2、宴にどうぞ
白い霧。流れる賑やかな音楽。甘い香りが鼻をくすぐる。
何か見えているようで、何も見えない。
見ようとしているからだな、そう呟いて、目を閉じる。
そう、基本に立ち返る。魔力の流れを読む。澱んだ魔力がゆっくり漂っている。香りが消える。音が消える。あるのは巨大な汚れ。空に浮かぶ汚れ。それを呼び込む赤い炎。いや、赤い光の渦。渦から澱みが生まれたのではない。渦に澱みが呼び寄せられている。
黒い点が、赤い渦の前にある。その黒い点がいくつも現れて、塊を作っていく。澱みが黒い塊になる。
スキヤキは刀に手をかけようとするが、刀がない。腰にない。
黒い塊が人の大きさになった時、それは訪れた。大きな牙、大きな顎、白い大きな化石が生きている。黒い塊を噛み潰す。咀嚼する。
※ ※ ※
緑の絨毯は少し湿っているのが残念だ。美しい光が頭上から降り注いでいる。静かな景色と裏腹に、騒がしい話し声が聞こえる。
隣にはダニエルがまだ寝ている。身体を揺り動かして起こしてみる。
「もう飲めねえ……」
「どんな夢を見てるんだか……」
慌てる必要はない。多分、死んではいない。痛みもない。ダニエルかいるんだから天国ってことはない。
「起きましたか? 」
「あぁ、どうしよう天国かも知れない」
「天国? それより起きたのなら宴に行きましょう」
スキヤキの目の前には、白い服に金髪の優しく笑う美女がいた。耳の長さと鼻の高さ、スラリとした体格からエルフだろう。
エルフには最近良いイメージを持ちにくいが、どの世界でも良い奴も悪い奴もいる。優しいゴブリンだっているのだから。
「俺はスキヤキ。貴女は? 」
「キャサリンです。酒飲みの森のキャサリンです」
酒飲みの森? アールマティは何も話さない。反応見て楽しんでいるのだから当然だ。
旨い酒を飲みにって言ってたが、ここのことか?
「知らないで、こんなところまで? 」
「そうなんだよ、酷い奴だろ? ところでどうして『酒飲みの森』なんて呼ばれているんだい? 」
「それこそ、宴にどうぞ。答えがありますよ」
スキヤキは立ち上がり、着いていくことにする。ダニエル? 知らないよ。
立ち上がろうとするスキヤキにキャサリンが手を差し出す。
「ありがとう。エルフは狩人を貴ぶが、旅人に優しいとは聞いたことないなあ」
「? 」
キャサリンは首を傾げ、何のことかわからないと笑う。そして、手を離して、巨木へ進みながら、こう言う。
「まずは宴に。それからです」
巨木の前の石板には何も置かれていない。しかし、その大きな石板を囲むように幾つもの木のテーブルが置いてある。沢山の料理が並び、そこに人々が集まって酒を飲んでいる。
不思議なのは、ここら辺に、酒飲みの森に住むエルフ達がいるのは当然だが、歴戦の勇者を思わせる色んな人種の者達がいることだ。
人間は勿論だが、ドワーフにオーク、トロールもいる。いずれも武器を持ち、戦い慣れた風格がある。お互いに顔馴染みのようで談笑しながら酒を飲んでいる。
「おー、英雄が来たぞ」
「よくやった」
「飲め飲め、お前には飲む資格がある」
口々に声を掛けられる。スキヤキは苦笑しながら、アールマティを目で探す。
「どうも」
見つからないものは仕方ない。今のスキヤキに人見知りなとこなんてない。性格は環境が変えるものだ。
スキヤキはドワーフから酒を渡される。キャサリンから渡されたかったなと思いながら、貰った酒を飲む。
「なっ」
スキヤキは味に驚いた。とにかく旨い。確かに旨い。そして、あっという間に、一杯飲み終わる。
身体が熱くなる。
いや、あり得ない。
酒を飲んで、身体が熱くなる? いや、ないない。スキヤキはこちらの世界に来てから、酒に酔った事がないのだ。




