第34話 俺達と取引 前編
「まいど、ありがとうございました」
「……ああ、こちらこそ」
金貨で鞄が重い。
紳士故に顔には出してないが、今背中に鞄とハンマーと盾が括り付けられてるから、背骨や肩が悲鳴をあげていてきついぜ。
さっさと帰って一休みしたいところだが……店主が何やら話しかけてきたそうにしている。
「お話、よろしいですか」
「もちろん、いいぜ」
と、答えてしまったので床に荷物を全て置いた。
羽が生えたかのように身体が軽い。
「お二人は解散なされるとのお話でしたが、その件はどうなったのです?」
「店主さんにそのこと話してたの? ザン」
「ああ、少しな。結論から言うと解散は無しになったんだ。色々あってな」
「ほほう……色々、ですか」
店主は俺とロナの顔を交互に眺めると、意味ありげに頷いた。
これはあれだ、色々の部分に恋だのラブだのを含ませて捉えたな?
まあ、口に出してないしどう考えるかは勝手だ。
それに、そのうち本当に付き合うかもしれないし、な! ……なっ!
「ということは、今後もダンジョンを攻略したりして、そのあとは私の店で、取引なさってくださるのでしょうかね。なんちゃって、ふほほ」
「はい!」
ニヤニヤしながら自分の手をモミモミしている店主に対し、ロナは元気よく返事をする。
別にずっとこの店にこだわるつもりはなかったんだが、まあいいか。
「そうですかそうですか! では良ければステータスカードを拝見させていただきたいなと」
「わかりました! はい、どうぞ」
「ええ、ありがとうございます」
ロナのステータスを見て、すぐに店主は口を開いた。
「ロナさんと仰るのですね。なっ……なんと、『究極大器晩成』を⁉︎ 非常に珍しく、同時に強力だ。いやはや、よく試練の時期を乗り越えましたなぁ!」
「その……実は全部、ザンのおかげなんです! ザンと会うまでは私、全然で……」
「ほほう」
店主、今度はニヒルな笑みを浮かべた。俺に向かって。
……どうせさっきと同じこと考えているんだろう。
とにかく、そのあとも感嘆の声を漏らしながら、店主はカードを読み進めていったが、ロナの称号の欄に目線を移したところでロナ自身と、ある称号を交互に二度見し始めた。
その称号はおそらく【大食嬢】。
ああ、その気持ちは非常にわかるぜ。見た目だけじゃ、ロナは食欲旺盛に見えないものなぁ。
「ほ、ふほほほ……。いやはや、ロナさんは予想以上に素晴らしい才能をお持ちでした」
「ありがとうございます!」
店主はロナにカードを返却した。
その後、彼は一つ大きめの息を吐くと、にこやかにしていた表情から変わり、少しだけ眉を下げる。
「とはいえ、そのステージとレベルではダンジョン攻略を連日で行うというのは厳しいのでは……? やはりザンさんが何か……?」
「その通りだ。だが俺はカードを見せるのは控えさせてもらうぜ。少し思うところがあってな」
「おや、残念です」
俺のステータスはSランクのプロフェッショナルに「悪用されたら、恐ろしい力。世間に広まるのは危険すぎる」だなんて言われたんだ。
最初はロナと似た意見だな……くらいにしか思ってなかったが、今考えたらSランクの実力者にそう発言させるって相当なことだからな。
これからも自主的にカードの披露は控えさせてもらうとしよう。
とはいえ、今後とも贔屓にするかも知れない商売相手になんのアピールもしないのはまずいよな。
「その代わり簡単に俺のできることを説明すると、だ。紳士的にサポートしまくる……弱体化系補助のスペシャリストとでも言っておこうか」
「うんうん!」
「なるほど……。しかしそれとは別に、宝具を引き寄せるような能力もお持ちなのでは? 普通はただダンジョン攻略をしただけなら、秘密の部屋でも見つけない限り、宝具なんて二つや三つの入手がせいぜいとされていますからな」
俺が床に置いた荷物を覗き込みながら、店主はそう言った。
いい考えだ。まあ、事前に俺達はダンジョン攻略がしやすいとも言ってあるし、予想は簡単だっただろうか?
「鋭いな。ただ能力じゃなくて称号だ。俺は呪われていてな……世の中には『呪い呼びの呪い』っていう、宝箱が高確率でパンドラの箱になってしまう称号があるんだよ」
「あ、呪い……。あぁ、なるほど! 呪いですねぇ」
この店主は、俺が、開けられた状態のパンドラの箱を持っていることを知っている。質として一旦預けたからな。
だからすぐに納得してくれたようだ。
羅針盤の『ラボス』のことまでは話さなくていいよな、流石に。
「たしかにパンドラの箱は中身だけなら虹のものと同等ですものな! しかしザンさん、それらを開けて、中身を取り出せているということは……」
「お察しの通り、俺はもう呪われないのさ。……ただ、これが広く知れ渡ったらダンジョン攻略稼業に支障がでそうだし、秘密にしておいてくれよ?」
口に人差し指を当てながら、俺は店主にそう告げた。
故郷にいた頃はこの仕草一つで、レディ達はよく秘密を守ってくれたりしたものだ。
今の対象はおっさんだが。
店主はそれに対し軽く頷くと、目をキリッとさせながら口を開いた。
眼の中に金貨が浮かび上がっているように見える……。
「ええ、約束は守りましょう。しかしながら、私はたった今、ザンさんにご依頼したいことができました。引き受けてくださるでしょうか?」
「なんだ? 過去に買い取ったり、担保として引き取りそのまま回収した未開封のパンドラの箱を、持て余してるから開けて欲しいとか、か?」
「さすがはザンさん、お鋭い」
ま、そんなことなんじゃないかと思ったぜ。
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