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黎明のサンライト  作者: 陽月ウツキ
SANLIGHT OF DAWN
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第25話 窮地

 


 竜人と化したウィルフィードはその碧眼で、世界の異物、禍々しい黒竜を睨みつけた。



 この重力場をもろともせずに、二本の脚で立つ姿にメーデンは驚きを隠せない。 しかも、それは無尽蔵に溢れる、本来なら有り得ないマナから直接生んだ風の力によって立っているからだ。



「何故、貴様がそんな力を?」



「お前が知る必要は無い。 けど、一つだけ教えてやる──」



 支えとして地面に刺さっていた剣を抜き、爪の長い手に持つ。 腕は重力に耐える為に力んでいるが、剣はその効果を受けず、普段通しの重さ。 妙な感覚に陥った。



 少し剣を振り回し、その感覚に無理矢理慣れさせ、再びメーデンに鋭い眼光を送ると、足裏と接触している地から強風を起こし、距離を縮める。



「──この力はお前を斃す為、メダが俺に与えてくれた力だ!」



「生意気なァー!」



 ウィルフィードが放つ、煌めく銀の弧を描く剣身と、メーデンの頑丈な爪がぶつかり合う。 それだけで、火花が散り、場の空気が乱れて大気が裂く。 重力で押し潰されながらも、ロメリアはそれを恐ろしい程感じとった。



(あの時の幼い子が、こんな奴と対等に戦えるなんて……)



 剣はその衝撃に耐える事が出来ず、ヒビが入る瞬間には砕け散っていた。



 メーデンは不気味で獰猛な笑みを浮かべると、剣が破壊されて瞬間戸惑うウィルフィードに、間髪入れずに爪を立てて、闇と雷が入り混じった暗黒の稲妻を生みながら、神速で碧人の身体ごと引き裂かんとする。



 その一秒にも満たない斬撃を、ウィルフィードは重力の影響を受けながらも腕を勢いよく持ち上げると、防壁の風が吹き、暗黒の稲妻を伴った斬撃を防ぐ。 そして、風に怯んだメーデンの刹那の隙を逃さず、掲げた腕を振り戻す。 すると今度は万物を切り裂く、破壊の風が黒竜を襲う。



 流石のメーデンも回避する事は出来ず、直接腹部を裂かれる。 攻撃する時に入れていた全身の力がまだ抜けきっていなかった為に、頑固たる腹筋が破壊の風を少しばかり軽減してはくれた。 だが、粘着質なドス黒い血が切り傷から噴出した。



「剣が無くなったから、戦えないとでも思ったか」



「貴様ァ……」



 ジワジワと溢れる血がメーデンを死へと追いやる。 竜の持ち前の生命力で回復に専念が、ウィルフィードに背後を取られ、そんな暇は無い。



 尻尾を振り、小賢しい虫を払い除ける様に背中のウィルフィードに攻撃を試みるが、この重力場の状況で有り得ない速さで上空へ回避すると、腕を振り下ろし、再び破壊の風をいくつも生む。



「ガァアアアッ! ──ッ!?」



 同じ手にはかからんと、咆哮でそれを撃ち落とすが、破壊の風が散り、死角となった正面から碧人が来て、手刀を首に入れる。 反射的に爪で防いだ為に難を逃れたが、力んだ所為で、傷から血が大量に溢れる。



 身体という器の中に魂を含む血が存在する。 血が無くなれば魂も抜けていく。 故に《重力の魂(グラビティ)》の効力は薄れていく。



 立ち上がれる様になったが、まだまともに動けないロメリアや、周りの兵士を苦し紛れに観望すると、



「貴様らァ……」



「……?」



 ウィルフィードは疼くメーデンを見て異変を察知する。 重力場は完全に消失したが、奴はまだ死んでいない。 自ら解除したという事になる。



「神々を呑み込む邪悪な『渦』よ、全てを『無』に帰せ!」



 高揚していく口調と共に、メーデンは再び魂の力(アルマ)を解放させる。 しかしそれは先とは違う。 闇の魔力が混ざり、周囲の空間にいくつもの黒い球体が顕現した。 その物体一つ一つが立体的な引力で、ここにいる人間、竜、草までも吸い込んでいく。



 あらゆる方向からの引き込まれる力に、地面に剣を刺しただけでは耐えれず、黒き渦を描く球体に呑み込まれる。



 ロメリアは自身を創り出した緑透明の防壁で包み込むが、それごと引き寄せられ、力を解除する。 もう終わりだと悟った時に、自分と反対だけど、良く似ている声が聞こえた。



「捕まれぇー!」



 見ると碧人がこちらに飛翔して来て、その両腕には兵士達が連結してぶら下がっていた。



 その差し伸ばされた顔も名も知らない人に腕を差し伸ばされ、必死にそれを掴む。 ウィルフィードは助けられる範囲内の人間は全て助け、上空へ飛翔し、碧人は呑み込まれない様に風で調節しながら、斥力を作り、この間合いを抜けた。



