第53話 俺達と一段落
「本当にもう、行くんだ……ね」
「ああ、世話になったぜレディ」
ギルド、『リブラの天秤』。
その本館の入り口で、俺達は『ヘレストロイア』を含めた、そこに所属する数多くの冒険者達に見送られていた。
《大物狩り》と戦ったその日から今日までの四日間、このギルドに滞在させてもらっていたんだ。
しかも色々とかなりの好待遇でな。特に客室が豪華だったんだ、ソファとか。
滞在している間は、五人に呪いの後遺症がないか様子見をしたり、憲兵からの聴取を受けたりと、あんまりのんびりしてる暇はなかったが……ま、退屈もしなかったな。
ギルドメンバーの可愛いレディ達ともたくさん居てお話しできたし。
「しっかしよ、マジでウチに所属しないのか? お前らならオレは大歓迎だぜ!」
「そうだそうだ!」
「可愛い子が増えるのは大歓迎だぞ!」
「す、すみません! や、やりたいことがあるので……私っ……」
リオの何回目からわからないその誘いと男冒険者共の声に、ロナは少し口をまごつかせながら返答をした。
五人の魔力欠乏状態が治ってすぐ、俺がロナを口説こうとしてるところへ間の悪い登場をかましてくれた、この獅子族の男。
コイツがあのタイミングで訪ねてきたその理由は、俺への呪いが治った報告と、このギルドへの勧誘だった。
その時「考えさせてほしい」と言って濁したのが悪かったのか、それ以降ずっと顔を合わせるたびこうして誘ってきやがるのだ。
一応、俺とロナの二人でそれについて相談し、結果、コンビの目標や方向性を決めたばかりだから、という理由で断ることになった。……いや、それは俺の中では表向きの話だ。
本当は、ロナが人の多いところが苦手みたいだからそれを気遣ってだな。
この四日間も、俺とドロシア嬢とカカ嬢の三人にしか自分から話しかけず、他の人に話しかけられても基本的にオドオドしつつ俺に救いを求める顔を向けてきたんだ。
俺が先に誘いを断ると言ったところで、ホッとしたような様子も見せたしな……。
二人っきりじゃ見られない彼女が見られたのはいいが……逆に、よく今まで俺と普通に話せてたもんだぜ。
ま、きっと俺がイケメンでジェントルマンだからだな。そうに違いない。
だから、まぁ。これからも俺はできるだけ、彼女が寂しくならないように付き添い続けるのさ。
「こーら、リオ! 二人に迷惑かけたらダメなのですよ、大事な恩人達なのですから」
「だな。あの日だけで我々はいくつ、彼らに借りを作ったんだ?」
「まあ、無理に返そうとしなくてもいいぜ。特にレディ二人はな。俺のレディへの奉仕はプライスレスだ、ぜ」
ヘレストロイアのうち三人を励ますのに夢中になって、そのあとすぐ《大物狩り》から皆んなを守るのに夢中になって……。
そんな感じで、この紳士でも内心へばってしまうほど忙しかったから、その借りを作った俺とて、いくつ恩を売ったかもはやわからない。
わからないもんは返さなくてもいいだろ?
