第六話 アンデットと妹
前話で9時に上がると言ってたのですが、私用により、早めに更新しました。
話が終わったあと、俺はリタにティナの体調を見てもらえないか、聞いてみた。
俺やクレア姉さんの知識では、今は落ち着いていて、大丈夫なように見えるが、もしかしたら見えないところで蝕まれてる部分があるかもしれない。
それに、姉さんから聞いたが、この村にはカレイドフラワーというポーションの素材があっても、それをポーションに昇華できる治癒術師はいないみたいだ。
「任せてよ。私なら魔力探査で体内の調子もある程度分かるからね」
「前から思ってたけど、万能すぎないか? 魔力って」
「だから、本来扱える人は少ないんだよ。エルフは森の精霊の加護のせいで、扱えるのは風魔法と水魔法だけだし、ドワーフは魔力量はあるけど、不器用だから簡単な低級魔法しか使えない。
それに、私だって使える魔法は少ないよ。魔力制御の技術だけなら魔王にも匹敵するんじゃ無いかと自負してるけどね!」
そう言って、彼女は慎ましい胸を張った。
魔力制御で胸の成長は出来ないようだ。
「それに、君は私の弟子だ。そのうち私と同等の魔力制御は出来るようになってもらうよ」
そう言いながら俺の肩に手を置く。
<念話は直前の思考も読めるんだ。……後デ覚エテテヨ?>
おかしい。体の感覚器官は反応しないはずなのに、とてつもない寒気を感じた。どうやら死を予感する器官は魂そのものみたいだ。
「ま、まあ、早くティナの部屋に行こう」
寒気を振り払い、三人で階段を登り、ティナの部屋に向かう。
「なぁ、リタよー。あたしは魔法使えるようになったりしないのか? レオだけ強くなれるなんてずるいぞ」
なにがずるいんだ。姉さんの殴打と脚力から考えて、その膂力はもう魔法の域だと思うんだ。
「クレアさんは、魔力貯蔵量が極端に少ないですね。こればっかりは生まれつきですから、仕方ありません」
階段を登り切って、ティナの部屋の前に着く。
軽くノックして起きてるか確認する。
「お兄ちゃん……?」
弱々しい、消え入りそうな声だった。
ゆっくりと扉を開ける。
「あぁ、ただいま。ごめん、心配かけたな」
そのくりっとした愛くるしい瞳からは、大粒の涙が溢れ出した。
起き上がろうとしたが、それよりも先に俺が近づいて頭を撫で押さえた。
その小さな顔を涙が濡らしていく。その涙の源泉は湧き続けるかのようだった。
俺は落ち着くまで撫で続けた。
「お兄ちゃん、その女の人……」
「あぁ、この人は、リタ。魔霧の森に住んでいた魔女だ。俺を助けてくれたんだ」
「ふーん……」
先ほどまでとは打って変わって低い声と、その細められた目が不信感を醸し出している。
無理もないか。14歳とはいえ、その虚弱体質とこの村の環境では多くの人と会う機会は少ない。人に慣れていないのだろう。
「怪しむ事ないよ。魔女って言ったって、変な呪いとか使わないし。ティナの体も治してくれるかもしれないんだ。そうしたら、三人で何処か旅行にでも行こう? な?」
「わ、わかった。……じゃあ、リタさん、お願いします」
勢いで納得させた感じになってしまったが、まあ良いだろう。もし、ティナの体が良くならなければ、それこそ魔王討伐の旅なんか出来そうに無い。
「任せてよ。私がこの場で治せるかは分からないけど、原因と治療法なら分かるようになると思うよ」
リタは、ティナの胸元に指先を当て、魔力を全身に送り出した。主従の命の恩恵だろうか、彼女の魔力の挙動を俺も感じる事が出来た。
蜘蛛の巣のように張り巡らせるように魔力の糸がティナの体を隅々まで覆うように広がっていく。
今まで俺が感じた魔力は青色のようだったが、今、リタの広げている魔力は場所によって、または時間で色が変化している。
おそらく、魔力で何かを感知しているのだろう。
俺は静かに七色の光に包まれるティナを見守っていた。
クレア姉さんとティナは何が起きてるか分からず、首を傾げていた。
「なるほど、これは……」
彼女の顔が少し澱む。
「治せないのか?」
その顔を見ていた姉さんが心配そうに声をかける。
「治せない、と言うのが正しいかもしれない。……森の途中で話そびれた事、覚えてる?」
リタは俺に話を振ってきた。
先刻の記憶。
――先祖返りや君みたいに、後天的に魔力量が上昇した場合も危険なんだ。――
まさか、ティナがその『先祖返り』?
「私達、魔族の中での『先祖返り』ってのは祖先の形質が先天的に遺伝されるんじゃなくて、元々あった祖先の魔族の形質が外的要因によって引き起こされる事を言うんだ。
こうして先祖返りで魔族になった存在は、魔力量は他の魔族と遜色ないけれど、その膨大な魔力を操る為に必要な魔力回路の塊である角は形成されないんだ。だから高度な魔力制御は出来ない」
「それに、先祖返りで一番厄介なのは、その直後は、魔王の魔力に対する抵抗が無いってことなんだ」
俺もクレア姉さんも話についていけなかった。
ティナが魔族? それに、抵抗出来ないって、魔王の使徒になるって事か?
「姉さん! 俺らの親って魔族なのか!?」
「違ったぞ! 普通の人だった。……その先祖返りを防ぐ方法はないのか!?」
姉さんはリタに詰め寄る。
「現状、防ぐ手段は分かってません。ただ、ティナちゃんの先祖返りは、まだ初期段階です。今は魔力貯蔵量が増えている段階で、それに体がついていけず、変調をきたしている状態ですね」
「え、えっと、私はどうすればいいの?」
それまで口を噤んでいたティナが細々と聞いた。
強い子だと思った。本来、ティナが一番不安だろう。急に、魔族になってしまうと言われたんだ。
それなのに、涙も見せず、前に進もうとしている。
リタは頷き、説明を続ける。
「いいかい、ティナちゃん。おそらく、これから体調は良くなっていくだろう。だが、それは先祖返りの二段階目だ。そうなると、体が魔力を糧に出来るように馴染み、体外の魔力も感じれるようになる」
ティナは、うんうん、と頷きながらその耳を傾けている。まるで熱心な生徒と、教師のようだった。
もしかしたら、ティナは既に、先程のリタの魔力を知覚出来ていたのかもしれない。
「そうなると、魔力の吸収も無意識に、息を吸うように出来てしまう。それは、魔王の瘴気を吸い込む事と同じなんだ。……だから、君にはこれから、吸い込んだ魔力をそのまま変換する技術」
「すなわち、魔法を学んでもらうよ」
ティナの目が眩しく輝いていた。
そろそろ設定での矛盾とか起きそう…
次回予告は、リタから魔法を学ぶ事になったレオとティナ。だが、そんな時、リタの嫌な予感が的中して…!? みたいな感じになりそうです。
また二日後の夜9時辺りに更新できたらなと!
誤字脱字、アドバイス等ありましたらよろしくお願いします!