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黎明のサンライト  作者: 陽月ウツキ
SANLIGHT OF DAWN
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第9話 殲滅する剣

 

 新たな仲間リンを迎えたレイア達は大手門の前で、姉妹のやり取りを眺めていた。



「ラン、身勝手な姉を許してください。 必ずや戻ってくるので、それまで仮将軍としてマカミを守ってください」



 リンは前髪で右目を隠したり、いつも櫛で一纏めにしているのだが、それがない。 明らかにいつもと違う格好をしていた。 その姉に対して、いつもの可愛らしいツインテールのままのランは満面の笑みを送る。



「大丈夫だよー、姉上。 私を誰だと思っておられる?」



 自慢げな口調で言いながら腰に手を当て、胸を張って威張る。 その妹の姿に姉は杞憂だったかと思い知らせれる。



「そうですね。 共に鍛錬をした身です。 齢の差が二つあれど、ランの実力は確かでしたね」



「ふっふーん。 そうでしょそうでしょ」



「ですが、一応これを」



 と差し出したのは普段身につけている櫛だ。



「魔除けの櫛です。 持っておいてください」



 ふっと微笑むリンにランは歯を見せて笑い、礼を言いながら櫛を受け取った。 良い姉妹だなとレイア達や、既に知っていたが改めて絆の強さに思い知った民衆達は感心した。 中には涙を流す者までいた。 その内の一人はシアリィだ。



「あああぁー。 なんて素晴らしい家族愛なのぉー」



 遂には鼻水まで垂らすシアリィ達の方に髪を自分に巻きつかせながらリンは振り返った。 そしてレイアを見た。 その表情は清々しかったが、怒りの様なドロドロとした黒い気持ちも読み取れた。



「では、参りましょう」



 そう言って、大手門の前で待っていてくれたレイア達の元へ行く。 大手門は開かれて、橋の先にもある大手門を映した。 リンは沢山の声援を身に包みながら、木造の橋を一歩一歩触感を感じながら進む。

 そして、最後の大手門が開かれると、アルヘオ大森林が見えた。



 レイア達は大手門を潜り、軍人二人に会釈すると、森林を鋭く睨んだ。

 謎に満ち満ちた不気味の森。 レイアとシアリィにとっては記憶が無いものの少なからず縁のある森。 ウィルフィードに関してはここでメダと共に生活を送っていた場所でもある。



「ところでさ、リンのその格好なに?」



 険悪な雰囲気を払おうとしたのかは分からないが、レイアは今までとは違うリンをその紅の瞳に映して、疑問を抱えたので訊ねた。



「これは戦の時の格好です」



 さっきとは違う箇所があり、それは肩から目の下ギリギリまでマフラーをグルグル巻きにしている事だった。



「でも、右目隠してたら戦いに支障がでない?」とシアリィが問う。 その問いの答えにウィルフィードは頼もしさを感じられずにはいられなかった。



「視界に映る物が全てでは無いので。 そう言った先入観を捨てる為にしています。 ……まぁあまり意味は無いでしょうけど」



「じゃあそのマフラーは?」とウィルフィードの隣を歩く碧碧竜のメダが言った。



「顔を隠す為と、ただの寒がりなので。 ……ところで私は竜が人語を話す事に驚きです」



 レイアはその言葉に仰天する。 今の今までメダ基準で竜と言う種族を認知していたので、てっきり喋るもんだと勘違いしていた。

 ウィルフィードはレイアへの説明も兼ねて話した。



「これは古代書の内容になるが、人には知恵が、竜には生命力が神より与えられたそうだ。 そのせいか、知恵を持たない竜は人語を理解する事が出来ないんだ」



 続けて、メダが声帯を振動させて人語を話した。



「だけど、ワタシの場合は人であるウィルと長い時間を過ごしたからか、理解し、喋れるよになってたんだ」



「生命力は与える事は出来なくとも、知恵は与えられる。 と言う事だ」とウィルフィードは付け足しする。 その言葉を聞いたメダは一瞬、濁った表情見せた。 しかしあまりに一瞬なので誰も気づかない。



 リンはその説明に納得した。 レイアも納得したものの、また疑問が生まれた。 その頃には森に入っていた。



「神とやらが、わざわざ二つに分けて与えたのは意味があるんじゃないか? それをそう安易に与えて良いのか?」



「あくまで古代書の話だ。 真実かどうか分からない。 それより、森に入った。 皆警戒しろ。 いつ魔獣が来るか分からない」



 ウィルフィードは警告した途端、全員の顔が変わって警戒心を帯びた表情になる。


 蔦が絡まった木々が所狭しと林立しており、陽光すら通さぬ程なので視界が悪く、落ち葉が積もりフカフカした触感と木の根が地面を隆起させている為に歩くのも大変だ。

 それに一番恐ろしいのは、



「皆、逸れるなよ。 ここは予兆も無く急に濃霧が発生するからな」



 ぎゅっと皆が近づき合い、共に声をかけ合いながら、先日発生した魔柱(まちゅう)発生地まで向かう。

 その道中に沢山の魔獣の群と遭遇する事になるが、ここにはミレトス王国元『竜の劔』竜騎兵団団長のウィルフィードと相棒のメダ、マカミノクニの実力者リン。 それから王国を謎の異形から救ったレイアがいる。



