7、それでも話は続いていく……
翌日、この酒飲みの森を出発する事になった。朝から出発するのが旅の基本なのだろうが、この旅のリーダーはスキヤキではない。アールマティが主導権を握った旅は基本的に変則的だ。
朝からのんびり準備をし、昼過ぎに出発した。アールマティが言うには、この森を抜けた先のすぐに、知り合いの家があるらしい。そこで、一泊させてもらう腹積もりなのかとスキヤキは思う。
突然、押し掛けて泊めてもらう。スキヤキには出来ない芸当ではあったが、今なら出来るかなとも思う。人間の性格なんて変わるときは変わる。普通でない事が身に起きれば当然だ。
スキヤキは既に昔の自分を捨てている自覚がある。違うな。自覚がある内は完全ではないな。
「出発してから訊くのも何なんだが、三人もお世話になって大丈夫なのかい? 」
「ああ、それは全然問題ない。彼は非常に有能で臆病だ。きっと歓迎してくれる」
アールマティの言葉に違和感しか感じない。スキヤキは彼女を信用しているが、彼女の性格と行動はあまり信じていない。
「彼はここら辺の有力者でな。酒飲みの森を監視するのが主な役目だ。あたしとしては、あたし達の噂がルチア王国に広められるのは良くないと思うわけだ」
「? 」
「なあに。有能で臆病ではあるが、大兵団なんてこんな辺鄙な場所には置いておく事は出来ない。ぱっと侵入して、ぱっと襲えばどうって事はない」
彼女の話に、スキヤキよりもダニエルが先に食い付く。
「襲えばってどういう事なん? 」
「夜に到着するから、門番に気付かれないように侵入し……」
「違う、違う。なんで襲わないといけない? 」
「無料で、あんな旨い酒を飲ませてもらったとなると二人ともあたしに頭が上がらなくなるだろ? ちょっとあたしの仕事を手伝って貰おうと思ってな」
「仕事を手伝ってもいいが、金は貰う」
「大丈夫さ、今回の依頼主は世界一の金持ちだからな」
「アールマティ。仕事は、その監視役を暗殺する事なのか? 」
「違うさ。本命を殺る前の小手調べかな? あの酒を飲んだ変化をあんた達にも実戦で感じて欲しいしな」
世界一の酒、ただ旨いわけではないことは感じていた。なるほど彼女が稽古をわざわざつけてくれるわけだ、今回の最終的な暗殺先は余程の大物何だろう……。
「なあ、人生を楽しみたいんだろ? どうせ英雄や勇者には向いていないんだ、歴史を動かす楽しさくらいは教えておいてやる」
生きた伝説がそうおっしゃるなら付き合うのも悪くない。まだまだ強くなれそうな気持ちにもなったしな。
「誰が勝とうが、生き残ろうが、それでも話は続いていく……」
ダニエルがアールマティの言葉に嫌味たっぷりに返す。
「アータルの民の昔話の一説だよなん? ワシはまだ死にたくないよん」
「俺も神様を蹴り飛ばすまでは死にたくないな」
「真面目に遊んでたら生き残れるさ。ほら、あれが今夜の目的地だ。行くぞ」
本作品は一度ここで締めます。この後の展開も考えてありますが、一休みさせていただきます。書きたいテーマがまた別に出来たので、そちらをアップします。
作品名は『裏社会の底辺から成り上がる少年の名は……』




