇ……! う、うんっ……」

「だがな、親戚をずっと避けて通るわけにもいかない。そして謝るべきことがあるなら、そうすべきだ」

「……ん」

「なぁ。俺達はたった二人の仲間だし、友達だろ? いや、修羅場も一緒にいくつか潜ったし、もう親友で間違いないかもな……?」

「う! うんっ!」

「だから、親友として。どうであれ……完全に結果が出るまでは、全力で応援するさ。大丈夫だ、俺がついてる」



 そんなキザなセリフを言いつつ、彼女の震えている手を握ってみる。ロナは目を赤くしながら、それを優しく握り返してきた。

 ちょっと込められてる力が強い……それほど不安なのだろう。


 その後、すぐに複数の足音がこちらへとやってきた。



「さ、こっちだよ。取引を望んでる相手が待ってるからね」

「ああ、案内と紹介に感謝するぜ婆さん! 後輩共も宝具でちょくちょく世話になってるみたいだしなッ!」

「なんだい、もっと偉そうかと思っていたよ。案外素直だね」

「当然! 竜族は誇り高き種族。それゆえに言うべき謝辞はしっかり言うのだッ! ナーッハハハハハッ‼︎」

「誇り高き……ね。ま、アンタはそうだろうね。あと偉そうなのは間違ってなかったね」

「ハハハハハッ! いいおるわ!」


 

 ついに、この部屋の扉が再び開かれる。


 老婦人とレディ、そして本来の依頼人らしき冒険者と共に現れたのは、間違いなく、ここに来る前に見た全体的に蒼い竜族の男だった。


 そして雑誌の中ではあるが、俺が人生で初めて竜族を認識したのも、やはり彼で違いない。


 ド田舎である俺の故郷、そんな場所でも余裕で名前が知れ渡っていて……。


 生きる伝説と言ってもいいほどの冒険者であり、世界全体で見ても確実に最強の一角に君臨する、そんな人物。


 その名は、ザスター・ドルセウス。


 まさかその本物に、こうやって出会う日が来るとはな。

 それもこんな形で。


 そして、ロナはその姪っ子なんだろ? 世の中って案外、狭いのかもな。






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