 来たる全てを返り討ちにした。 レイアはその時、黒髪に眼鏡の知的な男グレンメルに感謝した。 魔力の扱いを習わなければ、もう警告で眠りについていたであろう。 魔力は魔法だけで無く、戦いなどの激しい動きをしても消耗される。 なので相手を見定め、極力少ない魔力を使って相手を屠っていった。



 そして、激しい動きをし終えたら、超自然エネルギーのマナを自動的に吸い込んで魔力に変換する事で身体が疲弊から少し解放された様な気分になった。 魔力は行使と回復を同時に行えない為、不便さを感じながらも魔力が少しずつ回復していく心地を味わった。



 その時だった。 連戦で身体の疲れが完全には解けてないレイア達の足元に、緑で透明な矢が刺さった。



「うわっ!?」



 ウィルフィードは咄嗟にシアリィを庇う位置に行き、矢の刺さった角度から飛んできたであろう方向を向くと、木の太い枝に片膝をついて座っている、弓を持った女性がいた。



 いつの間にか緑透明の矢が消えていた。 急な出来事に理解が追いつかないレイア達を上から目線で睨んで女性は敵愾心を込めた声で言った。



「何者……?」



 ウィルフィードは努めて冷静に応じる。



「急に矢を放ってくるとは……、そちらこそ何者だ」



 その返答に女性は更に憎しみを増幅させた表情を見せると、



「うるさい! 本当は分かっているくせに……!」



 レイア達は意味が分からなかった。 彼女を見るのはレイア含め初めてだ。 恐らく誰かと勘違いしているらしい。



「? 俺たちは君の事を知らないぞ」



 レイアは誤解を解こうと応じるが、激情に狂っている彼女には意味無かった。



「帝国人の言うことなんて、何一つ信用出来ない!」



 帝国。 帝国と言えば、ヴェルギナ帝国と呼ばれる、世界最大の領土を持ち、軍事力もズバ抜けてトップに立つ国だ。

 これまた憶測だが、彼女は帝国の住人で帝国に追われている。 そんなところか。



「俺達は帝国の者ではない。 ここにいるのはミレトス王国とマカミノクニの者だけだ」



「そんな事言いって、私が信用するとでも──」



 急に声が小さくなり、表情からも憎しみが消えた。 そう思った時、彼女は枝から飛び降りてウィルフィードの前に着地する。 相当高さはあったが、きれいに衝撃を分散させて身体能力の高さを見せつけられた。 その驚きと急に目の前に来る警戒で、後ずさりをした。



 木の葉が邪魔をしていて姿がよく見えなかったが、足が非常に長く筋肉質だが細い身体に、濁った白色のキトンを着こなしている。 左右対象に揃った堀の深い顔に透き通った蒼い瞳と金髪が更に優美さを増していた。



 そんな彼女はさっきまでの憎悪に満ちた顔をやめ、何かを思い出すようにウィルフィードをまじまじと見る。



「君は……、あの時の……?」



 ウィルフィードは首を傾げた。 目の前にいる女性を見るのは今日が初めてのはずだ。 だが彼女の自分の事を知っているのかと匂わす発言。 あの時とはいつの事かさっぱり分からない。



 そう考えていると、リンが気配に気づいた。 金髪の女性の後ろから大きく無数の獰猛な牙を見せて魔獣が食い千切らんと飛んで襲ってきた。



「っ!? 危ない!」



 とリンが叫んだのとほぼ等しく、魔獣は切り刻まれて紫の血を空中に飛ばして、千切りにされた身体や、臓腑、二つの目ん玉が抵抗無く地面にばら撒かれた。



 その光景に何が起きたのかさっぱり理解不可能なレイア達は驚きの表情しか出来ない。 女性の周りには先の矢と同じ、緑透明の剣三本が飛び回っている。



「それは……?」とシアリィが口に出すと、女性は蒼い瞳を閉じて答えてくれた。



「……魂の力(アルマ)、《創造の魂(クリエイション)》」



 レイアとシアリィは魂の力が何なのか分からなかったが、リンとウィルフィードは驚愕していた。 そのウィルフィードが思わず声を上げる。



「魂の力だと……!?」



 彼女は驚嘆する黒髪の青年を見透かすと、目を細くして周囲を見る。 その視線には木陰からいつくものもの赤く、鋭く光る、目があった。



「それより、囲まれてしまいましたね」



 とだけ言うと、周りのマナが渦を描きながら段々可視化して、緑透明の剣を創り出す。 三本が更に倍になって六本になりって彼女を中心として円を描いて飛び囲う。 守るのかと思いきや、急にその速度を上げながら、半径が広がってゆく。



「死にたくなければ、しゃがんでてください」



 六本の剣は木ごと切り倒し、周囲にいた赤く光る目の正体、魔獣を一匹残らず惨殺する。 紫血が剣の勢いにのって地面にぶちまける。 バラバラにはなった腸などの臓器や、歯、牙、目が至るところに飛び、そのままだったり木に当たっりして落下した。



「えげつなっ!?」



 レイアだけで無く、皆がこの容赦の無い女に対し、恐怖を抱いて冷汗や身震いする。



 しかしウィルフィードは多少の感心を覚えた。 見たところ《創造の魂》、目に見えない生命の源であるマナを可視化させ、形創る。 汎用性に優れた能力だが、使い方次第ではこれ以上無い兵器となりうる。



「大丈夫?」



 と言う金髪の美女の周りには切られた沢山の木や魔獣の一部が転がり落ちていた。



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