2、こっちは仕事中だ
酒を飲み続けて、今さっき寝たばかりなのに……という反応から一転して、仕事の話と聞いて悪態をつきながらも、寝ぼけてはいないとわかる返事だった。
「依頼内容は? 」
スキヤキの質問に胸を張って答えられないのが、リナは悔しい。
「わかりません」
スキヤキはリナの表情を見ていた。声音も確かめていた。彼の習慣、条件反射になっている。
「ド、ク、サル、カ、って最後に言い残してました」
スキヤキは天井を見上げると息を吐く。それからベッド周りを見回し、服を確認するとベッドから立ち上がる。
「着替えるから待ってな。すぐ行く」
リナはスキヤキから目を逸らして告げる。
「急いでも仕方ありません。依頼に来たゴブリンはもう亡くなっています」
スキヤキがシャツを羽織り、刀を腰に差す。
「それはわからんさ」
部屋から出て行くスキヤキをリナは追いかける。酒場を出ると追い抜いて案内をする。
リナはゴブリンが眠る空き家の前でもう一度気配を探る。何もない、誰もいない事を確認してから中に入る。遺体はそのまま、血の線もそのままだ。
「とりあえず、依頼は受けても構わない」
スキヤキはゴブリンを見つめている。そして、両手をあわせる。癖みたいなもんだ。
「ありがとうございます」
「依頼内容は、リナが調べること」
「えっ? 」
スキヤキは当然という顔で続ける。
「弟子の仕事を奪う師匠がどこにいる」
リナは目を輝かせる。その目を見たスキヤキは再度当然という顔で続ける。
「いいから、早く行け。俺は寝る」
「どこに行けば? 」
目を手で隠して、スキヤキは背を向け、空き家を出ていく。
スキヤキの背を見ながら、リナは考える。昨夜、騒がしかったのと関係があるのかも? もちろん、関係ないかも知れないがそこから見ていくことにしよう。
リナはとりあえず昨日の事件のことを知る為に、衛兵隊の詰所へ向かう事にする。
そして、リナが空き家を出たのを確認してから、スキヤキが戻ってくる。ゴブリンの左腕を持ち上げ、手首の内側を見る。二本の青い刺青の線が彫り込まれている。
「手伝わないと怒られそうななあ」
スキヤキはそう呟いて、シナモンスティックを咥える。それから遺体を丁寧に横に寝かせる。
リナは詰所の前で衛兵に声をかける。もう明るくなっていて、衛兵は汗を拭いながら答える。
「あ? 知らんでいい。こっちは仕事中だ」
リナは頬を膨らませる。だが、本当に怒ってるわけでもない。自分みたいなガキが訊きに来たからと言って説明する義理はない。当然の反応だ。
優しい衛兵なんてのは宝石みたいなものだ。だから、詰所から出て来て自分を手招きする別の衛兵の方がかなり怪しい。
「スキヤキの所のガキだろ? 」
事実ではあるが、優しい笑顔とは正反対な声音。
「そうです」
視線をリナから外して小声で話し出す。
「フッガー家の砂糖精製工場で暴動が起きた」
そう話終えると、詰所の中に入っていった。
「角砂糖かぁ。この前も師匠買い貯めしてたな。なんで小声で教えたんだろ? 」
リナは外から睨み続けている衛兵に手を振って離れる。とびきりの笑顔だ。あの衛兵から情報をもらったわけではないが、敵意をわざわざ買う必要はない。自分はそんなに仕事が出来ないわけじゃない、そう彼女は考えている。
フッガー家というのは確かこの交易都市カラハタスで一二を争う商家と、リナは聞いていた。
毎朝のランニングをしながら道を覚えていっている段階ではあるが、北門近くの精製工場の場所は既に知っている。まだ伝手を作り始めたばかりのリナでもわかる場所だ。いつも荷馬車が多く停まって荷を入れたりしている。
「高級品で、カラハタスの一番の目玉商品。食べるんじゃなかったなあ」
歌姫を護衛した旅の途中で何度か角砂糖をスキヤキからもらった。アレはヤバい。身体の疲れが取れる薬の働きがあるのは嬉しい。しかし、何よりもあの甘さだ。リナは生まれてこの方あんなに甘いものを食べた事がない。果物より甘い。果物のように酸っぱさがない。
幸せを思い出して、涎が出そうなのを自覚しながら呟く。
「幸せを生み出す場所で生まれた事件。僕が解決します」
投稿間隔は週に一度くらいに減ると思っています。既にストックは切れています。
ただ途中で辞めたりはしませんのでよろしくお願いいたします。




