第24話 魂と絆の光
四大魔竜『絶』の竜、ニヒル=セロ=メーデンによる落雷での死者は、半数を超えようとしていた。 最早勝ち目は無い。
けれども、避ける為に邪魔な重装備を脱ぎ捨て、俊敏性に特化させ、黒い髪を振り回し、充血するくらいに力んだ碧眼のウィルフィードは尚も抗い続けている。
風の刃で上空のメーデンを狙うも、距離が遠く、的も小さい為に中々命中する事はない。 ただ魔力が減っていく一方だ。
徐々に視界が薄まり、回避する気力も無くなっていった。
だが、その肩をゆっくり支えてくれた。 誰だと横を向くと、ロメリアだった。
「大丈夫……?」
「あ、ああ。 ……すまない」
盾を作ってくれて大分楽に出来る。 と、思ったがそんな緩い事はさせてくれない。
上空を浮遊していたメーデンが、二人に急接近し、その鋭い爪を振るう。 即座に反応し、ウィルフィードを担ぎながら、回避した。
「我が血を飲んどきながら寝返るとは。 アヴァリティア様の目が狂っていたのか、それともその人間に想い入れがあるのかー?」
地上に直立二足歩行をする黒い竜は、敵を助けたロメリアを嘲笑う口調で言い放つ。
肩に担がれたウィルフィードを優しく下ろし、彼と自身の頭の上に落雷対策の盾を生み、後は剣をその手に創造した。
「私は完全にお前達の味方になった覚えは無い!」
「愚かしい」
剣を構えるロメリアに対しメーデンは、周囲の落雷を停止し、最優先に殺す事を決めた。
すると、突然として、ロメリアは自身の体重が重くなっていくのを感じた。 段々と重くなるにつれて、それは体重が増加したのではなく、重力による圧力が強くなったのだと理解し、膝と剣を地につき、必死に起き上がろうとした。
「ぐっ、ううぅ……! こ、れは……、もしや……」
「察しが良いな。 流石は《創造の魂》を使うだけの事はある」
この重力はロメリア以外にも、周囲の兵達にも影響がある。 ウィルフィードも同じだ。 重力に足掻いて立とうとすればするほど、力を込め、魔力が消費される。 警告で眠りにつく前に、一旦圧力を受けながら回復に専念する。
「これは《重力の魂》だ。 どうだ? 身動きもとれんだろう」
ニヒル=セロ=メーデンの誇る、魂の力の能力。 魂を持つ者が、その間合いに入れば、地に埋まる程の圧力が襲う。
まずはこの重力場をなんとかしなければ、ロメリア達はそのまま潰されるにせよ、雷に当たるにせよ、間違いなく死ぬ。 落雷のリスクを消し、自身とウィルフィードの盾を、四本の浮遊する剣に変える。 奴の魂の力を受けないので、打つ手はそれしか無い。
四方向からそれぞれの剣身が突撃するように、上手く操る。 けれども、硬い爪で弾き返され、ダメージを与える事は不可能に近かった。
「なんだ? それだけか?」
メーデンは立てないロメリアの元に足を運ぶ。 だが、横からの衝撃に些か驚き、立ち止まる。 横を見れば、周囲から間合いにいない兵士達が武器を投げたり、魔力で攻撃していた。 その中には、再参戦を果たした碧竜、メダの姿もあった。
「メダ!?」
少しずつマナを取り込み、魔力に変換させるウィルフィードは、一番にメダの姿が目に入った。
「ウィル、ごめん。 もう大丈夫。 戦えるから」
そう言い、口から魔力砲を発射させ、少しでも早く、この重力場を消す為に周りの兵士達と攻撃する。
────しかし、終わりは突然にやって来る。
「小癪な」
メーデンは腕に稲妻を走らせると、それを振り払う様に円を描いた刹那、囲う兵士達を点と点を繋ぐように稲妻が走り、心の臓の動きを止めた。
「──っ! メダアァァァァァァー!!」
その点にはメダも含まれており、鮮やかだった碧色の肌が黒く染まった。
ウィルフィードは嘆き叫ぶ。 幼い日から共に人生を歩んできた母の様な存在。 急過ぎて涙すら出ない、あまりに唐突な死。
それを悲観していると、憎悪よりも先に、記憶が蘇った。
***
『◯◯……、◯◯、◯◯◯?』
木々が立ち並ぶ森の中。 目の前に木の実を抱えた、幼い自分がいた。 何を言っているのか理解出来なかった。
(これは……、メダの視点なのか……?)
『コ◯キノ◯、オ◯◯◯◯!』
景色は変わらぬが、今度は、少し成長した自分が木の実を美味しそうに頬張っていた。 徐々に何か言おうとしている事が分かるようになってきた。
『……コノ子ヲ……、ヨロシク』
流れる様に光景が変わると、見覚えのあるようなないような、幼い金髪の女の子が、自分を抱えている。 正面には火の海。 横と後ろは木が林立している。
(この光景は……)
再び光景が入れ替り、森の中に戻る。 すると、瀕死の状態の自分に、メダは血が少し出る程度の傷を首に付けると、滴る血を自分の口に運んでいた。
(そうか、あの時俺が死ななかったのは、メダの血を、竜の生命の一部を取り込んだからか……)
そして、暗い空間の目の前に、白い光が煌々と、力強く光っている。
『君は……、……メダ、なんてどうかな?』
『うーん。 あっ! ウィルフィードなんていいんじゃないかな。 君にピッタリだ』
『ワタシはメダ。 この子の……、相棒かな?』
『俺は、ウィルフィード。 ウィルフィード・ゼラニウム』
白い光は在りし日の互いの台詞を再生した後、ウィルフィードの身体を包み込んでいく。
(……暖かい)
──それは、一番最初に名も無き碧竜に触れた時に感じた、温もりだった。
***
「んー? なんだそれは」
メーデンの視線、ロメリアの背後に煌めく魂の光。 それを発しているのはウィルフィードだった。
「これは……?」
重力に潰されていた身体は自然と持ち上がる。 そして、自身のその身体に変化が起きる。 爪は鋭く伸び、皮膚は所々が碧竜の鱗になっている。 更に、背中からは竜の翼、その下からは尻尾が生えてきた。
「メダ……、なのか?」
ウィルフィードは自身の中にメダの魂を感じた。
「これは、魂の光……」
メーデンは忌々しく、その輝きに目を細める。
やがて光がやむと、人の姿をした限りなく竜に近い黒竜と、竜の様だが限りなく人に近い碧人が対峙している。 しかし碧人、改めウィルフィードは未だに続く《重力の魂》に押しつぶされる。
「見た目が変わっただけか? ……ん?」
魔力を切らし、完全に回復した訳では無い。 なのにウィルフィードは膨大な風の力を使い、無理矢理重力に抗い、二つの脚で立った。 こんなに多くの魔力を持続的に消費し続ければ、眠りにつくのは必然。 しかし、メーデンはウィルフィードが放つ異様な力を感じ取った。
「貴様……、それはマナだな」
世界から湧き出る魔力の元。 超自然エネルギーのマナが碧人から放出されていた。 それにより、魔力を必要とはせずに、半永久的に風を生み出す事が可能になった。
「さぁ、覚悟しろ。 ……お前が奪ってきた命の報いを、今ここで受けろ!」
更新ペース落ちますが、必ず完結させます。
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