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3、神に感謝するのは恩知らず

 つい今しがたの出来事を聞いたリリィは、神に感謝する。


「神様、ありがとうございます。私の失礼な発言を赦していただき、さらにマリア様のお命を守っていただいて」


「ワシ達のおかげよん、神なんて……」


「おいっ! 守ったのは俺だから」


 リリィの祈りに二人は悪態をつく。しかし、口調は軽い。二人の代わりにと、マリアが答える。


「リリィ、その発言こそ神は赦さないでしょう。私を救うために動いたのはスキヤキとダニエルにです。神に感謝するのは恩知らずというもの」


「申し訳ございません、マリア様」


 リリィは二人に改めて謝罪して、感謝を述べ部屋を出ていく。憲兵達も席を外して、三人だ。

 狂犬が狂っている証拠かも知れないが、思い込みが強すぎる、自分とスキヤキを簡単に信じ過ぎると、ダニエルはマリアに話をする。ダニエルは哲学者らしく? 人を疑う事を忘れない。


「義弟は自分の信じたい事を信じてるのよ。だから私の研究を開明派に渡せばいいと信じてる、それが開明派の、帝国の平和に繋がると」


「平和には繋がらない、とマリアは思ってるんだな? 」


 スキヤキは椅子に腰掛けてくつろいで質問する。


「私は魔法の使えない子供に、使えるようになって欲しいと思ってただけ。でも、魔法を上手く使えない兵士にも有効だなんて考えてなかったのよ」


「学校というか、塾か、の先生してたんだよな? 」


 マリアは視線を左上に持っていく。ニッコリと微笑んでこちらを向きなおす。


「有名な話でしょ? 貧しい塾の先生が優しい老男爵様に拾われて人生薔薇色になるって」


「スペーシア男爵は一代貴族だったよな? 俺でも知っている程の出来た人だよ。もともとは商売をしていたが、レナトゥス帝の大飢饉の時に食糧を調達してきてこの大都市を救ったとか」


 マリアは頬を紅くして話す。


「彼はいつも言っていた天気を読んで、食糧を前もって買い付けしただけだって。彼にとっては賭けでもなんでもなかったみたい」


「ごちそうさま。……とりあえず保守派は本気だ。狂犬マドック、開明派はどれくらいちかは入れてるんだ? 」


 マリアは首を振り、紅茶を飲む。ティーカップを置いてから口を開く。


「本気なら義弟が護衛のままなんてないと思ってる。だって帝国の主流にいる開明派にはもっとしっかりした人材がいるでしょう? 義弟のスタンドプレーに保守派が焦り過ぎたとしか思えない。でも……」


「でも? 」


「本音を言うと、戦争に利用されるのは絶対にイヤなの。だから怖かったけど、殺されてもいいと思ってる」


 マリアは手に持ったハンカチをしっかり握り締めて話す。


「私が手を抜く事も、失敗する事も許されてないの。もちろん自殺なんて出来ないわ」


 スキヤキとダニエルはお互いに目線をあわせてから、マリアに質問する。


「まだ何かあるんだよな? 」


「人質というか、失敗したら私の大切な人を殺すと脅されてるの。だから貴方達にはその子をどこか安全なところまで逃がして欲しいの」


 スキヤキは顎に手を当てる。


「そんなやり方する開明派なら、フッガー家あたりか? 」


 マリアは頷く。


 フッガー家とは、この交易都市カラハタスで砂糖サルカラの交易で財をなした豪商だ。政商でもある。カラハタスは元々人種差別等が少ない地域であり、そこで成功した商人であるフッガー家は開明派なのも当然だ。


 プリームス帝国は元々プリム人の国であり、権力と財力はプリム人が一手に握っていた。ただ帝国の拡大と共に、民族が交わり、プリム人以外の手にも力が分散されていく。そして開明派とは、帝国の為にはプリム人以外にも力や知恵を与えていくべきだとする一派だ。


「で、誰を逃がせば良いのん? 」


「リリィよ」


 リリィが出ていったドアを見ながらマリアははっきりと伝える。


「ただの下女ではないわけだ」


「私に残った最後の身内なの」


「娘なん? 」


 マリアは少し困った顔して呟く。


「あの人の子供は産めなかった」


「大事な存在だ、というならそれでいい。美しい女性に秘密がなかったら魅力が半減するさ」


 スキヤキは片目を閉じて、ウインクをしようとする。飛来する矢を切り捨てるほどの技術を持っているくせに、その片目を閉じる技術は下手くそである。

 彼のウインクにダニエルとマリアは顔を見合わせて笑う。


「リリィを逃がす先はありそうね? 明日にでも大丈夫? 」


 少し間を置いてから、スキヤキは答える。


「まずひとつ、貴女を死なせるのは俺の気分が良くない」


 マリアが反論するのを手で静止する。


「もうひとつ、貴女が死んで簡単に諦めたり、例の魔法の新技術がないと信じるかな? 」


 スキヤキは息を深く吐いてから続ける。


「狂犬マドックはある意味単純だ、しつこいけどな。だが貴女を狙うのに小夜泣鳥ナイチンゲールを使うくらい用心深い保守派の事だ、いつも傍にいた下女が急にいなくなったら探しかねない。保守派の方にも手を打たないとリリィを逃がす事は出来ない」


 そこまで言ってから、にっこりと笑顔を見せてスキヤキは宣言する。指を三本立てて。


「3日くれ。3日で大丈夫さ。どうにかするよ。神様よりはよっぽど役に立つぞ」


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