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3、世界一の酒を

 酒が酒であると信じているのが間違いだ。アルコールがあるからお酒なんて、スキヤキの思い込みでしかない。これが何かはわならない。ただ酔わされている。頭をグルングルンと振り回されている。


 海に浮かんでいるような体感と、ノイズが激しい騒音が渦巻く脳内とが同時に成立している。


「初めて飲むのか、世界一の酒を」


「そうみたいだな、俺も初めて飲んだ時は焦ったよ」


「ドワーフでも驚くか! 」


「それこそ味なんて、二の次。強い酒をこそ求めてたからな。たが違うんだよ、この酒は! 」


「ああ、違う」


 口々に納得するエルフ以外の人々。彼等は旨い酒を求め続けた者か、旅をしながら腕に自信があるものか、どちらかであった。


 世界一の酒と呼ばれた、神より与えられたこの酒の素晴らしさを知り、この界隈に住み着くようになった者達である。酒に強い者も数多くいたが、だからこそこの酒の不思議な魅力に気付けたのである。


 スキヤキは周りの声を、別世界の声であるかのように感じながら、自分を取り戻そうとする。自分の顔を自分で叩き、意識をはっきりさせようとする。


「お子ちゃまか? 」


 何故か、その言葉が刺さった。どこから飛んできたか、誰の言葉かわからない。


「もう一杯どうですか? 」


 この言葉はわかる。さっきのキャサリンだ。ニコニコと笑いながら、差し出すコップを受け取る。ぐいっと飲み干す。


「では、お願いしますね? きっとですよ? 」


 何を頼まれた? いや、いい。こんな美味な酒はない。そうだ、そうだ、タバコを、いや、シナモンスティックだ。あった。これを口に咥えて……。大きく深く、シナモンの香りを脳に叩き入れる。何を頼まれた?


「酒飲みの森の神木が求めていたのは、ちからある者です。力を受け止める者であれば害虫を駆除出来るという事。神木の為に力をお貸し下さい」



 ※ ※ ※



 ベッドの上に寝ていた。天井の木目は大昔の祖母の家をスキヤキに思い出させていた。木の匂い。敷物も草が織り込まれた物のようで、畳を思わせる。


 懐かしく感じるのを忌々しく感じながら、懐からシナモンスティックを取り出して咥える。


 ゆっくり吸って、ゆっくり吐き出す。


 深く考えてはいけない。シナモンの香りをただ楽しむ。耳を澄ます。風に揺れる草葉の音を拾う。空気の味を楽しめ、そう自分に言い聞かせる。


 部屋の扉が開く。美しい女性の名は、確か、キャサリン。


「起きましたか? 」


 素敵な声だ。この声にときめかない男はいない。スキヤキは頭を切り換える。のんびりタイムは終了だ。そんな余生を過ごす為に生きているわけではない。


「気持ち良い目覚めだねぇ。最初に見た顔が貴女だというのも、俺には最高だ」


 にっこりと笑って、キャサリンが尋ねてくる。


「まだ酔っています? 昨日の事、覚えてますか? 」


「正直に言おう。記憶はごちゃ混ぜ。君の事は、キャサリン、そう覚えてる。何か依頼を受けた気もするが、中身はわからん。あ、大丈夫。依頼を断ったりはしないから」


 表情で会話を誘導する女性は魅力的で、悪い女であることは間違いない。


「もう一度、依頼内容を教えてくれるか? 」


 キャサリンの依頼内容は簡単だった。いわゆる害虫駆除だ。この神聖な森にいてはいけない魔物がいる。エルフ達には相性の悪い存在で、旅の人達にお願いしているとの事だ。もちろん報酬はない、神木からの酒を貰いに来ているなら、是非って話らしい。


 生け贄を捧げると、不思議な酒を提供してくれる、神木を守る為に……。


「どんな魔物なの? エルフには相性が悪い存在って、なあに? 」

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