第26話 俺達とダンジョンの戦利品2 前編
「やったな、ロナ!」
「うん! た、倒し……あっ」
大技で魔力を大量に消費したロナは、フラフラとして再び倒れ込みそうになる。
なに、こうなることは読んでいたんだ。
ハンマーを地面に置き、俺は彼女の身体を紳士的に支え────
「っと、と、と……と! あ、耐えれた」
ようとしたが、必要なかった。
彼女に向かって伸ばした腕が無意味なものとなったので、黙って引っ込める。
うーん、何故かちょっと残念な気分になってしまったぜ。何もなかったならそれでいいのに。
「お、おお。よく持ち堪えたなロナ」
「二回目だからかな? えへへ、なんとかね」
「じゃあ体調の方はどうだ? 魔力って枯渇したら気分が悪くなるんだろ? すっからかんになってないか?」
「それも大丈夫! たった今レベルがたくさん上がって、魔力も増えたからね」
ほう、そういうこともあるのか。なら良かった。
彼女への紳士的な介抱が必要ないようなら、俺のもうひとつの仕事に取り掛かれる。
あの猪の戦士が降りてきた場所よりさらに後方に、いつのまにかダンジョンの出口と宝箱が現れている。
また俺の呪いの効果がしっかりと働いたのだろう。
その宝箱の色は黒紫だ。つまりパンドラの箱……俺しか開けられない困ったちゃんだ。
「じゃ、またパンドラの箱のようだし。開けてくるぜ。ロナはここでまっててくれ」
「うん。任せたよ」
俺は禍々しい箱の前に着き、しゃがんで蓋を開けた。中からいつもの黒いモヤモヤが俺を襲う。
……全く。ロナはすぐ魔力の大量消費の脱力感に慣れたのに、一方で俺は全身の穴という穴から何かが入り込むこの感覚が未だに慣れない。
そういえば呪いを受けるのはこれで三回目か。相変わらず、ケツから入るのがなくなってくれれば、変にムズムズせずに済むんだが。
<称号獲得:称号【呪い無効】及び【呪いの限界】の効果により無効化。三件>
とにかく、今回も問題なく呪いをなかったことにできたみたいだ。
中身は何かの札と、保存玉と、一組のグローブのようなアイテムの三つだった。投げられてきたハンマーと合わせてこの部屋での戦利品は四つになるな。
「ザン、大丈夫?」
「ああ、問題はなかった。もうこっち来てもいいぜ」
「わかった!」
ロナは俺が置いておいた、ひと一人分の大きさと重さがあるハンマーを片手で軽々と持ちあげてから、こちらにやってくる。
えーっと、それは後で取りに戻ろうと思ってたんだが、まさか持ってきてくれるとは。
「お待たせ」
「……それ、重くない? 片手で大丈夫?」
「うん、普通に重いけどなんとかね」
そういえば昔、ステータスさえあれば細身の女性でも大剣を片手で振り回したりできるようになるなんて話を聞いたことがあったか。なるほど、まさにこういうことか。竜族とはいえこんな華奢な腕と手でよくやる。
「でも、ザンなんてステータスが無いようなものなのに自力で軽々とキャッチしたでしょ? あの怪力と比べたら私なんてまだまだだよ」
「あれは敵の手前、パフォーマンスしただけで、実際は指輪の力使って浮かせてたのさ。トリックってやつだ」
「あ、なるほど!」
本当に俺が自力であのキャッチを成功させたと思っていたようだ。なんとも可愛らしいほどに、純粋で無垢。
今朝、彼女を紳士的に守り続けると誓ったとはいえ……詐欺にあったりとか、騙されて誘拐されたりとか、そんなイベントが何度も起こったら流石に大変だぜ。ま、それでも守り続けてみせるが。
「それで、宝箱にどんなの入ってたの?」
「この三つだ。ちょうどいい、保存玉はそのハンマーで……ん?」
「……!」
「ど、どうした?」
ロナは俺の取り出した宝の一つを見つめ、固まった。どうやらグローブに注視しているようだ。
俺がそれを彼女に差し出してみると、無意識なのか宝具であるハンマーをそこら辺に雑に放いつつ手に取った。軽く地面が揺れる。
「これか? 気になるのは」
「う、うん……こ、これすごいやつ……!」
「それも親戚の情報?」
「そ、そう。昔自慢されたんだけど、聞いただけでもすっごく強いの! だから前衛職のSランクの人がこぞって欲しがるものらしくて……」
「ほぅ……じゃあ最初にみてみるか」
このグローブの全容は、まず覆っているのは手の甲と手のひら部分だけで、指先は全て露出されるようになっている。基となる革製の部分は焦茶色で、甲側には申し訳程度に薄い金属の板があり、それには白色をベースに赤の紋様が施されている、といった感じだ。
見た目だけなら特に変哲はなさそうなもの。俺はロナの手の中にあるままで、そのグローブを『宝具理解』で調べた。
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「剛力のグローブ リキオウ」(宝具)
両方揃えて正しく装備した場合、所有者の攻撃の数値が半数分上昇する。
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……今まで手に入れてきた装備するタイプの宝具からすれば、圧倒的に短いその内容。だが、ほんの少しの内容にとんでもないことが書かれている。
攻撃を数値の半数分上げる。例えば攻撃の数値が1000の人がこれを装備したら、その間は1500になるということ。実力者達がこぞって欲しがるというのも納得がいく。
それに、初対面の時に一度見たきりだが、ロナは魔力を抜いた四つのステータスの中でずば抜けて攻撃が高かったはず。そんな彼女にこのグローブはかなり相性がいい。これはすごいことになりそうだ。
そういえば、ロナのその親戚もこれを持ってるってことは、相当腕の立つ人物ってことになるか? まあ、そもそも竜族のSランクらしいから当然といえば当然か。いつか一度ご対面してみたいものだ。
「こ、これ……! あの、私!」
ロナはグローブを持ったままプルプルと身体を震わせている。まるで生まれたての鹿系の魔物の子のようだ。
「わかってるって。俺が持っててもまさに宝の持ち腐れ。それはロナにこそ相応しいぜ」
「……っ! ありがとうっ! やったやった!」
おお、喜び方がすごい。昨日、剣を手に入れた時と同等かそれ以上……いや、以上の方だろうか。
スカートが暴れてすごいことになるほど尻尾をブンブンと振り回し、可愛らしい小躍りを披露しながらこの空間を走りだした。
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