第22話 脅威、襲撃
「何者? ハッ! 俺は侵略しに来た者だよ」
と言う大男、アヴァリティアの台詞から、奴が帝国の人間だという事を理解すると共に、これからの事を思い、武者震いが起こる。 だがその奮起も奴の周りを見て直ぐに冷めた。
何故、戦争というのに武器をもつ集団がいないのか。 いるのは金髪を風に靡かせる女のみだ。
「なんだ? 陽動か?」
しかし、空から地上の状況を把握する竜騎兵団の研ぎ澄まされた第六感には、そんな大軍の魔力を一切感知できないし、目にも映っていない。
深く考える隙にアヴァリティアと、その連れのロメリアが近づいてきて、距離が奪われていく。
「陽動? そんなチンケな真似はしねぇよ」
その言葉が空気を伝い、耳に到達した時だった。 まだある程度あった距離が一瞬で完全に無くなり、先陣の騎兵団の一組みを蹴りだけで殺した。
「──欲しいモンは、自らの手で手に入れねぇとなぁ、気が済まねぇんだ」
「っ!? 総員かかれぇー!」
遅れたマルクスの合図に一斉に飛び込む。 けれども、腕と振るうアヴァリティアの間合いに入った途端に、圧力で身体が押し戻される。 中にはそれに耐える事が出来ず、気絶してしまう者もいた。
竜騎兵団も急降下し、参戦を試みるが曇りだした黒雲の空からの轟音を出す稲妻に拒まれた。 ウィルフィードはその雷が自然に生じた物では無いと、記憶が確信した。 どこかで聞いた事のある轟音に違和感を覚えた。
その稲妻と共に現れた上空の禍々しい『気配』に竜騎兵団達は冷や汗を流した。
『気配』はみるみる形を形成させていく。 その形は竜だ。 しかし、見た事の無い黒と紫の竜。 あの異形とはまた違って生物的ではある。 背中からは大きく、破れている様な翼を生やし、鋭い角があちこちにある。
何より、直立する体制をとっている。
普通の黒と白が逆転している目を開くと、瞳孔が異常にも二つ、計四つあった。流暢に人語を発した。
「空の相手は我が引き受けよう」
血が付着して何年も経ったような色の不規則に並んだ牙を見せて、不気味な笑みを浮かべている。
それにマルクスは目の周りに皺を作りながら細める。 汗が頰を伝うのを感じると、
「お前……、何者だ?」
明らかにこの世の生物とは思えない、異様な空地を出し、圧をかける奴にそう聞かざるを得ない。
「『強欲』の魔王に仕えし、四大魔竜『絶』の竜、ニヒル=セロ=メーデン。 死ぬ前に覚えな」
ウィルフィードは下半身を通じてメダが震えているのが分かった。
「おい、大丈夫かメダ。 降りても良いぞ」
メダは無理矢理にでも震えを止めようとした。
「武者震いだ。 問題はない」
やり取りをしている間、二組の竜騎兵団の者達が長いリーチの剣を振り回しながら、相棒の竜と共に突っ込んだ。 だがそれも虚しく、メーデンが腕を天に掲げると、周囲に黒雲からくる空を裂く轟音を伴った閃光がいくつも空を走り、それに墜とされれ、塵も残らず消え去った。
「他愛無いな」
予測不能に地に落ちる雷は、地上部隊の人間をも広範囲で消し去った。
全てをゼロに帰す雷鳴。 今のウィルフィードは思い出した。 この音は、自分の家が焼かれる前になった音だという事に。 つまり、あの時カリストスが帝国によって蹂躙された日にこいつはいたということになる。
そう思うと、心の何処からか憎いという感情が湧き上がってくる。 自分でもよく分からなかった。 だが、ウィルフィードの目的はロメリアとのコンタクトだ。 冷静に思考回路を回した。