 黒き球体を作り出した張本人はそれだけを残して消えていた。



 地上に人々を降ろし、直ぐにシアリィのいる救助班のテントへ向かわせた。 ロメリアだけはそこに残っていた。



「あの……、助けてくれて、ありがとう……」



 目線を合わせる事なく金髪を弄りながら言った。 ウィルフィードも目線を合わせずに答えた。



「お互い様だ」



 ハッとしたようにあの時の変わり果てた遠くを眺める少年を見る。



「あそこでレイアが戦ってた。 俺はもう行くから、君は休んでな」



 そしてロメリアを残し、ウィルフィードは翼を動かして飛んで行った。







 ***







「──死ね」



 そう言い、目の前の苦しむレイアに手刀を入れる。 しかし、それは介入者によって止められる。



「ウ、ウィル!」

「ああァー?」



 レイアを狙ったはずの、帝王改め、『強欲』の魔王アヴァリティアの手刀は、ウィルフィードの手に収まっていた。 その腕を捻り、奴の身体ごと一瞬で投げ飛ばす。



「レイアは休んでてくれ。 後は俺がやるから」



「あ、ああ。 ありがたく……」



 黒に近くなった髪色のレイアはその場に尻をつき、内側から爆発する驚異的、圧倒的力を抑える事に専念する。



 投げられたアヴァリティアは、豪快に四肢をつき大地を抉りながら着地した。 その目の前に、ウィルフィードが歩いてやって来た。



「お前……、面白いじゃねぇか。 ──欲しくなっちまうなぁっ!!」



 飛びかかる大男に対し、碧人はボールを投げる様に腕を振り下ろし、防壁の風を生み出す。 咄嗟のアヴァリティアも闇の瘴気を腕に纏わせ、振り下ろす。 その二つの力がぶつかり合い、互いに作用し、衝撃波が生じる。



 近くにいたレイアは、後方に一回転し、遠くにいたロメリアも感じ取れた。



 普通の人間は、魔力というエネルギーを使って、動いたり、魔法を使ったりする。 そして消耗した分は、世界から放出されるマナというエネルギーを取り込み、変換し、回復する。



 しかし、ウィルフィードの竜人と化す魂の力、《竜人の魂(ドラゴニュート)》。 その効果中は、自身の魔力はマナに変わる為、魔力警告の心配無く、マナを直接的に風に変える事が出来るので、魔力の配分には一切の心配は要らない。



 けれど、ニヒル=セロ=メーデンとの戦闘で精神的に疲弊しきっていた為に、次にする予定だった破壊の風が完全に形成する事が出来ずに、脆弱な物になってしまい、簡単に振り落とさせる。



「ハアァッ! どうしたよ、そんなもんかァ?」



 迫ってくるアヴァリティアに歯を食いしばり、全身を巡る力を底から強制的に絞り、足掻く。 人を超越した切磋された無駄の無い武術。 上下左右の立体的に殴り、手刀、蹴りが予測不能に繰り出され、反撃する隙が無い。 普段、対剣相手に訓練していたのもあり、焦りを見せるが、我武者羅に対応した。



(近接戦は武が悪いな……)



 大きく飛翔しながら後方へ逃げ、着地しながら掌を地につけると、その衝撃波がアヴァリティアを怯ませようとするが、上手く身体をしならせて飛んで回避する。



 その隙を狙い、翼をはためかせて広範囲に斬撃の強風を起こす。 しかし中々当たらない。 奴は攻守共に非の打ち所がない完璧な動きをして来る。



 行動範囲を狭めるべく、今度は身体を一回転させ竜巻を四つ程生み出した。 そしてまた同様に広範囲の斬撃の風を考えずにばら撒く。 案の定回避するが、そこに竜巻を動かした。 これなら間違いなく攻撃が通用する。と思ったが、



「ハアァァ!!」



「──ッ!?」



 奴が竜巻の回転方向とは逆に腕を振ると、闇の魔力の瘴気が竜巻を包み込み、消失させた。



「あんまし魔力とかそうゆうのに頼りたくは無いんだがなァ。 こりゃあー、参ったぜェー?」



 驚嘆の顔のウィルフィードを嘲笑う。



「闇ってーのはいくつもの効果があるんだ。 んで、俺は魔的攻撃を無力化出来るわけ」



 近接戦でも攻守共に完璧で歯が立たない。 そして遠距離戦での唯一の攻撃法が完全無効。 陽動しても奴の身体能力と先を読む力の前では意味を成さないだろう。 そして逃亡は確実に不可能。 仮に出来たとしても、レイアを置いてはいけない。



 このどうしようもない状況下で、必死に脳を回転させ、活路を見出す。



 しかし、そんな希望的なものは何処にも存在しなかった。 ウィルフィードは顔を濁らせた。




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