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7、地図はあるか?

 帝国最大の都市である、ここ帝都では真夜中でも篝火かがりびが焚かれ、暗くなることはない。帝都そのものには大した防御機構はない。元々あった都市を取り囲む城塞もある意味そのまま、その外にも街が出来ている。城というものはないが、政務をとる場所は必要で、それはそれは大きい宮殿がある。


 長い廊下を歩いていた青年が雲の広がる夜空を見つめている。ひとしきり雲を見た後、横の扉をノックする。


「入れ」


 太く響く声だった。声に合わせて、青年は扉を開ける。中には、壁に掛けられた大きな地図を見る男がいた。引き締まった身体をしたその男の髪には少し白髪か混じっていた。青年は男に声をかけるタイミングを待っている。


「報告しろ」


「盗賊団の首領にかなりの怪我を負わせた。活動は少なくとも2年は出来ないとの事です」


「詳しく」


「首領の利き腕に深手を負わせた。さらに首領以外に盗賊団を率いる者はない。小部族であり、壊滅を怖れて動けないとの事です」


 青年は少し早口になったのが悔しい。緊張しないようにと心掛けていたが、彼の上司の持つ雰囲気に呑まれてしまっている。

 報告した後、身動きできない青年に男は顔を向ける。その頬には大きな刀傷があった。


「さて、どう動く? 」


 青年は刀傷の男が今後の動きに関して、自分に意見を求めてくれる事に喜びを感じながら、用意していた答えを返す。


「ルチア王国へ進軍を始めて行くのが良いかと思います。現在、帝国にまっとうに反攻できる遊牧民はいないかと」


「ルチアに進軍するとして、どこまでの勝利を目指す? 」


 青年は勝利を考えてはいたが、勝利の中身は考えていなかった。思考を巡らすがすぐに答えは出ない。


「クルチ、地図はあるか? 」


 クルチと呼ばれた青年は即答する。


「はい。バイバルス将軍に付き、将軍から御言葉をいただいてすぐに購入しました」


「地図をもっと見ろ。下がれ」


「申し訳ありません、将軍」


 将軍が優しい目をして、クルチに話しかける。


「期待している」


 クルチは頭を下げ、バイバルス将軍の部屋を後にする。クルチが部屋を出る時、将軍の視線は既に地図に戻っていた。



 ※ ※ ※



 カラハタスの北にある小さな町。もともとこの地が砂漠であった頃、小さなオアシスで栄えた町で、カラハタスの北部にある小さな村々とは歴史に違いがあるその町には宿屋もあれぱ、酒場もある。その酒場のひとつでダニエルとスキヤキは酒を飲んでいた。

 無事に仕事を済ませたからには帰りの道中は気楽で、それこそ酒を飲まずにはいられないと、遊牧民との交易で手に入れている馬乳酒を飲んでいた。

 スキヤキはどこかカルピスを思わせるその味を珍しく思いながら飲んでいた。


「こんなに貰ってたとは思ってなかったな」


 仕事が終わってから、スキヤキはアールマティから受け取っていた金をダニエルに渡した。

 金額の多さに怯むダニエルではないが、彼に色々説明するのが、スキヤキには面倒だったからだ。


「で、強かったのかい? 例の片目の女傑さんは? 」


 スキヤキは千里眼のアールマティと戦った時の事を思い返す。あの生命いのちがかかった中での会話のやり取りこそ醍醐味であると感じている。それこそタバコより酒より気持ちを高揚させ、落ち着かせる。

 何の為に生まれ変わったかを感じさせる瞬間だ。


 生き残ることが一番でない人間というのはこんなものかな、とスキヤキ自身で振り返る。


 ダニエルを見て、ニヤリと笑う。自分の表情がどんな風だろうか……。


「甘い酒が好きなのか? 」


 背中から飛んで来る声に振り向く。


「そっちも無事に終わったんだな」


「もっと美味しい酒を飲みに行かないか? 」


 スキヤキのよく知るアールマティの声はとても優しく甘く響く。


「よく見つけるもんだ」

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