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黎明のサンライト  作者: 陽月ウツキ
SANLIGHT OF DAWN
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第10話 魔王

 


 さっきまで閉塞感に溢れていた森の中が、キトンを着たサラサラな長い金髪を持つ優美な女性によってこの周辺だけ開放感を得ていた。

 空を見ると、森に入る前は雲がありながらも晴れていたが、今は灰色の重い雲が空を侵食していた。



 レイア達は恐る恐る立ち上がると、周囲を見渡して改めて背筋を震わす。 この女性は何者なのかと思考しているところに彼女が口を開いた。



「あの、さっきはすみませんでした。 怒りで我を忘れていました」



 俯き反省する女性に対してシアリィは責める事なく彼女の元にちかづいた。 そして慈愛に満ちた笑顔で慰めた。



「全然へーきよ。 ところであなたのお名前は?」



 近づかれて、少し後ずさりする。 質問に対しては誰にも目線を合わせずに答えた。



「……ロメリア。 ロメリア・アルスト……」



 ロメリアと名乗った女性は顔を力ませた。 しかし、シアリィやその他の者の反応を見て、「えっ……?」と少し驚いた表情を見せる。



「ロメリア……。 いい名前ね!」



「…………」



「え? 私おかしなこと言った?」



「え? あ、いやなんでもない、です……」



 慌てふためくロメリアをシアリィは笑った。 ロメリアはこの人達は変わり者なのかと思いつつ、自分も雰囲気で笑ってしまった。 そこにウィルフィードがシアリィに次いで質問をした。



「さっき帝国と言っていたが、君は帝国の者なのか?」



 ウィルフィードの言葉にロメリアは苦しい表情をして、頷いた。

 ウィルフィードはこれ以上の深い掘りな質問はやめた方が良いと判断して、「そうか……」とだけ返した。 でも、これだけは聞いておきたかった。



「君は俺のことを知っていたようだが……。 何処かであったか?」



 ロメリアは沈黙してしまう。 碧眼の目にブレることなく見られて思わずそっぽを向くが、その先に碧竜のメダがいて息を呑んだ。



「……いや、私の人違いだった」



 誤魔化しているのはレイアからしても明らかだった。 別に言いたくないならそれでも構わないと沈黙で答えて見せた。 その沈黙に耐えられなくなったのか、今度はロメリアが質問をして沈黙を破った。



「と、ところで、君達は……?」



 その質問に対してはまず、各々が名乗った後、これまでの経緯をレイアが全て答え、それに付け加える様に他の三人と、一匹が答えた。 レイアの説明だけでは伝わらないからだ。 的確な後付けにロメリアは納得した。



「あのさ、ずっと思ったけど魂の力(アルマ)ってなにさ?」



 手を上げて訝しい顔で疑問を打ち明けた。 それにシアリィも賛同する様に二度頷いた。

 それにウィルフィードがレイアでも分かりやすい様に解説する。



「魂の力とは、誰しもが持つ自分だけの力です。 先天的にその力に目覚める者もいれば、何かしらの原因で後天的に目覚める場合もあります」



「へぇー。 じゃあ俺もその力があるんだ!」



 目を輝かし、子供の様にはしゃぐレイアを見てロメリアは、



「因みに私は生まれた時からありました」



「へぇー! すごいじゃん!」



 ロメリアは顔を赤らめた。 しかし、どこかもどかしい様な不思議な感覚に襲われた。



 ──瞬間、強大な底知れぬ魔力を感じ、全ての者が怯え震えた。



「騒がしいから来てみれば、なァにこれ?」



 聞き慣れない、狂気を帯びた色声に汗が止まらない。 声がした方を見ると、最早裸と思う程の露出した服、というよりは下着に近い。 その上から透明なマントを羽織っている。 そして極め付き目立つ、紫色で真ん中に一つ目が描かれている両目眼帯の長い紫の髪を持った女性だ。



 リンはその姿を見て、ゆっくりと憎悪の表情に変貌する。 ロメリアを除く、他の者はそこに立つ豊満な胸を持ち上げながら腕組む女がリンの父親、ユウシ・クシナダを攫った本人だと確信した。



 太く色の濃い唇を動かして、こちらに顔を向けながら声を出した。



「そこにいるのは……人間五人と竜一匹ねェ。 坊や達は何者かなァ?」



 色っぽく、悪い誘いをしている様な声で訊ねた。 しかし、リンは歯を強く強く食いしばった口で訊ねられた事にそぐわない言葉を発した。



「貴様ぁ……、こんなにも早く見つかるとは私も運を使い果したものだ!」



 リンの目線に映る両目眼帯の女は目は見えなくとも考えている表情をしたのがわかった。



「その声……。 あァァ、分かった。 アナタァ、あの男の娘ね」



 その声に怒りと憎悪は増幅していく。 リンは背負っている刀の柄を持ち、鞘からその黒と銀に光る刀身を露わにする。 構えるその姿は殺気をドロドロと放出し、ただ一点、奴の首を狙う。



「アラアラアラアラァァァ。 そんなに殺気を出しちゃって、怖いわねェ」



「安心するが良い。 殺しはしない」リンは低く身構え、脚に力を込める。そして落ち葉を蹴り、風の様な速度で女の懐へ入り、刀で斬りかかろうとする。



「拷問するだけだぁぁああー!」



 女は腕で不可解な動きをすると、周囲が闇に染まり、視界を悪くする。 ただの目眩しかとリンは目を瞑り、己の感覚だけで奴のの首に刀を地面と水平に斬る。 直ぐに闇が晴れると、リンは捉えたと思っていたが、刀は奴の首直前で止まっていた。



(なっ……!?)



