第5話 扉を叩く音
切りが良かったので、いつもよりも文字数少なめです。
グレンメルによる槍の特訓は四日続き、やっと旅に出る許可を貰える程まで実力をつけたレイアは竜騎兵団団長室に来ていた。
「で、最初の目的地は?」
レイアの問いにさらさらな黒髪、碧眼のウィルフィードはペンしか無い机に地図を広げ、最南東にある国を指差して、
「ここが今いる、ミレトス王国だ」
そこから上にある国まで指をなぞる。
「目的地はここ、マカミだ」
「マカミ? どんなとこなんだ?」
「マカミは元々、名前も無い貧しい村だったが急に発展し、独特の文化が栄えているらしい。 俺も行った事がないから詳しくは知らないが、六日前にミレトスと同じく襲撃があったらしい」
「六日前って、俺がグダグダしてた時かよ! しかもあの変なのまだいたのかよ!」
色々突っ込みどころのある話にレイアは声を上げる。
ウィルフィードはレイアの言葉に「いや」と言い続ける。
「今回マカミに来たのは、ミレトスに来たような異形ではなく、人との報告があった。 そして、マカミの主を連れ去ったとか」
「マジですかい!」
ウィルフィードは自分の考えていた、異形は人が作った説が大いに有り得ると考えた。 マカミに来て、マカミの王とも言える存在を連れ去った理由は見当もつかない。 しかし、そいつこそが異形を作った本人に違いないと考察していた。
「国王より、アルヘオ大森林の調査も兼ねての旅だったが、急遽、マカミに行き、当時の状況を聞いて来いとのことだ。 明日の早朝には出発だから早く起きろよ。 シアリィ様にも話は通ってある」
「わかったよ。 じゃ」
レイアは竜騎兵団団長室を後にする。
それを確認すると、ウィルフィードは横でまるまるメダに話しかけた。
「……なぁ、メダ」
「どうした? ウィル」
下を向き、広げられた地図を見る。 一つの大陸しかなく、アルヘオ大森林を中心に色々な国がある。
「この選択は正しかったのかな?」
「……ワタシはウィルについて行くだけだよ。 君が正しいと思った道が正しいんだ。 そうやって今の今までミレトス王国『竜の劔』竜騎兵団団長としてやってきただろ?」
「ああ……。 そうだな」
団長はこの部屋をただ眺める。
「もう見納めか……。 早かったな」
***
旅立ち当日。 ミレトス王国のを囲む城壁の門に多くの人が集まっていた。
その民衆のを取り締まる様に『竜の劔』が抑え、その中に三人と、国王、グレンメルがいた。 国王は野太い声で三人に言葉をかける。
「共に協力し合い、励まし合って、必ず目的を果たせ。 その時には戻って来い。 国で盛大に歓迎してやる」
シアリィが目を潤わせる。
「父上ぇぇー! 戻って来るから、待っててねぇ」
と言い、血の繋がりは無いが、父と慕うティンゼル国王にしがみつく。 国王はシアリィの頭を大きな手で優しく撫でる。
そしてその隣にいたグレンメルはレイアの元に来て、布に包まれた槍を渡す。
「それは、特殊な鉱石から作られた槍です。 貴方が更なる進化を遂げた時、その槍も貴方に最も相応しい形に進化します。 ……特訓の成果、忘れないでくださいよ」
「ああ、ありがとうグレンメル!」
グレンメルはふっと笑うと、差し伸ばされたレイアの手に熱い握手を交わした。
一方、ウィルフィードは、次の団長マルクスと話していた。
「次の竜騎兵団、任せたぞ」
マルクスはドンと拳で胸を叩くと、
「もちろん。 ウィルフィードもいつか戻って来いよ」
「ああ、ありがとう」
そうして各々の想いが語られると国王は元々大きな声だが、より大きな声で言った。
「それでは、行け!」
その声に異形に破壊されて、修理したばかりの城壁の門が開かれ、三人は民衆の重なりに重なった声に後押しされて、ミレトス王国の境界を越えた。
未来への後進。 過去への前進。 綺麗で幸せに満ち、残酷で悲しい世界に一歩を踏み出した。
──その時、運命の扉を叩く音がした。
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