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第五話 アンデットと魔王

 俺は、ベッドから出ているティナの細い腕を見た。

 ガラス細工のように、触れたら折れて粉々になりそうな細腕を優しく包むように握る。

 

 リタに聞けば、この虚弱体質の事もなにか改善出来るかもしれない。


 とりあえずは、クレア姉さんに詳しく話をしないとだ。

 ティナの部屋を後にし、リビングに戻る。


 既に、中央にある4人掛けのテーブルに姉さんとリタが向かい合って座っていた。

 俺はリタの隣に座る。


「姉さん、えっと――」

 俺が事情を説明しようと口を開こうとしたが、リタが手を出し、それを遮った。

「いいよ、私から話すよ。君をアンデットにしたのは私の責任だからね」


「まず、貴女の大事な家族を奪ってしまった。人ならざるものへと変えてしまった。許してほしい、とは言いません。ただ、他に出来る事もなかったのです」

 リタはそういって頭を下げた。その銀髪が机に垂れ下がる。

「顔を上げてくれ。さっきも言ったけれど、怒っているのは自分の不甲斐なさにもなんだ。それに、感謝もしてるんだ。

 まだ感情が整理し切れてないだけだ。分かってる。あんたがいなけりゃ、レオはもうこの世にいなくなってた。それを救ってくれたんだ。……ありがとう」


「でも、なんだ。もう、人には戻れないのか?」


「それは無理です。彼の体は一度死んでいます。見た目ではそう見えなくても、彼は今、魔力で体を動かしているに過ぎません」

 そう、もうこの体は、痛みも温度も感じなくなってしまった。


「そう、か。じゃあ、その、魔力で動かし続けるってのは、これから先ずっと大丈夫なのか?」


「この先も体が動くかどうか、という話なら問題ないです。しかし……彼の魂となると話は別です。……クレアさんは魔王についてどれほど知っているでしょうか?」

 クレア姉さんは「関係あるのか?」と訝しみながらも答える。

「魔王ってのはアレだろ? 不滅の存在、災厄の化身、人類と敵。まあ、呼び名は色々あれど、桁違いの魔力を宿した化け物なんだろ? 

 人類史の歴史に何百年に一度現れ、幾度となく凄惨な爪痕を残したって言われているよな。……でも、魔王は二十年前に倒されたばっかだろ? その魔王とレオの体に何の関係があるんだよ」


「魔王は後、おそらく半年ほどで復活します。今は力を蓄えている段階でしょう。……私達は魔霧の森を抜けて来ましたが、魔物の気配を感じませんでした」

「おそらく、二十年前に倒され、霧散した魔王の魔力と同調――私は使徒化と呼んでいます――した魔物が他の魔物を喰らい、魔力を集めているんではないかと」

「そして、この使徒化は魔力を糧に生きる魔物全てに起こり得る事なのです」

 そう、俺はここまでの説明は既に聞いている。俺も魔力を吸収し、それを糧に生きる体になった以上、この使徒化の可能性は十分にある。


「あぁ、えーと、つまり? ウチのレオもそうなるかもって話なのか?」


 クレア姉さんの真っ赤な頭から湯気が出てるように見える。……そうだった。姉さんは豪快なのが良いところではあるけれど、深く考えるのは苦手だったんだ。


「でも、それなら大丈夫じゃないか!? 今まで、魔王はどの時代でも『勇者』に倒されてきたんだろ!? 今回だって――」


「それでは遅いんです。勇者が目覚めるのは、魔王が使徒から魔力を吸収し、全ての力を取り戻してから。魔王の力が精霊にすら及ぶ段階になって初めて、精霊の加護を受けた勇者が生まれるんです」

「私達は魔王が不完全ながらも肉体を持ち始めた段階で討伐します。……そうでないと、レオンの使徒化に間に合わない」

 

 勇者。大精霊の加護により、人の身でありながら魔族やエルフ族と遜色ない魔力量と、精霊の力と同等の魔法である精霊術を扱える存在。唯一、魔王と渡り合える救世主。

 その勇者の力を頼らず、魔王を倒す。……出来るのか? そんな事が。

 俺はてっきりリタの言っていた「他に力になってくれる人」は勇者やその一行だと思っていた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。倒せる方法があるってこの前言ってたよな? それって勇者の力じゃないなか?」

 俺は口を挟まずにはいれなかった。

「違うよ、レオン。勇者が力を発揮するのは顕現した完全体の魔王にのみ」

「不完全な状態なら、むしろ君の力が必要なんだよ」


「俺の、力?」

「どういうことだ?」


「魔力ってのは生き物に宿るって説明はしたよね。でさ、さっきの魔王の話を聞いてて違和感を覚えなかった?」

 

 あぁ、確かに。思い返してみれば、魔王は魔力で構成されている。生き物でないのに、魔力が宿っている事になるのではないか。


「そう、魔王は生物でないのに魔力を扱えるイレギュラーな存在なんだ。……でも、それは今の君にも言えるんだよ。本来、君の魔力は死霊術を掛けた私が扱うものなんだ」

「でも、半分魔石となった脳に魂を宿し、その一度死んだ体は、生きている頃とは違い、限界のあった魔力貯蔵量も桁違いに増えている。

 君はもう魔王と同等の存在になれる器は手にしてるんだ」


 なるほど、あとは仲間を集めて、魔力を貯めていけば良いって事か。


「でも、それもただ魔力を吸収するだけじゃだめだ。莫大な魔力があっても、それを制御する技術が身に付いていない。このままただ闇雲に魔力を貯めても、制御し切れずに暴走して、使徒化が進むだけだ」


「分かった。当面は俺の修行ってわけだな!」


「まあ、そうなるね。……ということでクレアさん、彼がこの先、アンデットとして生きて行く為には魔王の復活を阻止しなければなりません。主である私が必ず無事に帰すと誓います。今は何も言わず、ここで待っていてください」

 彼女は再び、深々と頭を下げた。


「あぁ、なんだ。その、あたしは難しい話は分からんが、レオは、血が繋がってなくても弟だ。どうせ、止めたって止まりゃしないのは分かってるんだ」

「……それに、あたしに頼ってばっかりだったのが、急に魔王を倒すとか言ってんだ。見届けたくならないってのが無理なもんさ!」


「レオ、強くなれって約束はもう十分だ! 次の約束は、『絶対に帰ってこい』だ。わかったな!」







 



さてさて、次回予告としては、今回書き切れなかった、リタさんにティナの虚弱体質を見てもらう話ですかね。

2、3日後のどちらかの9時にまた更新したいです。

よろしくお願いします!

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