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黎明のサンライト  作者: 陽月ウツキ
SANLIGHT OF DAWN
19/33

第18話 ハデスの使者

 

 アジ・ダハーカとの戦いで負った傷や、精神的な疲労はすっかり取れて、再び旅に出る。



 早朝のミレトス城の扉の前に、レイア達とティンゼル国王は向かい合っていた。



 国王はちらちらとは見てくるものの、しっかり視線をあわせようとはしなかった。 その理由ならレイア達は知っている。



「……また苦しい事もあるかもしれないが、お前達なら大丈夫だろうな」



 その父親の台詞に娘のシアリィは甚だ腹をたてる。



「苦しい事って、なに?」



「──!?」



 切羽詰まった様な顔持ちで、一歩一歩激しく音を立てながら父親との距離を詰めた。 思わず国王は身体を後ろに反る。



「ねぇ、私知ってるよ? 帝国と戦うんだよね? なんで教えてくれなかったの?」



「いや、それは……」



「うん、それも知ってる。 父上の事だから、私たちを巻き込みたくなかったんでしょ? リンもいるし。 でもさ、そんなのおかしいよ!」



 ティンゼルは何も言えなくなってしまう。 自分のした事は正しくも無ければ、悪くも無い。 でも当事者からすれば、しかもシアリィの様な真っ直ぐで他人思いな人からすれば、悪く見えてもおかしくは無いからだ。



「確かに不安だよ。 みんなみんな不安。 でもだからこそ力を合わせてそれを乗り越えていくんだよ。 ……なんで私は、そこにいちゃダメなの? 私だって戦えるよ……」



 シアリィは涙を流した。 親として有り得べからざる事だ。 娘を慰めるように、己を戒めるように目の前の小さくて大きい女の子の銀髪を撫でた。



「……すまんな」



 ウィルフィードはシアリィの気持ちが、今だから理解出来た。



 幼い時から帰る場所が無いも同然の生活を送って来た。 それはとてもとても寂しくて、切なくて、辛い。



 旅に出て、帰ってきたら何も無くなっている。 それが怖いのだ。 想像しただけで涙が出る。 だからその未来を変える為に、シアリィも、そして全員が帝国と戦う決意をした。



「ティンゼル国王様。 自分も戦います」



「水臭いぞ、国王様よ」



「ウィルフィードとレイアまで……」



 感激のあまり、涙目になる情けの無い国王にリンは一歩前に出して、



「私も含め、マカミノクニの軍人供も助太刀致します」



「そんな、良いのか?」



「はい。 ……父上も度々、助け合いの精神は大切だとおしゃっていました」



「感謝する」



 レイア達の戦力も加わり、安心したティンゼル国王は再び会議室で対策を練る。 ウィルフィードがマルクスに提唱した案を国王にも伝えた。



「ガグラに協力してもらうのはどうでしょうか」



「確かにそれは良いかもな」



 話し合いが進み、ガグラに向かう事が決まった。 しかしそこへ行くにはアルヘオ大森林を通り抜けなければならない。 そこで森の地形をある程度把握していて、方向感覚に富んだウィルフィードがガグラ要塞都市へ赴き、同盟関係を作る。 ガグラとしても帝国は厄介だろうから同盟は締結される可能性は充分にある。



 そして森には《色欲》の魔王や、他にも未知な存在がいるかもしれない。 現状、それらに太刀打ち出来る存在はレイアのみだ。 よって護衛として一緒に行動する事になった。



 リンは明日の日の出と共にマカミノクニへ一旦帰り、軍を率いてミレトスに戻って来る。 自分の足で往復する為、帝国侵略までの残り七日まで間に合うかは分からない。 だがそれを利用し、遅れてくる事により相手の意表を突く良い作戦だと心中思う。 ただでさえ武力の無いマカミ軍なのだからこうでもしなければ勝利には貢献出来ない。



 特に何処にも行かないシアリィは救急部隊として動きを習う。 直接戦う事は出来ずとも、心では戦える。 皆んなに勇気を与え、死者を出さない様に真剣に取り組んだ。







 ***







 時は夜。 雲があるわけでは無いのに、一切の星の光が無い事にレイアは疑問を持ちながら空を見ていた。 違和感が心を埋め尽くす。 言葉では言い表せないモヤモヤとしたものがあって気持ち悪い。



