2、君を助けに来る
小高い丘から村を見れば、移動式テントが片側に多数あるのがわかる。普通の隊商の擁するテントの数ではない。さらにその周辺にいる護衛の雰囲気がまともではない。
そろそろ日が暮れる頃であり、出発は今日でないことは見てとれる。夕方早い時間から酒を飲む柄の悪い者達の姿を二人は見ていた。
「見るからに狙われそうな連中だな。いや、どちらかと言うと、狙う方だよな」
スキヤキはダニエルの言葉に頷きながら、隊商の配置を頭に入れる。
「間に合って良かったなん」
大所帯で荷もあるから進むのはゆったりしている隊商である。だが、大所帯過ぎて町の中には入りきらない。なら道中よりも気が弛む今の様な時を狙うだろう。真紅の月の狙いは荷物もだが、それだけでなく悪党そのものだからだ。
「あの荷馬車とかどうかな? 」
スキヤキは荷が山のように積まれた荷馬車を指差してダニエルに尋ねる。
「布がかかってるし、いいんでないん」
そう言って、その荷馬車をじっくり見ている。大きさを考えて二人は無理かとも思う。隣の荷馬車も似たようなものがあったのでそこと二台で行くかと思い、スキヤキは宣言する。
「ダニエルは手前、俺は奥を使うよ」
「運んでくれるかな? 」
「今まで荷はほとんどかっさらっている。多分、今回も持っていってくれるさ」
スキヤキが考えている手は意外と単純だ。奪われていく荷の中に隠れていようというものだ。目標である盗賊団のやり方がわかっているのだから、それにあわせればよい。
見つかってもどうにか出来る自信がスキヤキにもダニエルにもあるからではあるのだが……。
丘の上の林の側で夕食を取る。荷馬車だけは一度村に入れ、預けている。少ない金で預けておけるのは、預けた者がいなくなれば荷馬車と馬が村人の手に渡るからだ。
街道沿いとはいえ、小さい村。まともな宿など二つしかない。村人達はそもそもあれだけの規模の隊商がなぜここに留まったのかが謎だった。
「アラグノール。本当に奴等は来るのか? 本当にこれが役に立つのか? 」
「ご主人様。ご安心下さい。彼等の正体を知れたからこその作戦です」
大きなテントの中に、大きな腹をゆらす男が座っている。その横にはシルエットの美しい男が立っている。
そのアンバランスでありながら、どこか自然な立ち位置の二人を見つめる女性は時間が早く過ぎる事を祈っている。彼女にはもともと選択権がない。本当かどうかわからない話を地獄の中で聞かされただけだ。
生まれた時から奴隷であった彼女は食事の時間だけが楽しみであった。彼女は自身が恵まれていると思っていた。母譲りの容姿があったので、食事はきちんと食べさせてもらっていた。高く売る為に食べさせられていた。
それでも理由なんて何でもいいのだ。飢えて死んでいく仲間を見れば。仲間と言ってもお互いに顔を見たことがあるだけだ。彼女が生まれたのは奴隷商の屋敷である。
数多くの奴隷達がいた。数多くの出会いと別れがあった。閉鎖された空間の中で。
15の時から夜の仕事が与えられた。何も感じなかった。生きている喜びなんてもともと食事の時間だけ。だから悲しくも辛くもなかった。ただただ繰り返される時間。
だから彼女は自分がいくつかを知らない。どれだけ生きてきたのかに意味がなかった。
「ご主人様。彼女の赤い髪に価値があるのです」
「笑いもしない、泣きもしない、買って損をしたと思った女の価値が美しい造形ではなく、この赤い髪にあったとはな。商売は難しい」
「運を味方につけられるかどうかが一流かどうかを決めると思っております」
彼女の目の前で行われる会話を聞いてしまう。今までは興味すらわかなかったのに……。彼女は自分が騙されたと思っている。思わずにはいられない。いや、そうでなければ自分が壊れる事を知っている。あの時、聞いた言葉から……。
『アールマティが君を助けに来る』