攻撃をするべく風の刃を生んだ。 異形の時と比べ的が大分小さい。 時間をかけて狙うも、メダが揺れているのを感じた。 それが恐怖から成るものだと感じ取った。
「メダ、狙いがまとまらん。 本当に大丈夫なのか?」
マルクスを含め、生き残っている竜騎兵団が苦闘している一方で、ウィルフィードとメダは未だに役立てない。
メダは長い沈黙の後、人間の相棒に言った。
「……ウィル。 降りてくれ」
下降し、ウィルフィードを降ろした。 悔しそうな表情を浮かべる愛竜を優しく撫でた。
「メダはここで待っていてくれ」
「……………わかった」
そして、碧竜を残して地上部隊の方へ走って行った。
***
同時刻、未だにアヴァリティアの殺戮は続いていた。 次々と突撃する大勢の兵士を物ともせず武術だけで一網打尽にした。
「生温いな。 お前達は武器に甘えてるからヨエーんだよ。 ……おっと、あれがレイアか? あ?」
殺気の眼光を走らせるロメリアの力を感じる方向に目を向けると、そこに苦しそうにしているレイアがいた。
《創造の魂》の能力を行使し、マナを鋭い無数のナイフに変えてレイアを襲う。 それを槍で落とすが流石に限度があり、傷を負って跪く。
「くっ……」
「魔族はここで死んでしまえ!」
ナイフが掌中に集まると、今度は鋭い剣を生み出し、レイアに斬りかかろうと飛びつく。 その一閃は神速で横腹を的確に切り裂く。
「──っ!?」
だが、一閃は介入して来たアヴァリティアによって中断された。 大きな手から紫色の血を流してロメリアの剣を受け止めたのだ。 剣はマナへと還元されて消える。
「おい、お前。 何殺そうとしてんだ」
ロメリアの顎を持ち上げ、骨を砕く勢いの力を込める。 軋むような音がなり、顎骨にヒビが入る。 宙に持ち上げられたロメリアは悶える事なく、アヴァリティアを睨む。 そこへ──、
「──離せぇ!」
持ち上げていた左腕。 そこに繋がる左肩をレイアは自分の血で染めた白い槍を突き刺す。 紫血が空を舞い地に落ちる。 その影響で、ロメリアを持っていた手に力が抜けて、投げ捨てる。
顎に更なる衝撃を加えないように受け身を取り、息を整える。 痛がらない大男はロメリアに背を向けてレイアの方を向く。
「お前、レイアだったよな。 うちの人間がすまねぇな」
「うちの者? じゃあ何でこの子を傷つけるような真似を」
アヴァリティアは左肩を自己修復しながら質問に応答した。
「俺の者に傷付けたからに決まってんだろぉ」
「……は?」
何を言っているのか分からない。 そんな奴は獰猛な微笑みを浮かべてレイアを指差した。
「お前、俺の国に来い。 そうすれば、取り敢えずこの国は保留にしてやるよ」
「何を……、考えているんだ?」
訳の分からない要求をする目の前の男に、レイアは傷口を塞ぎながら睨んだ。 そこに、聞き慣れた声が遠くから聞こえた。
「レイアァー!」
振り向くとやはりウィルフィードだった。 走ってどんどん近づいてくる。 血まみれのレイアを見て、何処か既視感を覚えつつも、心配の眼差しを送った。
「おい、大丈夫か」
「大丈夫だけど、メダは?」
「メダは──」と言う前にアヴァリティアが横槍を投げて来た。
「何だお前? 邪魔だな、ロメリア奴を殺せ。 ついでに周りの奴らも」
息が正常に戻り、立ち上がろうとする視線の先、鎧を纏う黒髪碧眼の少年がいた。 そして自分達のいる周りに、戸惑う王国と要塞都市の兵士達が武器を持ったまま固まっていた。
「こ、ころせ……?」
「俺はレイアを相手にする」
震えるロメリアに目もくれず、奴はレイアに向かって進みだした。




