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5、末代まで伝えていきます

 暑い日差しが街道を照り付ける。

 スキヤキが荷台に寝ていたのは1日だけで翌日からは馬上に戻っている。リナが移動中は荷台のカサンドラの側に。カサンドラは新しい粗末で動きやすい服に着替えている。ダニエルは眠そうに馭者台に座っている。


 既に行程は三分の二を過ぎている。


 次の町は国境を越えて、アデム国内の町になる。


 最初の町以来、宿には泊まれていない。野営を続けている。何故ならスキヤキ達一行が異常だからだ。

 馬と荷馬車とドワーフ1人に人間が3人、そして百匹を越えてさらに増え続けていく猫達。大群も大群。現在の数はスキヤキ達には確認できていない。

 最初の町ですら猫が異常に多く見えたのに、今の光景は普通の人々には禍々しさを感じさせるだろう。


 そのスキヤキ達目線アデム国最初の町から三騎駆けてくる。


 丈の短い草原と街道に猫が溢れているのを見て、こちらに飛ばして近付いてくる三騎。一直線で三騎が来るのを見たリナが警戒してナイフを握り、皆に尋ねる。


「今までこんな事ありませんでしたよ。敵ですか? 味方ですか? 」


「この猫の大群に三人でやって来る敵はいないだろ? 」


 スキヤキは答える。発言程の安心感を持っている訳ではないが、ただの兵隊三人なら怖くはない。今日のスキヤキは体調に問題ないからだ。


 駆け寄る三騎に対して猫達は何もしなかった。ダニエルは一度荷馬車を止める。ドワーフであるダニエルは、人間や自分を含めた人間達が呼ぶ亜人の感覚や考察に比べて、動物の本能が正確だと信じている。彼等の本能がこの三騎を敵と見てないなら敵ではないのだろうと。



「歌姫様はいらっしゃいますか? 」


「いるよ」


「国から保護するように申し付けられています」


「保護? 」


「申し訳ございません。護衛という意味です」


 二人の男性と一人の女性。鎖帷子くさりかたびらを身にまとい緊張感が漂っている。だが、恐怖を感じている様子もない。およそいくさなんかに出たことないような三人がである。


「あの、本当にこんな場に居合わせるなんて光栄です」


 スキヤキが首を捻る。他の面々も何を言われてるのか分からず戸惑っている。代表してスキヤキが尋ねる。


「光栄とは? 」


「霊獣様がお呼びになられた神の御使いとその従者の方々、さらにこれだけの猫……様。そんな皆様と同行出来るなんて。……え、いや、一時的にですよ。ですが光栄な事です」


 鎖帷子くさりかたびらを着た女性の言葉に、大きく頷く残り二人の男性。そこにからかう姿勢はない。


 スキヤキは荷台でうずくまっているカサンドラを見る。カサンドラが服を変えてから、そんな小さくなっている姿をよく見かける。きらびやかな服を脱ぎ、身を隠すとその姿に引き摺られるものだろうか。


「猫様な~、ワシ達もきっと歴史に名を残すなん」


 ダニエルの皮肉が虚しく響いた気がする。


「ええ、間違いございません。後でお名前とか教えて下さい。末代まで伝えていきます。では、我等の後に続いて下さい」


 今度は鎖帷子の男が答えて、背を向ける。

 本当に子々孫々まで『うちの御先祖様は神の御使いとその御一行を案内したんじゃ』なんて言い伝えるんだろうなと、スキヤキは思いながら、シナモンスティックを口に咥える。


 三人組の内の女性が荷馬車の側について、ダニエルやリナと会話を交わしている。スキヤキはその会話内容を何とはなしに耳に入れる。中身としては大した事はない。猫はアデム国では神聖な生き物だから御安心下さい、とか、国王から早馬が来たとか。

 今回の護衛の話は、帝国からの要請ではないのだ。アデム国から、つまり霊獣ヘクトールからの指示だろう。やはり無事に帝国に行けたのだ。


「不吉な事件も王都で起きているそうです。我が国では、猫が神聖な生き物とお話しましたが、その王都にいる猫達が惨殺される事件が続いているのです」


「えっと飼い猫とかですか? 野良猫とかではなくて? 」


 リナの質問に鎖帷子の女性は戸惑う。代わりにダニエルが説明している。


「アデムでは、飼い猫も野良猫もない。国全体で猫を飼っていると考えていいんだな。猫の楽園さ」


「飼い猫……はわかりませんが、夜間に次々と殺されていて明け方死体が見つかるのです。今は夜間の巡回も始めたそうです」


 ダニエルが詳しく聞きたいと尋ねてるが、それ以上の情報はない。夜間の巡回が始まってからどうなのかまではまだわからないそうだ。



 スキヤキは思う。間違いなく猫殺しは続いている。スキヤキは自分の師匠の話を思い出す。


『魔法は奇跡の力だ。奇跡である魔法には代償が必要で、その代償は生命いのちなんだ』

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