3、これも仕事だ
リナの表情にカサンドラは説明を加える。
「私は彼等に守ってもらう契約をしてる。彼等は守る職人でしょ? だから守る対象にどんな服を着て欲しいか知ってると思う。そして職人なら自分の仕事に誇りも自信もあるでしょう。だから彼等に任せるの。私はリナさんもその職人のひとりだと思ってたけど? 」
部屋はこの町で一番とはいえ、簡素な造りだ。汚くはないが、余計な物はない。その中でカサンドラの声は、詩を歌うように響く。
「ぼ、僕は押し掛け弟子なんです」
リナはカサンドラに答える。リナの声は震えている。だが振り絞るように続ける。
「カサンドラさんはいつ自信を持てるようになりましたか? 」
カサンドラはリナの声をベッドに座りながら聞き、彼女の方に顔を向け、彼女の眼を見る。カサンドラはリナを見て、表情を緩める。
「昔を思い出すわ」
カサンドラはバッグから水筒を取り出し、水を一口飲む。リナが自分の声を待っているのはわかっているが、少し言葉を選びたい。
「私も師匠、前の歌姫ヘカベーの元に押し掛けたのよ」
カサンドラは向かいの壁の左側にある燭台へと目を向ける。
「師匠の元で歌の練習に取り組んだ。もちろん歌に自信はあったわよ。でも、歌姫ヘカベーのようには歌えなかった。語るように、心の奥底まで届くように歌えなかった」
カサンドラはリナへ視線を向けずに語り続ける。
「力不足を自覚しながら、お金を戴くの。あの頃が一番辛かった。歌姫ヘカベーに相談したわ。彼女はこう言った。あなたを認めてお金を払ってる。認めなければお金を払わない。だから堂々と歌いなさい。どれだけ自信がなくても自信がある振りをしなさい。私も先代の歌姫に遠く及ばない。でも、私が優っている部分もあるから、とね」
カサンドラはリナへ向きなおす。そして深い声を届ける。
「ヘカベーと私は違う。私の方が歌を遠くにしっかり届けることができる。あなたもあなたにしか出来ない事がある」
カサンドラはふっと目線を外して、ベッドに横になる。
「服をお願いね」
リナは部屋を出て、ダニエルを探す。ダニエルから服についてのアドバイスを貰う為だ。
リナの頭の中は、カサンドラの歌声で一杯だ。そう、あれはまさしく歌だ。師匠の元へ押し掛けた少女の物語。
カサンドラが道中ほとんど口を聞かず、色々な事があってる中だから当然ではあるが、無口なのかと思っていた。
カサンドラが話すというのは、歌うこと。だから軽々しく披露しないということかもしれない。
ダニエルは隣の部屋で荷物のチェックをしていた。バタバタで出て来たから荷物に漏れがないか見ている。
スキヤキはその部屋で寝ている。服や荷物はそのままにベッドに突っ伏している。
「ダニエルさん、カサンドラさんから服を頼まれたんですが……」
「ズボンなら何でもいい。色は地味な方が目立ちにくいくらいかな? ほい、金だ」
「ありがとうございます。では、買いに行きます」
ダニエルから金の入った巾着を渡される。
スキヤキは寝入っている。
「自分の出来る事しなくちゃ」
そう言って、リナは仕事を初める。自分の服に武具にきちんと確かめてから宿を出る。
宿を出て衣料品を探すがまともに取り扱いしてそうな店は数が少ない。小さな町に衣料品店などないのだ。この町の中心部に商店が3つあるが、雑貨屋みたいなとこにズボンが置いてあるだけ。
リナはとりあえずだいたいのところを見終わって、雑貨屋に戻って服を買うことにする。日射しが強く目を細めた瞬間だった。
リナは突風に吹き飛ばされる。
町の大通りから路地の奥深くまで吹き飛ばされる。何とか身体を丸めるが、背中を壁にぶつける。
リナは身体を起こそうとするが、背中を蹴られ、態勢を崩す。剣が肩の上に乗せられるのがわかる。
「すまないが、これも仕事だ」
右腕を掴まれて、背中に回される。反対側の路地にエルフが立っている。背後にいて腕を掴んでいるのもエルフだろう。
突然、意識の外から攻撃を受けるのがいかに防ぎづらいかを改めて認識する。
「お前をあの女と交換にする。諦めろ」
リナは背後の男の言葉に涙が出て来る。自信どころの話ではない。完全に足を引っ張っている。
「静かにしてくれ」
そうリナに告げたエルフと、告げられたリナ、二人の視線が止まる。
反対側にいたエルフの首筋に刀が当てられていたからだ。