ま、これは売った側だからこそ言えるセリフだがな。
そんなことより、俺としてはこの四人が《大物狩り》との一戦を終えた後も、再び落ち込んだ状態に戻らなかったことが喜ばしい。そっちの方が大切だ。
Sランクの冒険者が四人揃って、格下の人間に守られるなんて、プライドが崩れちまうんじゃないかとちょっと心配していたんだ。杞憂だったみたいだがな。
四人揃って、悔しい思いをするより罪悪感を背負う方が苦しいタイプの優しい人間だったってところか。
しばらく一緒の建物で過ごしての得た感想だから間違いない。
特に、俺に助けを求めてきた本人であるドロシア嬢は、回復しきってからの三日間はずっとニコやかに過ごせていた。
仲間とのやり取りに微笑む彼女……笑みを浮かべる美人ってのはどんな花よりも美しく、そして、その表情こそが俺への最高の恩返しなんだよな。
「だーっ、まーたそんなことカッコつけたこと言ってやがる……!」
「リオもそういう気の利いたこと一つや二つ言えるようになるのですよ」
「んだとぉ⁉︎」
「無理。リオとザン君は違う……。二人とも優しい。でも気遣い、ザンくんが圧倒的」
「ああ、それは間違いない」
「んだよ、三人揃ってぇ!」
このやり取りに、ドッと、ギルドメンバー達が笑い出した。
……この雰囲気がこの間まで俺の一件で失われていたんだ、必死に取り戻したくなるのもわかる。
呪われる前、このギルドを選んだクレバーな俺の目利きは、やはり悪くなかったようだ。
つまりはロナと一緒に冒険をし続けるって決断もまた、俺にとっても良い選択になるってことになるよな? いいや、そうして見せるさ。
「ははは、まぁ……別に今生の別れってわけじゃないんだ。どうせこの街に居るし、何か用があれば気軽に訪ねてくれよ。な?」
「うん、そだね!」
「ありがとう、でも……それは……こっちのセリフ。何か困ったことがあったら、言って。今度は、私達が……助けるから」
「そうそう、二人は今後、ウチに出入り自由なのですよ! ギルドマスターにも話通してあるのです」
「マジで? じゃあ何かあったら寄らせてもらうか」
立ち去ろうとしてから、またしばらく話し込んでしまったか。
まあそういうのも悪くないか。
だが許されている雰囲気とはいえ、人ん家に長居ってのもまあまあジェルトルじゃない。そろそろおいとまさせてもらうぜ。
「じゃ、そろそろ行こうかロナ」
「うん!」
「じゃ、またなレディ達……」
俺とロナは手を振るギルドの面々に背を向け、この建物から出た。
さて、これで明日からまた、俺とロナのダンジョン巡りをする生活を再開させられるわけだ。
ステージ星5つやら、家を買うお金やら、目指すものはまだまだ先にあるが……問題ない、窮地を一つ越えられた俺らなら、確実にやれるさ。
◆◆◆
「ね、ザン」
「なんだ?」
しばらく留守にしてしまった、宿に戻るその途中。
隣にいるロナが、俺の顔をその黄色い瞳でじーっと見つめながら、不思議そうなものを見るような表情を浮かべ、話しかけてきた。
「ザンって、もしかして……すごい人?」
「え、ああ……そりゃあ俺は言っちゃなんだが、中々キマってる男だとは思うぜ? でもどうした急に」
今までだってロナは俺のことを褒めてしかいないが、とりわけ今回はかなり改まってるように感じる。
そんな彼女はポツリ、ポツリと言葉を続けた。
「あの、え、えっとね……? ザンって自分が辛い状況でも、周りを率先して助けるよね? 私も助けてくれた時もそうだし、今回のこともそうだし……。そして助けた後、感謝されるのは受け流そうとする、でしょ?」
「んー、まあ……な?」
そういった見返りを受け取らないのはレディ限定なんだがなぁ……だがそうか、ロナは俺のカッコいい姿しかまだ見たことないのか。
ま、そもそも俺にカッコ悪い姿なんてあんまりないんだがな?
だって紳士だし? そんでもってクレバーでイケメンなのも目立っちゃうよなぁ。
なんて、ナルシストなこと考えてるとは知らないであろうロナは、俺の顔をさらに凝視しながら、目を一際輝かせ始める。この感情は……憧れか?
「なんかザンって、御伽噺の中の勇者とか救世主とか英雄とかの伝説の主人公みたいだなって、思ったの」
「ほう?」
「もしかして昔は……呪われる前は、そういった称号があったんじゃやいかな! どう?」
……そう来たか。
偉人並みの人物だと思ってもらえるのはありがたい。だが、それはまたちょっと違うんだよな。
これは譲れないことなんだ、あくまでも────。
「なに……俺はただジェントルなだけさ。呪われてもそれを忘れなかった。ただ、それだけだよ」
帽子を深く被り直して、俺はそう答えた。
第一部 完
ここまで閲覧、そして応援等ありがとうございました‼︎
しばらく、三日ほど空いてしまって申し訳ありませんでした、この話を書くのに行き詰まってしまって……。
何かしらの区切りを書くのって苦手なんですよね……他作でもそうでした、最終話手前で行き詰まるんですよ(笑)
克服が必要ですね└( 'ω')┘ムキッ
ここからしばらく「閑話(◆)」や「解説」を十数話挟んで、構想を練った後に第二部に移行したいと思います。
どうぞお楽しみに!




