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黎明のサンライト  作者: 陽月ウツキ
SANLIGHT OF DAWN
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第16話 隠蔽と後悔と

 


 シアリィが目覚めた二日後になって、ボルドー色の髪を持つレイアは目を開いた。 前回の魔力回復期間に要した三日を超え、七日間になったということは、言うまでもなく魔力の容量が増えている。 或いは本来の力を取り戻しているのか。



 その彼の目覚た直ぐに、ティンゼル国王にこれまでの経緯を話す為にウィルフィードはレイアとシアリィ、それからリンも含め玉座の間に向かった。 高く、豪華な造りのドアを開けるとグレンメルの姿も確認出来た。



 そして、ウィルフィードは旅立ちからの事を一から話した。

 マカミノクニへ行き、リンを仲間にした。 森へ行くと魂の力(アルマ)を持ったロメリアと、《色欲》の魔王との邂逅。 第二の魔柱(まちゅう)発生と共に顕現する、四大魔竜『苦』の竜アジ・ダハーカとの苦渋の血戦。



 数千年前に絶滅されたと伝承される闇の魔力を持つ魔族(バルロイ)の存在などの危惧も伝えながら、今までの事実を話したが、一部だけ捏造した事実を加えた。



 それは、レイアの魔族疑惑。 ティンゼルが目の前にいる者が魔族と思わしき人間だと知ると、望まなくとも立場上、監禁や、最悪の場合処刑をせざるを得ない。 その可能性をウィルフィードは恐れたからだ。 実際、レイアも《色欲》の魔王から拘束されたリンを助ける為に攻撃した以降の記憶は無いと言う。



 通じたのか国王は顔色一切変えずに呑み込んだ。



 経緯の説明を終え、それぞれ与えられた部屋の戻る。 その途中、ウィルフィードは竜騎兵団団長のマルクスと出会った。 出会ったと言うより、マルクスが自分の部屋のドアに寄っかかって待っていた。



「よぉ。 久しぶりだな。 どうだ? 一杯やらないか?」



 需要の無いウィンクを送りながら、乾杯の手振りをする。 久しぶりに会ったので、色々話を聞きたいのか分からないが、意味の無い人間関係は断つ様にしている。



「すまんな。 明日には出発するように国王から命じられているんだ。 酒は控えたい」



 それは事実だ。 国王は急かすようにそう命じていた。 少し不思議にも思ったが、こうして断るのに役立つとは思いもしなかった。 しかし尚も頼んできた。



「その気持ちも分かるが、取り敢えず一緒に来てくれ」



 いつものの呑気さが無く、真剣な顔に違和感を覚える。 部屋にいるメダに一言言ってから、マルクスの背を追った。 到着したのは懐かしのあの部屋のドアの前だった。



「何故、団長室なんだ……?」



 元々ウィルフィードが住んでいた、竜騎兵団団長専用の部屋。 入るマルクスの後に足を踏み入れると、丸っきり変わっていた。 その為か懐かしいとは思わなかった。 どうやら部屋にはその人の性格が現れるらしい。



 マルクスは前は無かった冷蔵庫から、酒の入った瓶を取り出し、一つの透明なグラスコップに注いだ。 その浮かれた様な顔を見てウィルフィードは不快になり、騙されたかと後悔した。



「なんだ、結局酒を飲むだけか」



 一気に飲み干して、「くぁああー!」と声を上げるマルクスがまた注ぎながら言った。



「何故、ここだと思う?」



「? 何故? ……いや、分からない。 行きつけの店が出禁になったとかか?」



 予期せぬ問いに戸惑い、考えて答えた。 が、笑われた。 もしかして、もう酔っているのかとまともに答えた自分にも後悔した。



「意外と面白い事言うじゃん。 なんか嬉しいぞ。 だが違う」



「じゃあなんでだ?」



 顔は赤くないので酔っては無いと判断して、一応会話を続けてみる事にした。



「これから言う事を、外部の者に知られたく無いからだ」



 阿呆で無様な顔からは考えられない真面目なトーンで言うと、ウィルフィードは顔を歪めた。 つくづく思考回路が読み取れなくてもどかしい。



「……なんだ?」



 酒をグビッとコップの全てを飲むと、もう既に瓶には酒が入っておらず、マルクスは出来上がっていた。深読みかも知れないが、酒で酔った勢いで伝えるつもりなのかと考えた。 そうだとすれば、なかなか口に出しづらい事なのか。