 そんな時、広い範囲で夜空が歪み、嫌な予感がした。



「? なんだ?」



 歪んだ部分から何かがが舞い降りていた。 城内も街の人々も騒ついた。



 槍を持ち、急いで外へ出ると、既にシアリィとリン、ウィルフィードに国王とグレンメルまでいた。



「なぁ、ウィル。 ありゃなんだ?」



「レイアも来たのか。 分からないが、ヤバイ事だけは確かだ」



 神経を研ぎ澄ますと、レイアでも感じることの出来る異彩な魔力。 それだけで空間の歪みから出て来たものが人間だと分かる。



 その人間は地面に着地する事無く、宙に浮いて城の扉の前にいる武器を構えたレイア達に近づく。



 黒い汚れたローブのフードで右目を隠し、柄の悪い銀のネックレスと後ろに浮いて回転している不気味な大鎌は、死神を連想された。



「貴様、帝国の者か」



 ティンゼルは帝国との決戦が近い為にピリピリしてるのもあり、夜空と同化する目の前の死神を帝国の人間かと疑う。



「……ああそうか。 今は帝国との戦争前なのか。 忙しくなるな」



 独り言の如くの呟きで何を言っているのかは分からなかった。 しかし次はしっかりと聞こえる声で名乗った。



「俺は……ハデスの使者、ディオス」



「ハデスの……使者?」



 レイアは顔を訝しめる。



「ガイアとの条約により、そこの者を送還しに来た」



 そう大鎌を持ち指し示すのは、銀髪の髪を靡かすシアリィだ。 理解不能で狼狽えるシアリィは声を震わせて聞いた。



「そ、そうかんって……?」



「お前はタルタロスの千三百十三万千三百十三回の浄化ですら記憶消滅が出来ずに魂の循環のまま今に生まれた……。 それ即ち時代の乱れだ。 お前が過去に覚醒する前に、引導を渡そう」



 シアリィ出ない人間ですらその意味不明な言葉の中に、絶句する程の逃れられない恐怖があった。 本人のシアリィの気持ちは測定不能だ。



「ど、どうゆう事? じょうかとかじゅんかんとか、何言ってるか全く分からない。 分からないよ! 私が何であなたに狙われなきゃいけないわけ!?」



「理解しなくていい」



 必死な素振りで急な出来事を否定する様に、投げ払う様に抗議するも、無情の死神は冷たい目線で受け流す。 そして、何も無い空間に小さな歪みを生む。 そこへ腕を伸ばすとヴァイオリンを取り出した。



「──葬送曲第二番『誘い』」



 そう言うと弓で弦を震わせる。 しかし、音は聞こえない。 引いている筈なのに何も聞こえてこない。



「何をしてるんだ?」



 リンがそう漏らした直後、シアリィが頭を抱えて悲鳴をあげた。



「くっ……、うっ、ッア、アアアァァ!」



「お、おいどうしたんだよ……?」



 レイアが心配そうに触れようとするが、髪をくしゃくしゃに掴みながら身を激しく動かしてレイアの手を払い除ける。



 突然シアリィがこうなったのも、奴の音のない演奏だ。 と読んだウィルフィード鞘から剣を抜き、メダに騎乗し空中にいる死神に仕掛ける。 しかし、大鎌がそれを拒んで火花を散らした。



「クソッ、厄介だな……。 レイア、リン頼む!」



 地面を蹴り、大きく飛翔してリンは更に水の魔力を使い、天空へと噴射させ踏台にして勢いを増した。



「……ファラリスの雄牛」



 今度は金属で出来た牛の形をした物がうねり、歪む空間から出て来ては夜空を駆け、空っぽの中身を見せながら大きな口を開いてリンの攻撃を妨害する。



 食べられない様に必死なリンはディオスに攻撃は出来ない。 避けながら、レイアが自分を見ているのに気づき考えを察した。 レイアの足元に先の水の噴射を起こし、攻撃手段がもう無いのか無防備な死神に近づき、槍を使い、攻撃を試みる。



 当然の如く身体を捻らせて避けた。 一発攻撃のレイアは土台の水が消失して地面に墜落する。 その時にディオスの死角に位置したレイアは槍に炎を纏わせて投擲して、受け身を取った。



 狙う余裕が無く、感覚を頼りに投げた火槍は演奏していたヴァイオリンに命中し、灰燼に帰す。 それに伴い、シアリィは落ち着きを取り戻した。



「……はぁ、はぁ。 あの感じ、私は──?」



 力が抜けて地に跪くシアリィの身体をそっと父親が支えた。




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