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黎明のサンライト  作者: 陽月ウツキ
SANLIGHT OF DAWN
12/33

第11話 急変する事態

 

 もうすっかり辺りは暗くなっていて、所々に星が観れた。 ロメリアが木を切ってくれなければ夜という事が分からずにいただろう。



 ルクスリアがこの場から離れた為か、もしくは大きな衝撃にあった為かは定かでは無いが、拘束状態から抜け出して身体の自由を取り戻したリンは、その場に膝をついて荒い呼吸をする。



「大丈夫?」



 小刻みに震えるリンに近寄ったシアリィは優しくリンの背中を撫でた。 すると段々といつもの呼吸を取り戻していく。 冷静になればなるほど、アイツ、ルクスリアへの憎悪と怒り、それから恐怖が募っていくばかりだ。 それらの感情はリンの脳内を反射しながら暴れる。 そして絡み合い、大きくなりってそれはやがてリンの心を、「復讐してやる」という台詞で染め上げていく。



 そんなリンの元にウィルフィードも来て、言った。



「レイアは突然ルクスリアに攻撃して後退させた。 レイアはまだ追ってる。 俺たちも行こう」



 柄を握り直し、頷くリン。 それを確認すると、ウィルフィードはメダにシアリィを乗せて来いと指示を送る。 そしてウィルフィード達は木の倒れ続けて生まれた道を駆ける。 しかしシアリィは硬直しているロメリアを見て、メダに止まる様に頼んだ。



「ロメリア、あなたも来る?」



 ロメリアはシアリィを見ると、苦い表情で頷いてくれた。



 レイアを追うウィルフィードとリン。 それを追ってメダに乗るシアリィとロメリアは出発した。






 ***







 一方でレイアに吹き飛ばされたルクスリアは着地した場所を見回す。 口に翡翠色の宝玉を咥えた竜の頭の古びた石像があって、甲高く笑って近づいた。

 その時、後ろから来ていた者が勢いよくルクスリアの背後に着地し、獣の様に唸る。 自分を中心として黒き炎を天に届く程高い竜巻にして、ロメリアがしていた様にそのまま円を大きくする。



 その炎に木は次々と灰と化し、落ち葉が無くなって今度は土の上に灰が積もった。



 ルクスリアは水の魔力で対抗しても、どこに逃げても無駄だと言う事を悟り、必死に身構える。 だが幸運にも目の前でその黒い炎がスッと消えた。 そして何かが倒れる音がした。 ──レイアは魔力警告により、眠りについた。



「アブないわねェ、もうォ」


 ホッとして、彼の生に終止符を打つ事も考えた。 けれど、どうせ四日は寝ているだろうと思い、まずは翡翠色の宝玉に魔力を注ぎ込むのを最優先にした。



 竜の頭の局所的に壊れた石像が咥える翡翠色の宝玉に手を掲げ、自らの魔力を入れる。 周囲の大気が揺れ始め、マナの動きが激しくなるのを感じていた。木の葉は揺れに耐えられずに枝と分裂して中を舞う。



「レイアァァー!」



 倒れ元の髪色に戻ったレイアを認識してウィルフィードは叫ぶ。 当然、応答は無い。 彼の元まで来ると魔力による警告だと少し安心した。 だが横を見ればルクスリアが何かをやっている。 リンはその隙を狙い斬りかかる。



「おっとォ! 今近づくとアブないわよォー」



 そう言われ、何か仕掛けるのかと思い、急制動をかけてウィルフィードの元に後ろ跳びで戻り、一緒にレイアを庇う体制に入る。

 リンはまた斃し損ねたと後悔する。 この地面の揺れや、大気の避ける音に危機感を覚え、自分が死ぬよりはマシかと言い聞かせる。



「イイねェー、これは大物予感。 今のうちに逃げときなよォ」



 とニヤけ、尚も魔力を注ぎ込んでいるルクスリアの意味不明な発言に更にお互い武器を強く握りしめる。 何が起こるのかまるで分からない。 警戒の為に目を細める。



 すると突然、翡翠色の宝玉にヒビが入る音が響く。 そこから尋常じゃない量の魔力が天に伸びていく。 魔柱(まちゅう)だ。 ウィルフィード達は驚きを隠せず、口が思わず開く。



 そこに丁度、シアリィメダとロメリアが到着した。



「なに……? これ……」



 開口一番シアリィはこの状態にそれしか言えなかった。 ロメリアは魔柱から感じるいくつもの魔力に気持ち悪くなり、顔を顰める。



「さあァ、おいで! 私の下部!」



 ルクスリアは両腕を広げてそう言う。 それに呼応したかの様に魔柱が細くなっていく。 そこに隠れていた巨大な、あのミレトス王国に来た異形とは比べ者にならない程に、最早見上げないと顔が見れないくらいに巨大な、三つの首にそれに対応して三つ顔。 それぞれに二つの血の様な鮮明な赤の目を持った黒竜が姿を現した。



