第4話 強化特訓
会議が終わった後、レイアとウィルフィードは廊下を歩いていた。
ウィルフィードは歩くのが速くて、レイアはウィルフィードの背を追いかける様に早歩きをしている。
「なぁ。 ウィルフィードも記憶が無かったのか?」
レイアは後ろからウィルフィードの顔を覗き込む様にし、訊ねる。
ウィルフィードはその質問に沈黙するも、立ち止まり、レイアの顔を見て言った。
「記憶が無い訳では無いですけど、物心ついた頃からあの森にいて、メダ……一匹の竜と共に過ごしていました。それだけの事です」
黒い髪を振り、再び歩き始める。
レイアは「そうか」と返し、後を追った。
やがて、ウィルフィードの目的地の扉の前まで来た。 ノックもしないで入ると碧竜がいて、ウィルフィードの顔を見るとその碧竜は表情を少し緩めた。
「ウィル。 お疲れ様。 どうだった」
「……メダ。 ……この国から出て、旅をする事になった」
「……そうかい。 それも、自分で決めた事なんだね」
「ああ。 ……と言うより、なんでここまでついて来ているんですか?」
ウィルフィードは怪訝な表情で、隣にいるレイアを見る。
「いや、訓練場の場所が分からないから。 てか、ここは何の部屋?」
「……。 ここは竜騎兵団団長の部屋です」
「へー。 随分広いんだな」
実際そんなに広くは無いが、ウィルフィードの几帳面さがその部屋に表れ、清潔感に溢れて広く感じるだけだ。
部屋を隅から隅まで見回すレイアに、碧竜が優しく口を開いた。
「君があれか? あのバケモンを斃したのは」
「あー、多分そう」
「いやぁ、とても助かったよ」
翼を痛め、踠いていた竜とは思えない程に呑気な口調で喋る。
同じ雰囲気の一人と一匹は楽しく会話するが、新しい鎧を身につけたウィルフィードが割って入った。
「さて、メダ。 準備が出来た。 行こう」
「ああ、今回で実力不足だったから張り切っていこう」
気合い十分のメダを見て微笑むウィルフィードはレイアの方に視線を変えて問う。
「君も行きますか?」
「君、じゃなくてレイア。 あと、それからもっと気軽な口調でいいよ。 これから一緒に旅する仲だしな」
白い歯を見せて笑うレイアにも微笑んで、
「……じゃあ、行こうか。 レイア」
そう言い残して、この部屋を後にする。
そして向かう先は訓練場だ。
訓練場は普段、『竜の劔』が己を高める為に使う所だが、レイア達が着くと、誰も訓練をしておらず、ただ一つの人影があるだけだった。
その人影はレイア達に気づくと近づいて来た。
「お待ちしていました。 レイア殿、ウィルフィード殿」
そう言うのは、燕尾服を華麗に着こなす黒髪で、眼鏡をかけた知的な男、グレンメルだった。
「レイア殿、貴方はこれから旅に出る訳ですが、何も起こらないとも限りません。 貴方には戦い方をお教えします」
レイアは「うーん」と腕を組み、深く考え込む。
「戦い方ねぇー。 そんなの全力全開でやれば負ける気がしないけどね」
「そうですね。 貴方は強靭な炎の魔力。 それに莫大なそれの容量。 正直、右に出るものは私の知る限り居ません」
実感の湧かないレイアだが、讃えられる事だけは理解し、憎たらしい顔で照れる。 その姿にグレンメルは一つ短い溜息を吐いて言葉を続ける。
「ですが、中には特別な力を使い戦う者も少なくはありません。 そうゆう中での長期戦や、連戦などのケースに対応する為、まずは魔力の使い方を理解してください」
「うっ、確かにそれは一理あるかもしれなくもない。 よし! やってやる!」
感情豊かなレイアを遠目にウィルフィードは愛竜メダと手合わせし、訓練に励んでいた。
***
あのレイアのやる気発言から既に一週間が経って魔力の操作レベルがウィルフィードと並び、ようやく武力訓練を行おうとしていた。
「おはようございます。 レイア殿」
大きなあくびをしながら「おっす」と言いながらグレンメルの元に来た。
「では早速、この三つの中から好きな武器を選んでください」
そう言って近くの壁に立て掛けられてある、どれもシンプルなデザインの剣、斧、槍の方向に手を向けた。
レイアはその三つの武器の所まで歩くと、槍を手にした。
「槍ですか。 似合ってますね」
「ああ、なんか前世の自分が使ってそうな気がしたんだ」
初めて持ったとは思えない程に手慣れた槍さばき、体付近で器用に回転させる姿にグレンメルは驚きを隠した様な顔を見せる。しかし、直ぐに国王の言った言葉や、レイアの言動を思い返した。
「いいね、これ」
「そうですか。 では、貴方の武力を測る為に、全力で私を倒してください」
「じゃあ、遠慮なくやらせてもらう、ぜっ!」
にかぁと笑うレイアは剣を握るグレンメルに槍の穂先を見せながら突進する。 しかし、そんな単純な攻撃は簡単に避けられる。
その後もそういった攻撃を続けて、全く当たる気がしない。 そして、何度目かの攻撃、グレンメルの剣は目の前から来る槍の穂先を払い退け、レイアが怯んだ隙に瞬く間にレイアの懐に入り、首元で剣を止める。
「うえっ!?」
首元の剣は引かれ、グレンメルはレイアを評価する。
「単純ですね。 いかにも力で押し切ろうとする戦い方です」
「じゃあ、どうすればいい?」不満そうなレイア
「もっと戦略性や、柔軟性が欲しいですね」と眼鏡を掛け直す。
「具体的には?」
「そうですね。 貴方の攻撃パターンは相手に穂先を当てて攻撃するのが多いですが、槍は穂先だけでなく持ち手など全体がダメージを与える事がで可能です。 例えば、貴方がついさっきやったあの槍さばき。 そういう柔軟な動きで敵を惑わせたり、思いもよらぬ方向からの攻撃が出来れば完璧ですね」
「はぁ、なるほど?」
「まぁ、やっていくうちに理解できると思いよ。 貴方は槍の才能がありそうですから」
金属がぶつかり合い、火花を生み出しながら特訓に励むレイアを、休憩中の碧竜メダは微笑ましく見ていた。
剣より槍派です。