「帝国が宣戦布告してきたんだ」



「なんだと!?」



 その言葉にロメリアの姿が脳裏を過る。 しかし、彼女からは帝国に対する憎しみしか感じなかった。 もしかすると命の恩人だと言うのに、そんな事思いもしたくない。



「けれど、戦力がまるで足りないんだ。 そこでウィルフィード達に助力願いたいんだ」



 自分はそれは構わない。 レイアもシアリィも快く良いと言ってくれるだろう。 しかし、リンはどうだろうか。 部外者を巻き込みたくはない。 それに、自分達が戦力に入ったところでさほど変わらない。



「俺は別に構わないが、他の人は分からないし、それだけで戦力を帝国と対等に出来るとは思えないな」



「協力感謝するよ。 そこんところは聞いといて欲しいけど……、俺も正直まだまだ足りないと思う。 何か案ないか?」



 ヴェルギナ帝国は革命が起きてからというもの幾多の国を蹂躙し、世界征服する勢いで領土を拡大してきた百戦錬磨の負け知らずの国。 レイアを二人分の強さと見ても、そう敵う訳無い。 良い案は無いのかと脳回路を高速で回していた時、閃いた。



「ガグラに共闘を頼むのはどうだろうか?」



 要塞都市ガグラ。 ミレトスと同じく竜を信仰する国家だ。 その点、協力してくれそうだが、言っといて気は進まない。 だが、それにすがる他無い。 マルクスも同じだった。



「まぁ、そうなるよな。 ありがとよ、ウィルフィード」



 その言葉を最後に聞くと、部屋を出た。



 ウィルフィード自身、帝国と戦う事にそこまでの拒絶する心は無かった。 それは恐らく、第二の故郷を失いたく無い気持ちから生まれた物だろう。 それにロメリアともう一度会えるかも知れない。 という想いもある。 だけどやはり、怯える心も否めない。 その不安を紛らす為とは言わないが、皆んなの意思表示も早めにしておこうと思った。



 自分の部屋にレイア達を連れてきた。 メダは何が起こっているのか分からない顔をしている。 皆んなもそうなのだが。



 全員がウィルフィードを見る為に、言い出しづらい事が更に言いづらい。 一人一人言っていけば良かったかと本日三度目の後悔。 けれども、自分が言わなければ何も始まりはしない。 一呼吸置いて覚悟を決めた。



「混乱するかもしれないが、聞いてくれ」そう前置きをした。



「ヴェルギナ帝国に宣戦布告された。……らしい」



 それを聞いて驚くのはレイア以外だった。 それもそうかとレイアの理解出来ていない顔を見るとそう思った。



「つまりだな、そのヴェルギナと言う強靭な国がこちらに戦争を起こすつもりなんだ」



「え、なんでよ?」



 理解したレイアは棒読みでそう言う。 確かに、何故急に宣戦布告などしたのか全く分からない。 けど、今までの帝国の動きから考えると、ただの気まぐれかも知れない。



「まぁ、取り敢えず戦力不足なんだ。 一緒に戦って欲しいんだ」



「なるほど。 よく分かんないけど仲間のためとあらば」



「私も。 ここは帝国なんかに渡さないんだから!」



 予想通りレイアとシアリィは引き受けてくれた。だが、リンは悩んでいた。 父親を取り戻す為について来たのに、脱線している様な気がして、腑に落ちない。 しかし、ここで王国に借りを作るのも悪くはないとも思った。



「……私含め、マカミノクニも協力致しましょう」



「巻き込んですまない。 そして感謝する」



 まさかの返答に、一つの国を後ろ盾にする事になり、内心の喜びを必死に隠す。 だけど、それだけでは足りない。 残りを補う為に、後は要塞都市ガグラでも結果次第という事になった。




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