表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/70

4、本当に狂犬なのかしら?

「ほう。小夜鳴鳥ナイチンゲールを使ってきたか……。上の方々より敵さんの方が、あの女のちからを認めてくれるとは皮肉なもんじゃな」


「はい、ベルナルド様」


「マドック、この改造魔戦士計画が上手く運べば、お前は英雄だ」


「いえ、とんでもありません」


「あの女に何としても作らせろ。一度作れたんだ、何度でも作れる、上手くもなっていくじゃろ。いいか、殺される前に最低でも100は作らせろ」


「なんとかします」


「必ずだ」


 足早にマドックは部屋を出る。自分を拾い上げて、敵対する商家の三男坊に肩入れしてくれたベルナルド・フッガーを、マドックは尊敬している。

 マドックは自分が商人には向いていないだろう事を理解していた。自分の特性は、粘り強く、愚直に進む事ができる点だ。

 偉大な兄と比較されたくなくて軍に入ったが、憲兵隊に入り、ベルナルド・フッガーから押され、諦めずに諦めずに、犯罪者どもを追って捕まえてきたから憲兵隊長にまで登り詰めた。


「ベルナルド様を信じる」


 マリアの魔法、いや、魔道具があれば世界が変わる、魔法は貴族の、優秀な人々の独占物ではなくなる。誰もが魔法使いになれるのだ。

 プリームス帝国が真のちからを手に入れる。この世界全てを治めるのだ。

 西から征服していくか? 北の蛮族どもからか? 東の大国を従わせるのもいいだろう。


「おいっ! 貴様。ここで商売する許可を取ってるのか? 」


 規則を守らぬバカどもも、ひどい規則をつくるプリム人どもも、世界を征服したら一掃してやる。


 兄はこの都市を救って英雄になった。だが、私は世界を救う。私は英雄ではないだろう。英雄になりたいわけでもない。真の英雄とともに世界を救いたいのだ。


 ボールがコロコロと、マドックの足元に転がってくる。


 道端で、小さい女の子がボールで遊んでいて、そのボールが転がってきたのだ。

 ボロボロの服を着た女の子だ。赤い髪をしている。周囲の者は何も言わない。狂犬マドックには関わり合いになりたくないのだろう。幼い女の子、それもアータル人の女の子。


 あー、ひどい話じゃないか。


 マドックは身を屈め、転がってきたボールを拾う。女の子に近付き、拾ったボールを渡してあげる。


「気をつけてな。失くさないように」


 女の子は頭を下げて、ありがとう、と言ってにっこりと笑顔を見せてくれる。

 こんな笑顔を大事にしたい。そう、マドックは思う。


 マドックは近道と見廻りを兼ねて、路地に入る。悪い奴は暗いところが好きだ。


「噂って当てにならないわ」


 声に振り返ってみると、信じられない存在がいる。


 麻のフードつきの外套がいとうを羽織り、顔をはっきりと見せないようにしているが、全然隠しきれていない。


 美しい。


 大きな瞳。鋭く、それでいて柔らかい。全てを見透かされるようで、全てを包み込むようで、相反するものが同時にその瞳にあった。そして、目立つはずの赤い髪が、フードとその瞳に隠されている。


「本当に狂犬なのかしら? 」


 どうやらこの女は自分とわかって声をかけたんだと、マドックは理解した。


「私は確かに狂犬と呼ばれている」


 彼女はマドックをもう一度観察してから用件を切り出す。


「あたしの名前は、アールマティ」


「うむ」


 アールマティ、アータル人の伝説に出てくる女神の名前。自由と緑(自然)と歌を愛する戦女神。その名に負けない美しさだった。


「さっきの同胞の少女への優しさにお礼する」


「ボールの女の子か」


「そう」


 アールマティは簡潔に返す。


「気にするな、別にボールを投げつけられたわけでもないしな」


「あんたの命、あんたの家族の命を狙ってる奴に心当たりがある」


 マドックは辺りを警戒する。しかし、目の前の女以外、誰かいるようには思えない。


「殺し屋に依頼してた奴に心当たりがあるって事さ。知りたいか? 」


「当然だ」


 アールマティは何も言わず、振り返って歩み始める。


 マドックはついていく事しか出来なかった。


 どこか甘く、それでいて爽やかな薫りが漂った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