「なんだよ……コイツ」



 その巨大さに息を呑むことしか出来ないウィルフィード達を見て、心底楽しそうな顔に両手を当ててルクスリアはその竜に命令する。



「アジ・ダハーカ! 目障りな坊や達をヤっちゃってェッ!」



 アジ・ダハーカ。 そう言われた黒竜はそれぞれの口を開いて叫ぶ。 それはもう耳を塞がなければ鼓膜が破れるところだった。 尻尾を叩き付け、木を潰し、地面を揺らす。 すると、三つの首からカサカサと音がして無数の鱗がレイア達めがけて木々を吹っ飛ばして襲ってくる。



 ロメリアは急いで魂の力でマナの防壁を展開させ、皆を守る。 数多の黒い鱗が防壁と衝突する。 何秒かは持ちこたえても、次々と飛びかかる鱗が防壁を破ってその刃をウィルフィード達に向ける。



 それぞれ武器を振って追尾してくる鱗をいなす。 だが、全てを避ける事は出来ず足や肩、横腹などに損傷を負う。 ロメリアに関してはメダに乗ったシアリィとレイアを生み出した剣四本で守る。 更に自分は双剣を使い、自己防衛をするので全神経を集中して瞬き一つすらしていない。



 鱗の勢いに段々と後ろに下がっていく。 背後には木もあるため余計に回避するのがきつい。 やがて鱗の波が終わると、そこはミレトス王国の前に広がる名も無い野原だった。



「じゃあァ、私は少し休むから。 時間稼ぎヨロシクゥ」



 ルクスリアはそう竜の生命力を使い、直ぐに新たな鱗をつけたアジ・ダハーカに言うと、森の闇の方へ消えてしまった。



「承知、致シ、マシタ……。 ワ、ガ主ノ……、命トアラバ……」



 三つの顔が交互に慣れない言葉を発すると、空を覆う大きさの翼を広げて飛行する。 その凄まじい威力に葉は全て落ち、弱い枝は折れてった。 その巨体を翼で持ち上げ、レイア達が飛ばされた方向へ向かう。



 巨躯の黒竜からすれば、レイア達との距離はさほど遠くなく、すぐに目の前に立ちはだかった。 所々に負傷を負い体が思うように動かない。 ロメリアとメダに守られたシアリィは傷無く無事で、これまでの魔獣との戦いで魔力を相当使っていたが、最後の一滴までを振り絞り、全員を回復させた後眠ってしまった。



「シアリィ!? ……っくそ……」



 ウィルフィードのみならずリンとロメリアも倒れたシアリィの元に来ては奴を睨んだ。 圧倒的な大きさと力。 畏怖という言葉をそのまま形にした様な見た目。 睨み返す六つの血の様な目。 鋭く、凶器の様な牙を見えて吼える。 それに怖気ついてしまう。



 ここから逃げる事だって出来る。 けれど──



「でも、奴を看過する事は出来ない!」



 ウィルフィードは啖呵を切る事で、己を奮い立たせた。 それに同調する様に、リンは刀を目一杯に握る。 ロメリアは大剣一本と、剣四本を《創造の魂》により生み出した。

 それを嘲笑して言を発す。



「ハ、ハハ……。 タ、カガ聖族(ヘレネス)ノ、末裔、ドモニ……、コノ、我……四大魔竜『苦』ノ竜ヲ……、斃セル、トデモ……?」



 三つの首が不規則に動いている。 聖族の末裔や、四大魔竜が腑に落ちない点だがそれよりアイツを斃す事が先決だ。


 ウィルフィードはメダに騎乗し、右の首に向かう。 メダの勢いと剣身に込めた風の魔力を噴射し、自分でも制御出来ない速度で斬りかかる。 しかし鱗が硬く、切り傷を付けただけだった。 その鱗と周りの鱗がカタカタと揺れると鱗が剥がれ、先の黒い波を作る。



 ウィルフィードはその追尾してくる鱗から逃げながら、活路を見出した。 鱗が剥がれた皮膚。 そこは恐らく刃が通る筈だと考え、リン達に伝える。



「鱗の無い部分を狙えぇー! そこなら通用するはずだー!」



「承知」「わかった」



 とそれぞれの返事をして、リンは奴の身体を登る。 ウィルフィードを攻撃する為に無防備になったところに刀を突き刺す。 すると紫の血がそこから溢れ出した。 アジ・ダハーカの左手の爪がこちらに来たので、軽やかな身のこなしで左手に飛び乗る。



 ロメリアは大剣に乗り、四本の剣と共にそこへ向かう。 左手がそこをを塞いでしまった為、攻撃しても通用しない。 するとリンはこちらに視線を一瞬送る。 切先を夜空に掲げると、リンの水の魔力がマナと融合して大量の水が生まれる。



「その手を退けろぉぉ!」



 刀を振り下ろすと、水が螺旋を描きながら奴の左手に直撃。 その質量に耐え切れず、水の勢いと共に手を下げて怯む。 そこに隠れていた皮膚が露わになる。



 リンの入れた傷にまず、四本の剣を同時に突き刺し、線を引く様に斬る。 続いて大剣から飛び降り、首の傷に身を投げる。 大剣は更に速度を上げると、空中のロメリアの掌中に収まった。 その反動と大剣の遠心力で高速回転し、首に斬りかかる。



「斬れろぉぉおー!」



 大剣は傷を深く抉り、筋繊維一本一本を引き千切り、骨を砕いて円を描いた。 奴の右の首を切り落としたのだ。


後々、伏線を回収します。

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