4、あれはハマる
さて、困った。
エルフが苦手な魔物なんて聞いた事がなかった。およそ人間よりほとんどの能力が高く、現状、人間が世界を支配しつつあるのはエルフに比べて数が多いからだと思っていた。彼等は寿命が長いせいか繁殖力が低い。人間の総数はエルフの総数の何倍、いや、何十倍はある事だろう。もっと差があるかも知れない。
そんなエルフが個体として怖れている存在……魔力なのか、何か属性的なものなのか、いや、個体としては物理的な力が弱いからか?
聞いてみたら、簡単な話であった。そして、人間が一番対処するのには向いているかも知れない。
害獣の形はどうやらミミズを巨大化したようなものらしい。スキヤキはそもそも虫が苦手だ、いや、ある意味、ミミズとははっきり思えないくらいの大きさ、胴体が自分のウエストくらいあると聞けば、ミミズだと考えなくていいから逆にいいのかも知れない。
そこが問題じゃない。エルフ達が苦手にしているのもミミズの形をしているからではない。もともと森の精霊なんて自負する奴がいるくらいだ。虫が苦手でどうする。
「スキヤキさん、私の説明わかりましたか? 」
キャサリンが改めて、念を押してくる。
あの美しい顔で無理難題をふっかけてくる。だいたいどの世界でも美人は我が儘だ。そして、美女に弱い男の返事の仕方も決まっている。
「任せ下さい。何とかします」
※ ※ ※
とりあえず、スキヤキは準備に取り掛かる。
「これ付けて戦うの嫌だなあ」
布切れを丸める。小さくだ。後はピッタリとフィットするかだ。これでは大きすぎると、別の布切れを丸める。これなら入るかな?
「何やってるん? 」
「鼻栓作ってるんだよ」
「鼻栓? 」
ダニエルにだから見せられるが、何とも情けない格好だ。
「ああ、なんか害獣が山のように出るんだと。で、切ったり潰したりすると、とてつもない悪臭を放つらしい」
「それで鼻栓? どうにかなるのか、それで? 」
「やってみてダメなら、次の手を考えるさ。旨い酒飲んだしな」
ダニエルは頷きながら呟く。
「確かに……あれはハマる」
「付き合うか? 」
「無理でしょ? 人間様より鼻がいいのよ? 」
「エルフ程ではないだろ? 」
「鼻が大きいから無理」
確かに鼻栓にどれくらいの布を使えばいいかわからない。ダニエルの鼻が特に大きいわけではない。ドワーフが大きいのだ。
「これくらいかな? よし、では行くか」
スキヤキはしっかり鼻栓をしてから、ハンカチで顔の下半分を覆う。こそ泥のようにしか見えない。日本刀を担いで、部屋を出る。
ハンカチで口を覆うスキヤキを見て、キャサリンはどう思うだろうか?
部屋の外で待っていたキャサリンは、スキヤキの姿を見て失笑する。
失敗してから笑って欲しいものだ。
害獣がいる場所に案内して貰わないといけないから鼻栓姿を見せたが、着いた時に思ったのは案内がいらないということだった。神木の例の石板があるのとは反対側だ。
「で、何処にいるんだ? 」
ああ、少しイライラした声だったのはいけないな。キャサリンは瓶を取り出して説明する。害獣は地中にいて、神木の根を侵食しようとしている、だからこの薬品で地上へあぶり出すのだと。
瓶の蓋を取り外して、地面に振りかける。特に何も起こらない。匂いもしない。
「お願いしますね、すぐ出てきますから」
そう言ってキャサリンは背を向けて走り出す。それと同時に地面が揺れるのを感じる。スキヤキは刀を抜く。
「いらっしゃい、ミミズくん」




