2、それじゃ三流止まりさ
勇者アポロの息子ヘリオスは、三人組を自宅に招いた。
ヘリオスの家は村の中でも大きな方で、彼独りで住んでいたので、部屋も余っていた。夜に魔族退治に行くはずもなく、傭兵三人を泊めるのも彼の家というのは必然の流れであった。
食堂の椅子にかけてもらう。食事までは用意してないが、お茶を出す。
「今回は本当にありがとうございます」
ヘリオスは三人に頭を下げる。魔族と聞いて怯む事なく、すぐに話を受けてくれた。確かに一度、名も無き父が封印できたくらいだから、強力な魔族ではないのかもしれない。だが、人間を喰らうと言われる魔族退治に快く参加してくれた事に感謝しかなかった。
「とりあえずどんな魔族なのん? 」
ダニエルが尋ねる。小柄だが筋骨隆々で、まさしくドワーフの戦士という体格をしている。だが、ヘリオスはそれ以上に彼の哲学者のような顔つきにこそ目が行く。
「ここだけの話ですが、以前はこの少し先にある森の守り神と呼ばれていた存在です」
「それは大丈夫なのなん。ワシはそもそもドワーフだし……」
「あたしはアータル人」
アールマティはフード付きの外套を脱いで答える。赤い髪で証明する。
「俺はそんな二人とつるんでるんだから、わかるだろ? 」
スキヤキの言葉を受けて、ヘリオスは安心して頷く。
「帝国は唯一絶対神ウーヌス様を崇める事になっているので……。20年前にこの地域の代官が替わって、厳しくなった事もあって、森の守り神へのお供え物を止める事になりました。すると家畜が次々に襲われるようになり、森へ薬草や木の実を取りに行けば遭難するようになりました」
ヘリオスはお茶を一口。彼は大きく息を吐いてから、再度話し始める。
「その年、この地域ではこの村だけが不作になりました。そこで、森の守り神、つまり魔族を退治しようとなりました。何人もの村の若者が挑戦して死んだのですが、父だけが退治して生き残ったのです」
「魔族を村の一人の若者がねえ……」
スキヤキは素直な感想を漏らす。
「はい。村人は誰も信じませんでした。父は、蛇の化け物を倒した、殺したら煙りのように消えた、だから死体もない、と。ですがそれ以降、家畜が襲われる事も、森で遭難する事もなくなりました」
「ふむ」
ダニエルはじっくり話を聞いている。アールマティはどこかニヤニヤしている。
「今年に入って半年、20年前と同じ事が始まりました。家畜が襲われ、森で遭難。この後には収穫が控えています。これが不作になる前にもう一度、と」
スキヤキはヘリオスを見ていた。だが、ダニエルとは違って、話の中身は余り聞いていない。表情を、仕草を見ていた。
だからヘリオスの話に続きを促すのはダニエルとなる。
「父親からは特別に何か教わってないのかなん? 」
「教わった事はありません」
「で、父親はいないのかなん? 」
「去年亡くなりました」
スキヤキはヘリオスから視線をアールマティに動かす。アールマティは笑顔のままだ。アールマティの笑顔は珍しい。スキヤキには凶兆にしか思えない。
「で、ヘリオスは村の中でかなり強いのかい? 」
「父は村の勇者でした。その息子として身体を鍛えてはいましたが、普段は狩りをする程度です」
ダニエルはゆっくりと答える。
「多分、魔族ではないかな。蛇の魔物でないかなん」
スキヤキが続く。
「魔物なら何とかしてやるよ」
そして、明日、朝から出発する事にして、ヘリオスを寝かせる。
「ヘリオスには特に変わったとこなかったぞ? アールマティはここら辺の魔族に心当たりでもあるのか? 」
はっきり言って、魔物なら三人で、いや、大抵の魔物ならスキヤキ独りでなんとかなる。スキヤキはアールマティが気になったのだ。
「まだまだだな。それではまだあたしの相棒にはなれんな」
「俺の相棒はダニエルだ。特に困ってないよ。それに美女が絡まないなんて……」
ダニエルが口を挟む。
「魔族ならすぐに逃げるのなん。割に合わないのよ。命を賭ける程の報酬なんて、この村には出せないよう」
今回は取れそうなところが何処にもない、と頭を振りながら付け加える。ダニエルは荷物から酒を取り出し飲み始める。
「金の稼ぎ方を知らんな、ダニエル」
「いつも美味しいところを持っていきますからね、先生は」
ダニエルはアールマティを皮肉る。アールマティも自分の酒を取り出し、ゴクリと飲む。そして、彼女は挑発する。
「鼻を鍛えな、それじゃ三流止まりさ」




