第59話 俺達と三つ目の隠し部屋
「はっや……」
「えへっ!」
ロナは自慢げに微笑んだ。
その眩い笑顔に見惚れてしまいそうだ。
ああ。とにかく、だ。
三連続の〈月光風斬〉により、このダンジョンのボスとしてたちはだかってきた剣を持ったイカ二匹は一瞬で姿を消した。
あとに残ったのは、少しの残骸とダンジョンの出口、金色の宝箱だけ。あっという間にクリアしてしまったわけだ。
なんとなくだが、数時間前に見た〈月光風斬〉よりも少しだけ、一発一発の威力が高かったような気がする。
こりゃあ、街に帰ったあとに、ロナのステータスを確認するのが楽しみだ。
「ね、ザン。今回はもう帰る?」
「あー、どうすっかなぁ」
ロナが俺の顔を心配そうに覗き込みながらそう提案してきた。
たしかに今の俺は疲れている。早く帰って、寝てしまってもいいかもしれない。
だが、『ラボス』の隠し部屋への光は、今回も出現しているんだ。
なんか……こうも毎回毎回、隠し部屋があるとアレだよな。
実は全てのダンジョンにきちんと隠し部屋はあるんじゃないかと思えてくるぜ。
マジで隠れた場所にあるから、見つけられること自体が稀なだけでさ。
とにかく、ここまで来たんだ。強い魔物の経験値と内容物の良い宝箱、どちらも回収しておかなければ損だろう。
「ま、あと一匹倒すくらいなら……」
まてよ、今、一気に俺の身体に元気が取り戻せそうないいことを思いついた。
うーん、レディにおねだりなんて紳士としてどうかと思うが……試してみる価値はあるだろう。というか試したい。
「あー、いや、そうだな……。もし、もしだぜ? ロナみたいに超弩級な美しさを持つレディに励ましてもらえれば、疲れなんて全部吹っ飛んじまうかもなぁ?」
「ふぇ? そうなの? 私なんかの応援でいいの?」
「ああ、最高だろうな。間違いなく」
「そ、そっかぁ……」
おかしな要望だと思われたのだろうな。ロナは少し頬を赤らめながら戸惑っている。
しかし、やる気になってくれたのか俺に目線を合わせたあとちょっぴり頷くと、意を決したような表情を浮かべて真正面までやってきてくれた。
そして俺の顔の前で、手を振り出した。
「が、がんばってザン! ふ、フレーフレーっ……!」
「………ッッ‼︎」
かっ、可愛ッ!
か、かわわ……かわッッッッ‼︎‼︎
ふー、落ち着け俺。
今一瞬、明らかに頭の中がパーっと真っ白になってしまった。
だが、しかし! 狙い通りだ、体の中から熱気が込み上げくるのがはっきりとわかる!
今の俺ならSランクの魔物だろうが一人で倒せそうな気がするぜ。
「ありがとうな、ロナ」
「今ので良かったのかな?」
「完璧だ。萌え上がったぜ……紳士的にな」
「そ、そっか!」
「ロナはどうだ、準備は万端か?」
「うん、だいじょぶ。いけるよ」
「よっし、じゃあ突入だ。この紳士に任せてくれ!」
「本当に元気出たみたいだね……!」
俺は紫の光が指す方向まで赴き、そこにあったほぼ壁の色と同じ魔法陣に手をかざす。
足元に水色の光の塊のようなものが生成されたため、すぐさまそこに足を乗せ、ダンジョンの隠し部屋の中へと湧き上がる勢いのままに入り込んだ。
◆◆◆
……中は、暗い。いや明るいのか?
正直どっちが正しいか分からない。
今までと同様に、窮屈な場所ではないのだけは確かだ。
少し肌寒い。空が歪み太陽がぼやけているからだろう。
そして、あたりの地面らしきものに生えているのは、見たこともない草や岩ばかりだ。
なにより一番不思議なのは、呼吸をするたびに顔から気泡が現れては、上に登って消えるんだ。
美しいとも、寂しいともとれるこの空間……俺のクレバーな予想が正しければ、おそらくは海中を模しているんじゃないかと思う。
海とか行ったことないから、その答えに自信はないけれど。
「わ、なんか不思議っ……! え、泡? なんで……」
「おお、来たかロナ。たぶんここ海の中だぜ」
「なるほどー」
なんにせよ、水中に見立てていることだけは確かだろう。
とにかく本物じゃなくて良かったぜ。いきなり水の中に放り込まれるなんて、鬼畜としか言いようがないからな。
「水のせいで動きが制限される、みたいなことは無いか?」
「ん、ないよ。口から泡が出ること以外は普通」
「よかった。なら、あとは迎え撃つだけか……」
そう呟いた、その瞬間だった。
俺とロナの真上に上から差し込んでくる光を遮るように一瞬だけ、巨大な生き物の影が落ちた。
揃って真上を見上げると、やはり何かが泳いでいるのが見える。
ただ俺からすれば、何かが動いているという情報しかわからない。それほどの速さ。
やがてそれは辺りを一周した後、この暗い空間の奥に消える。
そして改めて、正面から姿を表した。
それは一匹の巨大な魚類。
刃のような歯、戦斧のようなヒレ。
薄く水色に輝く皮膚に、紅玉のように真っ赤な眼。
そして何より目を奪うのは、鋸山状ではあるものの、まるで名匠が神秘的な鉱石から作り上げた大剣……のようなものがついている鼻だった。
芸術性と凶暴性を兼ね備えているソレは、俺たちをじっくりと、品定めでもするかのように眺めている……。
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