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1、汝は何を捧げる?

 世界はきっと神秘的なモノに溢れている。それはどこの世界でも同じだ。生まれ変わりや、世界を跳ぶことだってある。だから、どんな不思議な生物がいてもおかしくない。


 泣いてしまうような悲しい事も。


 笑ってしまうような怪しい事も。


 全てが不自然で、それが自然な事なのだ。



 ※ ※ ※



 深い森が続く。背の高い木がいくつも立っている。ひしめき合うように立っている。足元は苔で覆われた緑の絨毯。木々の葉細く尖っているが、空を埋め尽くしていて、日差しを遮り、木漏れ日は淡く切ない。木々の隙間を縫うようにゆっくりと三騎の影が進む。

 一頭は軽やかに、一頭は丁寧に、一頭はギクシャクと。


 アールマティを先頭に、スキヤキ、ダニエルと続く。木々はそれぞれ真っ直ぐ伸びていて、特に目立つ特徴はない。太陽の位置もはっきりわからない。道はないから馬で木々の間を抜けていくが、真っ直ぐ進んでいるかわからなくなる。スキヤキは既に場所の把握を放棄している。


「そろそろキツイのなあ」


「俺も休みたいな」


「もう少し先で休めるとこあるから」


「もう少しって、迷ってないよなあ」


 笑うだけで、アールマティは答えない。ただこの深い緑の森に鳥のさえずりだけが響いている。空気は恐ろしいほど澄んでいて、草木の香りが心を優しくさせる。


 少し進むと、やっと風景が変わる。木の連なりが不意になくなった空間。中央には大きな大きな一本の木。枝葉も長く伸びていて、一本しか生えていないのに、その空間の天井は光が差し込まない。


「ここが目的地か? 」


「そうよ」


「とりあえず馬から降りたいんよ」


 巨木に近付くと、幹の前に一枚の石板がある。人が二人くらい寝れる寝台のような石板が置かれている。三人は馬から降りて近付く。


 頭に声が響く。


『汝は何を捧げる? 』


 スキヤキがダニエルに顔を向けると、聞こえたと頷く。アールマティは笑っている。彼女が笑っているという事は、たぶん安全なのだろう。


『汝は何を捧げる? 』


「何を頂けますか? 」


 ダニエルが質問で返すと、巨木が大きく揺れた。風が巻き起こり、ダニエルが浮く。

 ドワーフでありガッチリした体格のダニエルは、宙に浮く感覚なんて味わった事かない。慌てふためく彼はいつも人を舐めてかかる。スキヤキはそれを楽しく見つめるのだった。


「ごめんなさい、すみません、申し訳ない」


 早口で謝罪を繰り返すダニエルは宙に浮いたまま。だが、それ以上に罰が下るわけでもなかった。


「森の神よ! どんな獣がよい? どんな魔物がよい? そのドワーフより旨いのを持ってきてやる」


 アールマティはよく通る声で巨木に語りかける。


『魔物がよい。魔力が高ければなお良い』


「出来たら先に解放してもらいたい」


『人間は他のものに比べ、嘘をつくのが上手い』


「人間ほど美味しいものを持ち込むものもあるまい? 」


『いいだろう。逃げた際には村人達には今後何も渡さない』


「それで構わない」


 アールマティの提案に納得したのか、ダニエルはゆっくりと下に降ろされる。


「大丈夫なのか? 魔物なんて」


 ダニエルは心配だ。森に入って、ここに来るまで一匹も獣にも魔物にも出会ってないからだ。勿論、彼は逃げるつもりで話しているからだが、宙に浮いた彼は逃げ切れるかが不安だった。


 アールマティはダニエルを睨み付けてから、馬の鞍に付けていた笛を手に取ると、弱々しく震えるように笛を吹き出す。二人は彼女が何をしようとしているか理解出来なかったが、彼女の笛の腕には疑問を持った。

 どことなく雰囲気が変わる。澄んでいた空気が重く濁っていくのがわかる。もともと日があまり差し込まない空間であったが、何か暗さが、闇がまとわりつく感覚だ。


 アールマティの笛の音は続く。


 スキヤキの頬を何かが撫でる。そう撫でている。だが、何もない。何もない空間に何かがあるのだ。


 スキヤキは声を出し、気を失った。

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