5、この短時間で
神木のそばから現れたミミズは確かに大きさが桁違いだった。虫だと思うと気持ち悪い。大きく赤茶けたその身体がまたグネグネと動く。
美しい緑の世界。幻想的なこの空間に、ここが現実だと教える虫の姿。ただその大きさが非現実的で、スキヤキの感覚をおかしくさせる。
臭いがしないことを再確認して刀を構える。次々に地中より生まれてくる巨大ミミズにとりあえず数を減らすかと刀を振るう。弾かれるような硬さはない。しかし、ミミズを否定するような弾力。
醜い魔物は所詮雑魚という、スキヤキ独自の感性は、今回、間違いではない。ただ雑魚には雑魚の仕事があるのだと認識したのは、その切り口から溢れだしたとんでもない臭いだ。
ああ、こりゃ駄目だ。鼻栓なんて意味がない。一体を斬りつけただけでこれだ。わらうしかない。
ただ、独り、ここに残されたのは腕を買われた筈だ。スキヤキはアールマティの眼力を信じている。彼でなんとか出来るに違いないのだ。
「俺が持つ能力は何だ? 腕力? いや、違う。魔力? いや、違う。俺の能力は……」
巨大なミミズが既に10匹、グネグネと動いている。押し潰しに来るように迫ってくる。既に斬りつけたミミズは激しく暴れている。
「脳を弄くるんだ。俺には出来る」
嗅覚を遮断するイメージ。彼は鼻がいい、だが鼻に能力があるわけではない。目がいいのも、耳がいいのも、目や耳に能力があるわけではない。
「自覚すると無敵だな」
スキヤキは何も臭いを感じなくなる。緑色の体液を振り撒くミミズの切れたところにさらに刃を突き刺す。巨大な管が体液を吐き出し、支えを無くしたホースのように暴れる、その動きを完全に見切る。
「角砂糖まだ残ってたよな」
押し潰しに来たミミズ達が同胞の死滅を身近に感じたのか、皮膚にあった毛が太い針のように張り、サボテンの毛があるかのように見える。固い針を全身に纏って圧迫してくる。
嗅覚を使用していた脳に別の仕事をさせるように意識させる。あー、今までよりよく見える。いや、感じられる。もっとだ。もっと進化できる。
目を閉じてみる。今度は視覚を遮断する。目と耳を封鎖する。肌で感じるのだ。空気の動き、空気の重さ。何が何処にあり、何処に動くのかを知る。そうこれはパズルゲーム。スピードと反射神経を必要とする『落ちゲー』を空間的な3Dで行っている。
スキヤキは自分の身体をゲームのキャラクターのように動かす。どの空間にどのような姿勢で置けばいいのかを、どの位置にいる時にアクションを起こすのかを決定する。
ゲームクリア。
這い出てきた巨大なミミズを全て片付けた。どれくらいの時間がかかったのかわからないが、もう動けない。くたくただ。
頭がぼーっとする。
「あの、凄過ぎます! 」
キャサリンが側に……は来てくれず、大声で叫んでいるのがわかる。鼻栓を着けたオークやオーガなんてのが、巨大ミミズの死体を片付けている。
「お前、凄かったんだなあ」
この神木を愛して、いや、神の酒を愛して逗留を続けている冒険者達が口々に称賛する。
「この短時間で、あれだけの数は新記録じゃないか? 」
スキヤキが答える。
「とりあえず角砂糖を頼む」




