第29話 両者の抗い
「ハァアアッ!」
金髪を揺らして、両手に握る剣で素早い剣戟を見舞いする。 対する『強欲』の魔王はウィルフィードを苦しめた、魔法攻撃無効化の闇の魔力を展開し、緑透明の剣戟を無いものとする。
「ッ!?」
二つの剣は闇を斬り裂き、その奥の魔王の腕をも斬り落とした。
「何故、闇が効かねェ」
「当たり前だ。 マナで出来ていようと、これは魔法では無い。 魂の力だ!」
ロメリアは強く言い切る。 背後に更に四つの剣を生み出す。
アヴァリティアは落とされた腕を即座に再生した。
「……お前も生意気言うようになりやがって──」
(再生した!? やっぱりアイツには竜の血が……)
「──手間がかかるなァ! オイ!」
叫びと共に猛進してくる。 ロメリアは双剣を構え、背後に浮かぶ剣を巧みに操作する。 しかし、アヴァリティアは降りかかる四つの斬撃を掻い潜り、ロメリアの元までくると拳を作る。
「──ッ!?」
息を呑み、反射的速度で拳めがけて双剣を振る。 本来ならば当たったはずだが、空を斬る感触だけが残る。 目の前のアヴァリティアがいない。
ハッとしたように後ろを向くが、もう遅い。 背後に回ったアヴァリティアの強烈な打撃を背に受けた。
「ガァッ!?」
瞬時に双剣を盾に変えたが、それを破り、勢いは弱まったものの痛みで腕の後方の可動域を失った。 直に喰らえば、心肺停止も否めない。 皮肉にもアヴァリティアに鍛えられたお陰で九死に一生を得た。
「グゥ、ウウゥ……」
ロメリアは尚も双剣を生み、その手に握る。
「まだやるのか? 愚かしいな」
魔王は子鹿のように震えながら立つロメリアの所へ歩く。
「ウ、ァアー!」
振る剣の勢いも弱く、アヴァリティアには手の甲で簡単に止められる。 腕を後ろに動かせない分、運動量も減る。 手の甲の剣を振り払い、ロメリアの細い腕を握る。 そして逆の手で手刀を見せる。
「終いだ」
盾を作ったとしても先のように破られる。 意味がない。 逃げれもしない。 深く深く目を瞑った。
それは死を悟ったからではない。 また、助けられたからだ。
横から刹那の如く走る風の魔力が、アヴァリティアの腕を斬り落とした。
「クソがァ……」
紫の血が断面から大量に溢れる。 呻き声を上げて再生してゆく。 再生が終わり、完全に元通りになったのを確認して、風が来た方角を見る。
ウィルフィードとレイアがこちらへ走って行くのが見えた。 碧人は縮まる距離で再び腕を振り、風の刃を生み出した。
大地を深く抉りながら魔王へ直進する。
簡単な直進攻撃は、アヴァリティアでなくとも避けられる。そんな攻撃を何故するのか、ロメリアは理解した。案の定大きく飛び回避する背後に無数の剣を設置する。
「──ッ!?」
「喰らえぇぇー!」
鬼の形相で創り出した剣で斬り刻む。 本当は自らの手で、その感触を確かめて奴を殺したかった。 この際仕方のない事だ。 しかし、それはまだ叶うこととなった。
「メーデンッ!」
そう『強欲』の魔王が叫ぶと、突如アヴァリティアの背と剣先の間に黒い気配が生じた。 ウィルフィードもレイアも悪寒した。 気配から爪が現れ、剣を振り落とした。
二人がロメリアの元に到着したと同時刻、気配から漆黒の黒い竜、人のような直立二足歩行の異形、神々をも畏怖するその体躯。 かつて四大魔竜『絶』の竜と呼ばれた最強の魔竜ニヒル=セロ=メーデンが降臨する。
先のウィルフィードの戦いで消耗した魔力と体を、竜持ち前の生命力で修復していたのだ。
それを従える魔王は豪快に着地し、魔竜を背に挑発する。
「さァ、決着といこうかァ」
「それはこちらも思ってた事だ」
ロメリアが作った緑透明の騎士剣を受け取ると、竜人、メダの魂を継いだ人間は浅く笑う。
竜化により、魔法を数万回でも連発可能な碧人の ウィルフィード・ゼラニウム。
創造の力を有する、『強欲』が欲した魂を持つ ロメリア・アルスト。
未だに力の全てを発揮しきれていない、良く言えば、底知れぬ力を持つ レイア。
その三人と対峙するのは、遥か昔を生きた七人の魔王の一角と、異形の黒竜。
立っているだけで激しく魔力がぶつかり合い、大気が不安定な状態になる。 風向きが度々変わるのを感じながら互いに動かない。
風向きが、魔王達の追い風となったその瞬間、アヴァリティアは一秒足らずで三人の目の前に来る。 メーデンは《重力の魂》を展開する。
その重力が掲げた魔王の拳に速度を加え、振り下ろす。
重力場が展開された時点で、ウィルフィードは抗力を風で生み出していた。 更にその風を最大限の威力にする事で、振り上げる剣の速度が上がる。
互いに限界を超越した速度で衝突する。 しかし、互いに上手くコントロールが利かず外れてしまう。 アヴァリティアの拳は世界を真っ二つにする程のヒビを作った。 逆に、ウィルフィードの剣は風の刃を発生させていないのにも関わらず、衝撃波が雲の裂いた。
「オラァッ!」
切り替えの早いアヴァリティアが地に埋まっている逆の腕をウィルフィードの腹に打ち込む。 が、それをレイアが槍で串刺し、拘束した魔王の横腹を蹴る。
「オオォ、ラァッ!」
その衝撃に乗って移動する。 ロメリアは些かの驚嘆を覚えるも、すぐに双剣を握り追いかけた。 レイアもロメリアもウィルフィードのお陰でこの重力場を難無く動ける。
「……あまり意味は無いな」
そう言いメーデンは己の魂の力を解除する。 すると、対抗の対象が消え、下から来る猛烈な風に三人は上空へ飛ばされる。
「うぁぁああー!?」
ウィルフィードも風を解除すると自由落下を始める。 レイアのしたにはメーデンが、ロメリアのしたにはアヴァリティアが待ち構えている。
レイアはメーデンを見ると、一気に髪が黒く染まり、目付きも変わる。 槍に膨張する闇を乗せて投擲する。
あまりの速度に反応出来ないメーデンはもろに喰らう。 当たった瞬間に闇が爆発し、周囲の空間を巻き込んで被害を出す。
黒が抜け、いつも通りの色に戻ったレイアは気を失って落下する。 人間技とは思えない翼の扱いで、ウィルフィードは彼をキャッチした。
着地させるとすぐに意識を取り戻した。
「……ハァ、ハァ、ハァァ……」
「大丈夫か?」
「……ァ、なんとかな」
(また、この感じ。 シアリィに治癒してもらったからすぐに意識を回復する事が出来たが……)
あの幼い女の子がレイアの脳裏をよぎった。
(間違ってもウィル達を殺したくはない)




