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第67話 俺と彼女と相談タイム

「わー、きたぁ!」

「お、美味そうだな」



 早く用事が済んだので、黄色い屋根の店から出た俺たちは、作戦会議をするために近くのカフェに足を運んでいた。


 ロナの前に、彼女が注文したホワイトベリーパイがまるっとワンホール置かれ、こちらまでシナモンの香ばしさと果実の甘酸っぱさが合わさったい~い匂いが流れてきて鼻をくすぐってくる。



「一切れ食べる?」

「んー。いや、やめとくぜ」

「そっかー」



 正直これを前にしたら腹が減ってくるが、時刻はまだランチタイム前。一切れだけ食べたら中途半端に腹が膨らんで後々ちょっと面倒だ。


 まっ、ロナが幸せそうにパイを頬張る姿に見惚れているだけで我慢するとし……いや、それも違うな。そもそもこれは作戦会議。相談以外のことは考えないようにすべきだな。


 本格的に見惚(みと)れて何も喋れなくなってしまう前に、さっさと本題に入ろうじゃあないか。



「まあ、食いながら聞いてくれ」

「ふん」

「まず俺らの約束通りだと、得た収入は基本的に貯金したあと山分けするだろ?」

「ふんふん」

「二つの宝具を売ったら本当に一億ベルが得られるとして……それも同じ比率で分け合うか? それとも、今回は特別にその全額を家に注ぎ込むか?」

「んっ……ごくん。お家の方で!」

「ま、そう言うと思ったぜ」



 ロナが特例の方にイエスと答えるのはわかっていたが、あえてかしこまって質問させてもらった。


 金銭のやり取りのルールに例外を作ったら、それがモトで争いになる可能性がやや上がるからな。そうならないためにもクールな確認は必要なのさ。


 俺とロナが金のことで争ってる姿とか全く想像できないが……慎重に物事を決めたほうがいいのはたしかだよな。



「で、もし家を買えたら今までしていた貯金はどうする? 俺はいざと言う時のために、このまま続けていいと思うんだが」

「そだねぇ……たくわえはあったほうがいいもんね。あむっ」

「じゃあそうしよう」



 ま、金についてはこんぐらいで十分か。

 優雅にスイーツを堪能しているレディに対して、金の話をし続けるのはノットジェントルだろうし、さっさと次の話題に変えよう。



「それで午後の予定はどうする? このまま国営取引所とやらに行ってみるか?」

「んー、そうだね……」



 これなは、彼女は少し悩む素振りを見せた。

 やはり、その付近にある『百獣のレオ』というギルドになんか因縁あるのだろうか。

 でも絶対に嫌というわけではない様子だが……な?



「うーーん……」

「まあ、店主に紹介してもらった個人店の方でも別にいいんだ。そっちを先に見に行くか?」

「や、別に国営取引所でも全然いいの。ただちょっと、その近くにある『百獣のレオ』に親戚が居てね……? 今はちょっと会いたくないから、その近くの道を避ける形になっちゃうかも」



 あ、根掘り葉掘り訊かなくても自分から話してくれた。

 そうか、ギルド自体に問題があるわけじゃなかったか。


 ……『百獣のレオ』ってギルドは国随一の猛者揃いだと、俺みたいな田舎者でも聞いたことがあるほどのところだ。

 戦闘民族である竜族の一人や二人は居たっておかしくないだろうな。


 ま、親戚に顔を合わせ辛いってのは、十六歳の思春期のレディなら別に変わった考えでもないさ。

 


「まあ、そう言う時もあるよな。もしかしてその親戚って例の叔父さんか?」

「うん、そうなの。よく分かったね」



 おおー、可能性の一環としてとりあえず言ってみたんだが、当たっちまったか。俺ってば今日もクールに勘が冴えてるな。


 ……だが待てよ、そもそも叔父さんの居場所がわかってるなら、なんで俺と出会った時に行き倒れになんかなっていたんだ、ロナは。


 あんなに切羽詰まった状況だったんだ、その叔父さんを頼ればよかっただろうに。

 というか普通はその選択肢しかしないはずだろ? 多少の恥は忍んででもな。


 今の様子と、過去の話からして、その叔父のことを今も嫌ってはいないみたいだ。……だが頼れないし、顔も合わせられないときたもんだ。

 

 これは叔父が問題なのではなく、もしかするとロナ自身に後ろめたいなにかが……? うーむ。

 とりあえず、今回はお望み通りに例のギルドを避けていこう。

 


「あー……わかった、じゃあ都内移動の馬車に乗って、直接、取引所でおろしてもらうようにお願いするか」

「その手があったね! じゃあそれでお願いしまーす」



 ロナはニッコリ笑ってそう言うと、いつのまにか最後の一口になっていたホワイトベリーパイを一気に口に入れる。

 

 この可憐な笑顔の裏に、何かがあるのか?

 友人ながら、俺は彼女の過去について全く知らないからな、なんとも言えない。


 とはいえ、ロナも俺の過去について家族構成くらいしか知らないし、彼女に言えない秘密はいくつかある。そこはお互い様ってやつかもしれねーな。



「ごちそうさまっ」

「よし、じゃあさっそく行くか」

「うん!」



 カフェを出てから、さっそく近場で都内用の馬車を捕まえる。


 この王都は一つの街とは思えないほど広い。例えばここから城まで普通に歩こうとすると二、三時間はかかる。

 だから、馬車のような移動手段があるんだ。ちなみに俺はまだ一回しか使ったことないぜ。


 ただ、仕組みもまだ全部は理解してないけど、意地でも紳士的にロナを華麗にエスコートするのさ──── 。



「カップルさん達、どちらまで?」



 ……ジェントルにロナの手を引きながら、車内へエスコートしている様子を見られたからだろうか。

 乗り込んだ馬車の御者のおじさんにそう言われてしまった。


 まあ、俺達は年頃の男女だ。そのような関係に見えることは想定の範囲内だからな……ドキリとはしたが、否定することも戸惑うことはなく、俺はただ目的地だけをクールに告げるとしよう。



「国営の宝具取引所まで頼む」

「あいよ」

「か……カップル……ざ、ザンと……はわわわわ……!」



 おっとおっと、ロナはクールじゃいられなかったようだな。

 いやはや……相変わらず可愛すぎるな、このレディは。これだけ可愛いならきっと、俺の何かあるなんて予想もただの杞憂(きゆう)なんだろうな。うんうん。









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