 金縛りにあったのかの様に身体がそれから動かない。 当然声も出ない。 女は狂人の笑みを浮かべてマフラーの中に手を突っ込みリンの頰を優しく嬲った。 それに体の奥底から震える感触にあい、恐怖心が心を支配する。



「アナタァ、綺麗な肌ねェ。 羨ましいわァ」



 そこへレイアは槍の穂先に烈火の炎を纏って、ウィルフィードはメダに乗り、上空から奴めがけて風の刃で攻撃を仕掛ける。

 ウィルフィードの攻撃は後ろに下がる事で回避し、レイアに関しては、自分の魔力にマナを融合させ地面から水を噴射させて上空に投げ飛ばす。



「うわぁあぁあぁー!?」



 突然の噴水に反応し切れずに曇った空に弧を描いて落下する。 それをメダに乗ったウィルフィードはキャッチする。

「ナイスキャッチ!」と親指を立てるレイアに、ウィルフィードは「言ってる場合か」と返す。



 女は心底感心した様に手を叩き、レイアを下ろすウィルフィード達を褒め称えた。



「アナタ達、ヤるじゃァァないの。 でも私は今忙しいのよ。 私とアソびたい気持ちはよ良ォォく分かるわァ。 でもォ、ま・た・こ・ん・ど。 ねッ?」



 そうウィンクを送りながら言い、立ち去る女をロメリアは「待て」と冷静だが焦りもある声を出して止めた。



「お前、何者だ? その闇の力といい……、私の憎い相手に似ている」



 顔のみを声のする方に向けると、首を傾げて質問に質問で返した。



「それって、誰のこと?」



 比較的真剣な声にロメリアの心は少し後退するも、自分を一歩前進する事で勇気を出した。 あまりこの名を言いたくは無いが、ここで言わなければ何も進展が無いと思ったので心を無にして答える。



「アヴァリティア」



「あァー。 なんだアイツもいたのか。 第一の封印から目覚めたか。 いやァ、それとも私と同じく逃れたかァ、ねェ」



 一人でブツブツと漏らす姿にロメリアは引く。 しかし、独り言の内容からそのアヴァリティアとは何か関わり合いがあるのかと思われる。するとまた質問してきた。



「その男は今どこに?」



「ヴェルギナ帝国の帝王だぞ? 知らないのか?」



 ロメリアは疑問に思いながらも答えた。 なんとなく目の前にいる者の正体が分かったが、改めて訊く。



「で? お前は何者だ? まぁ、察しはついたが」



 一言一言言う度に憎しみが膨張していき、表情は暗くなっていく。 ロメリアの周囲のマナが竜巻の様に激しく動くのを感じた 。 それを嘲笑うかのように目の前の女は名乗った。



「『色欲』の魔王、ルクスリア」



「殺す」



 そうロメリアは言い切り、マナが大剣を形造り、大剣の重みを活かして自分を回転させながら進んで、一刀両断にしようとした時、ロメリアを光の如く追い抜かしたレイアが槍を持ってルクスリアとの距離を縮めていく。



 その速さと、意識が完全にロメリアにあった為に反応出来ず、レイアの穂先を振り落とした攻撃を受けてしまう。 その反動でルクスリアは木々を薙ぎ倒しながら、後ろへ投げられる。 そしてレイアはそれを追うべく地面を蹴って空を裂きながら進む。



 ロメリアは異変を感じた。 レイアからもさっきの『色欲』の魔王と同じ様な闇の魔力を感じた。 それに、ボルドー色の髪がいつもよりも黒に近かった。



 水の壁を展開して多少なりとも攻撃の威力を落としたが凄まじい勢いで後退するルクスリア。 その中で体制を立て直すと、一つの膨大な魔力を持つ者が急接近していくのを感じ、咄嗟に拘束状態にする闇を出した。 しかし、それは奴の出した黒い炎によって消される。



 こうなったら少しでも足止めをと、水の破壊光線を何本も撃った。 がそれも虚しく槍に纏った黒き炎が一瞬で蒸発させる。 蒸発音を聞いてルクスリアはニヤける。 液体から気体になった水はレイアの視界を悪くした。 少し離れていくのを感じながら木の幹を両足で蹴って着地した。



 ルクスリアは自分の近くにあった石像を見て盛大に笑った。



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