6、貴女はきっと強い
永遠にも思える沈黙がこの場を支配する。アールマティの視線がスキヤキの眼を射抜く。
実際には瞬間的な、このアールマティの右眼のピントの変化を、スキヤキは見逃さなかった。
スキヤキの刀が右下から左上へと疾走する。アールマティが剣で払おうとするが、その彼女の右前腕から血飛沫が舞う。彼の刀は彼女の胴でも首でもなく、あわせにくる右腕を狙っていたのだ。
スキヤキの動きを把握する、その千里眼をこそ身体全体から顔の一部、彼の眼に移した事で、チャンスができ、そこを逃さずに確実に彼女の攻撃力を破壊しに行ったのだ。彼女の生命でなく、腕を切りに行く選択はギャンブルしたくないからだ。
アールマティは自分の右腕に力が入らない事を確認する。してやられたという思いしか浮かばない。
彼女の千里眼と呼ばれる能力は、相手の筋肉を見て、表情や動きを知る能力だ。相手全体を見ていたなら、こんな攻撃をくらう事はなかった。単純にパワーとスピードでも彼女の方が勝っていたからだ。
「伝言があるんだ」
目の前の男の声に、思考を現実に引き戻す。何とかここを生き延び、再起をかけないとアータル族は滅ぶ。
アールマティはアータルの現状を変えたかった。アータル族を差別する意識の元凶は帝国だ。プリームス帝国がある限り、自由に生きる事がままならないのだ。
だが、ここで彼女が死んだらどうなるか? リーダーのいないアータル族はもう纏まれない。ゆっくり死んで行くのだ。奴隷と同じように。
「帝国と争うな。エルフどもに踊らされるな」
「誰からだ……? 」
スキヤキは刀を拭いている。もうこのアールマティは自分に対して質問しか出来ないからだ。
スキヤキは自分とほぼ同じ能力を持つ者と戦うのは初めてだった。剣の達人クラスの動きは何度も見たことがある。同じように先を読んでくるのは当然ある。100%でないだけだ。
視覚で、筋肉の動きを見るんだと意識して、戦闘技術にしているかどうかなのだ。
今回、スキヤキが狙ったのは物理的な工夫ではなく、心理的な工夫だ。千里眼と呼ばれる先を見る能力が彼自身が持つ能力が近いだろうと思っていた彼は何とか揺さぶろうとしていた。
「誰からなんだ? 」
口が軽くて、得をする事はない。だが、依頼主の本当の願いを推し量るのも大事なことだろう。スキヤキはあのアールマティの顔を頭に浮かべる。
「依頼主の名前はあかせません。ただ……」
片目の女性は何かを知ろうと、再びスキヤキの目を中心にピントを合わせている。右腕はだらりとおりていて、血も止まってはいない。早く話を終わるのがお互いの為になると思う。
「ただ?」
「貴女の事を千里眼の姫と呼ぶ人は多いんですかね? 」
「彼女はどこに? 」
もちろんスキヤキは首を振る。あのアールマティは会いたくないのだ。会いたければ直接ここに来てるだろう。理由までは知らないし、何でこんな面倒な依頼をしたのかも。
「ちゃんと伝えましたからね? 帝国と争うな、エルフに踊らされるな」
「エルフを利用しているつもりだったが……」
スキヤキは首を振る。
「人を騙すのは弱い人間の方が得意なのさ、貴女はきっと強い」
「煽てられるのも悪くないものね」
「エルフの事は気にしなくていいと思いますよ。帝国と敵対するのはまだしも、あの女を敵に回してしまったんだから……だから、ゆっくりご養生下さい」
千里眼の姫は目を閉じる。右腕の痛みはある。かなり痛いし、それこそ後遺症は出るかも知れない。だが本物が剣を握るなと言ってるのかも知れないと思った。
意識がふっと離れたせいか、血が流れすぎたせいか、目の前にいた変な男はいなくなっていた。
身体を治したら、なまった身体を戻すのに付き合ってもらおう。練習刀ならボロボロにする事が出来るだろう。
周りから仲間の声が聴こえてくる。助けに来るのがこれだけ遅いのだ。もう既に草原の覇者ではなかったのだ。




