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第39話 俺からの熱烈なプレゼント

「な、何か気に食わなかったか?」



 俺がそう言うと、ロナは首を横に振った。

 


「考えてみてよ、その宝箱、数千万ベルの労働の対価にザンが貰ったんだよ?」

「ああ、そうだな」

「ダンジョンに入って、私と一緒に手に入れたって訳じゃないもん。私何もしてない。だから、貰うことはできないよ」



 ああ、なんだ。そういう話か。

 すっかり宝具は全部分け合うものだと思っていたから、頭が混乱してしまった。クレバーじゃなかったぜ。


 でもなぁ……ロナの分として分けたこの札二枚と指輪は貰ってくれた方がなんやかんや助かるんだよな。

 竜族の誇りやらなんやらで難しいのかもしれないな、それも。

 

 よし、それこそ紳士的に対応してみるか。



「たしかに言われてみたらそうだな」

「ね? それにもう、ザンには一生で返しきれないほどたくさん恩があるだもん。これ以上、恩は重ねられないよ」

「ま、俺は紳士だからレディへの奉仕はプライスレス。感謝の一言で十分なんだが……そういうことなら仕方ない。じゃ、この宝具は全部、俺の好きにさせてもらうぜ?」

「うんうん」



 宝具は俺の好きにしてもいいとのことなので、本当に好きにさせて貰おう。


 俺は自分の鞄の中から、故郷から持ってきたレターセットの封筒だけを取り出した。

 レディをお手紙で口説くことがあるかもしれないからと用意したものだ。


 その白い封筒の中に、札二枚と指輪を入れる。

 最後に赤い(ろう)で閉じ、これで簡易……じゃなくて紳士的なプレゼントセットの完成だ。


 ロナ、しっかりと見ているといい。これが紳士のやり方だ。

 


「ザン、なにして……」

「……」

「ザン?」

「おおっと⁉︎ こんなところになんて麗しい淑女が居らっしゃるんだ!」

「えぇ?」

琥珀(こはく)のような(きら)びやかな眼、エルフも裸足で逃げ出すような愛くるしい表情……! そして紅く情熱的で美しい髪! ああ、貴女のようなレディを前に夕焼けの輝きすら劣って見える……」

「ふぇ……え? どうしたのザン?」

「そんな君に、俺は心を奪われた」



 目を丸くしてオロオロして戸惑っているロナ。

 そんな彼女の手を優しく取りつつ、片膝をつき、帽子を深く被り直した。


 ジェントルにレディを口説く方法ってのを、俺はこの半生、常々考えつつ練習もしてきた。

 ある時は一人で演じ、ある時は妹達に手伝ってもらい。

 

 王都に来てからは、たくさんのレディ達とフレンドリーな関係になるために多用しようと考えていた。

 

 その運用の第一号がロナとなる。ああ、相手にして不足はない。

 正直、今言ってることほぼ全部本心だしな。

 今の俺はサイコーに紳士的だ。たぶん。



「ああ! 世の中には美しい女性に惹かれるあまり、財産を投げ売って贈り物を貢ぎ続けるという愚か者も少なくない。そして、そう! この俺も! そんな愚か者の男の一人だったようだ」



 ロナの手のひらに封筒を置いた。

 そして、両手で彼女の手を包み、封筒をしっかりと掴ませるように誘導する。



「これが精一杯の、プレゼント・フォー・ユーさっ!」

「いや、でもこれ数千万ベル……」

「数千万ベル、数億ベル? そんなものは惜しくはないさ、君が喜んでくれるなら! ……ってな、これが一流の紳士のやり方だぜ、ロナ。ジェントルを甘く見たらいけない」



 最後に一礼しながら立ち上がって一歩下り、俺と彼女の身が向かい合うように構えれば、一連のジェントルな演劇も幕を下ろしだ。



「さ、俺は言った通り、好きにしたぜ」

「あぅ……そうみたいだね……」

「あーあー、好きにしていいって言われた数億ベルするかもしれない宝具を、すごく可愛い女の子へのプレゼントに使っちまったぜ。こりゃあ俺はどうしようもない愚か者だな。そう思わないか?」

「ふ、ふふっ……うん、そうだね! 私もすごくかっこいい人からたくさんプレゼント貰っちゃった!」

「そりゃ、よかったな」



 彼女は微笑みながら、俺のプレゼントの封を丁寧に開ける。

 受け入れた……よし、これで目的達成だな!

 

 ただ、やっぱりそれでも強力な効果を持つ『ライフオン=オルゼン』の札には躊躇(ちゅうちょ)してしまうようで、ロナはそれを眺めつつ眉をひそめた。



「でも本当に、覚えていいんだよね? 私が、この究極魔法」

「プレゼントされたものはロナの好きなようにするべきだが、貢いだ男はおそらく、覚えて欲しくて渡したんだろうなぁ」

「そ、そうだよね!」



 札二枚の紋様が、覚悟を決めたような表情を浮かべているロナの額に吸収されていく。

 ……やっぱり俺が育たなくなった分、こうしてロナを強くしていくのは楽しいもんだ。嬉しくもあるし、気持ちと気分もいい。



「あとはこれだね」



 最後に、ロナは俺の渡した白い指輪『メディロス』を左中指にはめた。


 今の彼女は湯浴びから上がったばかりで、『リキオウ』を身につけておらず、素手だ。

 白めの細い指に、白と赤い宝石の指輪が非常に映える。


 装飾品とは本来強くなるためのものではなく、女性をより美しく彩る物だ(あくまで俺の考え)。それを再確認できたぜ。


 だが、待てよ。

 俺はまたロナと無意識に指輪のやり取りをしてしまったんだよな、今。


 それも『ソーサ』の時とは一段と違う、愛を(ささや)きながら、熱烈に、数百万から数千万する指輪をプレゼントしたわけだ。


 うーん、これはそう、まるでプロポーズ。

 ま、ロナは俺と違ってそこらへん(うと)いから、今回も気にしていないだろう。


 

「えへへ……」



 ロナは指輪を見つめながら、嬉しそうに微笑んだ。

 ……おいおい、もしかしてこれ、脈アリだな……⁉︎






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