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第98話 俺達と半月ぶりのダンジョン

 昨日新しく手に入れた宝具も加え、しっかりと装備を整えた準備万端な状態で、俺たちは半月振りのダンジョン攻略へ出発した。


 ただ、ほんの少し予定していたスケジュールより遅れているがな。

 なにせ、ロナが『迅雷の腿帯輪 バリバルド』を身につけるのにだいぶ手こずってしまったんだ。


 あれは太ももに巻くベルト型のアクセサリー。

 ちょっと不器用で、なおかつ普段はベルトを使用しない彼女を戸惑わせるにはそれだけで十分だったようだ。


 ま、そういうほどほどの不器用さも彼女のチャームポイントの一つだろう。最終的にちゃんと身につけられたようだし、問題はない。


 なんてことを考えているうちに、目をつけたダンジョンの前まで辿り着いたようだ……が。

 


「マジでここなのか? ……あー、そうみたいだなこれ」

「えぇ? すっごく変な場所だね?」



 ……まさか、木の根と別の木の根の隙間がそうだなんて誰が思う? まるで天然の落とし穴だ。


 何度見ても『ダンジョンの地図 トレジア』がココだと示しているし、穴っぽいのは辺りにそれしか無い。

 やはり、これがお目当てのダンジョンの入り口で間違いないんだろう。

 

 まあ、思えばはじめてのダンジョンも木のウロだったしな。常識や「それっぽさ」にとらわれちゃいけないのか。


 こういう、『トレジア』がなければまずそれだと分からないようなヘンテコな入り口があることも、王都近辺の森の中なのにそこそか手付かずのダンジョンが点在する理由の一つなのかもな。



「中は斜面になってるみたいだ。滑り降りるしかなさそうだな」

「わかった、じゃあ私から行くね」

「ああ」



 ロナは木の根の間に脚を入れ、そのまま穴の中に潜り込んだ。

 その後で俺も続く。先の見えない暗い斜面ってのは正直かなりこわいが、紳士は度胸。進むしかないだろう。


 で、体感で三十秒は下ったか?

 ようやく俺は地に足をつけられた。それと同時に視界が晴れる。

 まずは俺の相棒がちゃんと居るか確認……よし、大丈夫だ。


 内部は綺麗な真四角にカットされ磨き上げられた石タイルの通路が広がっており、壁もだいぶ人工的な作りになっていた。

 城や屋敷など、高級な建物の地下室みたいなデザインのダンジョンだ。


 さてさて……こうしてダンジョンに辿り着いたからには、前のダンジョン攻略で手に入れた『迷宮内の地図 トメロア』を使ってみないことには始まらない。


 『トレジア』と同じ要領で魔力を込めてやると、鑑定で得た情報の通り、このダンジョンの内部のものと思われる地図が即座に浮かび上がってきた。

 

 まっすぐ進んで左折。それを四回繰り返した先に円形の部屋がある。それがゴールだろう。

 これを見る限りでは、特に凝った仕掛けなどはなさそうだ。その分、宝箱も少なそうだが。


 わかってはいたが、こういうのがスタート時点でわかるのは便利だな。



「形だけ見るとラクそうだね」

「まあな。とりあえず進むか」

「うん」



 そのまま地図に従って真っ直ぐ進んでいくと、このダンジョンの初の魔物に遭遇した。

 尾と羽先が炎のように揺らめいている真っ赤な鳥だ。

 有名な魔物である不死鳥フェニックスに近いか? それが五匹の群れになっている。



「フレイムバード……かな? ちょっと違う気もするけど」

「もういつでも倒していいぜ。まずはどうする?」

「<鮫泳水斬(こうえいすいざん)>と<疾迅雷突>を試してみたいけど、どっちも飛んでる敵に当てにくいから普通にやるね」



 そう言ってロナは『夜風の剣 ヒューロ』を鞘から抜いた。

 まあ、たしかに前者は斬撃が地面を這って進んでいく技であり、後者は近距離向きのためこの距離からだと当てにくい。


 そうそう、空を飛ぶってのはそれだけで一部の技が効かなくなる。これはなかなかなアドバンテージだ。

 俺は『ソーサ』と『バイルト』を使って飛んだ側の人間だからよく分かるぜ。


 ま、それも俺達コンビの前じゃ、大した意味はないがな。



「真・風波斬ッ!」

 

 

 大きな風の刃が勢いよく鳥の群れに向かって飛んでいく。


 ……この、『真』と付く術技は魔法でいう上級にあたるものらしい。

 ロナは風属性と剣術を主軸とする特訓をし始めてから、もともと中級だったこの術技を、あっという間に一つ進化させてしまった。


 成長したのはそれだけじゃない。

 他の術技や、強化系の能力なども二週間前と比較して見違えるように育っている。


 四日間ではあるがザスターという優秀な師が居たこと、そしてのびのびと特訓できる環境が整ったのが、急成長に繋がったのだろう。


 ザスター曰く、【究極大器晩成】によって邪魔されていたロナの本来の才能と、積み重ねてきたが芽の出なかった努力が、今までの分を取り戻そうとしているそうだ。



「あっ、『風属性節約』が『Ⅲ』になった!」

「おお、また育ったのか。おめでとう」

「えへへ……!」



 さらに彼はこう言っていた。

 「ロナはこの伝説の冒険者であるオレ様の姪だから、条件が整った今、もう進化も成長も止まらないぞ」と。

 ……俺も、その説はこの様子を見る限りじゃ間違いないと思うぜ。


 その後、真っ赤な鳥たちの群れはもう一発の〈真・風波斬〉により全滅した。非常にスマートな勝利だ。



「……ね、ザン。次にこの魔物と遭遇したら、もうちょっと慎重に倒してみるね」



 ロナは散らばっている魔物の死骸をじっくり見つめだしたかと思うと、悔しそうな表情を浮かべ、そんなことを言い出した。

 なるほど、どういう意味かはわかった。



「食えるのか、その鳥」

「うんっ」

 


 このダンジョンを出るまでにできるだけ鳥料理を思い出しておかなきゃな。

 



 



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