2、見えそうで見えない
朝日が眩しい。
カーテンを開ける彼女はまだ何も身に付けておらず、輝く金髪が臀部まで伸びている。手元にあった服を手に取り、こちらを振り向く。
「見えそうで見えない」
彼女はニッコリ笑って口を開く。
「昼間に見せるものではないわ」
スキヤキは周りを見渡し、テーブルの上に服かあるのを確認すると、その中からシナモンスティックを取り出す。
「とりあえず何にも覚えてないんだけど、凄くもったいないことなのかな? 」
「私は満足してるから、もったいないことではないわ」
「何か飲み物ない? 」
「ちょっと待って」
メーディアは部屋を出て行く。スキヤキは服を着て、日本刀を確認する。勝手に日本刀と呼んでるだけではあるが、彼の考えてる日本刀とほぼ同じ剣で、こちらの世界では珍しい。
鞘から刀を抜き、刃を確認する。
「あら、怖い」
メーディアはコップを持って戻ってくる。残念ながら服を着ている。
「普段着でも綺麗だね、印象は変わるけど」
「どちらが好き? 」
「覚えてないけど、多分、生まれたままの姿の方」
メーディアは苦笑する。
「夜と昼を比べてだけど」
「もう一度、勝負したいんだけど」
メーディアはコップを差し出してくる。
「お茶の飲み比べ? 」
「酒では負けたよ、驚いた」
スキヤキはコップのお茶を一気に飲み干す。本当に喉が渇いていた。
「次回は、約束の後でね」
「え~っと、約束って何? 」
わざとらしい笑みを見せながら、メーディアは答える。
「三番衛兵隊とコリンティアファミリーです」
「メーディアの賭場はコリンティアファミリーとは敵対してるわけね」
「私達は特に敵視していませんでしたよ」
スキヤキの発言に食い気味に答える。
「三番衛兵隊の隊長が変わったんです」
彼は何となく予想がついてきたので、ゆっくりと彼女の話を待つ。
「新隊長はレオニス。プリム盲従派の特に狂信的な奴よ」
帝都は保守派と開明派と五分五分くらいと聞いている。で、当然ながら、エルフやゴブリンを含めた亜人に寛大なのは、開明派になるわけだ。保守派は人間の中にまで差を着ける思想だ。亜人なんてそもそも論外という立場だ。
帝国自体は、亜人と人間は対等というのが建前で、帝国民がそうでないのかが全てであるとしている。
だが、個々の思想は様々なわけで、エルフやドワーフはいいけど、他の亜人は駄目という人もいる。
はぐれエルフのメーディアを、ゴブリンやオークなど差別されやすい者達を身内にしているあの賭場は、保守派からの嫌がらせも厳しいモノになったのだろう。
「あの賭場の親分さんはどうするつもりなんだい? 」
「親分は……病気なんだよ。戦う気もあるし、戦う奴も揃ってる。でも、争うなって」
メーディアは顔を背ける。顎から首筋にかけての筋肉の動きが見てとれる。
「意気地無し? 」
スキヤキの言葉にすぐさま彼女の手が飛んでくる。平手打ちを頬で受け止める。
「始めて触れてもらった気がするんだが、気のせいかな? 」
彼女はすぐにまた顔を背けなおす。少し経つと、後ろを向いたまま確認してくる。
「受けてくれるってことね」
「確認だけはするが、基本的にはキチンと、三番? の衛兵隊とコリンティアファミリーかな、反省させるさ」
彼女は笑顔で振り返る。
「あら、私ってそれくらいの価値かしら? 」
彼も笑顔で返す。
「なんせ記憶にないからなぁ。思い出したらその分は追加で仕事するよ」
「街のここいら辺りを廻って来たらすぐ思い出してくれると思うわ」
「お茶、ありがとう。美味しかったよ」
刀を腰に差して、スキヤキはベッドから立ち上がる。
「またね」
「楽しみに待ってるわ」
部屋を出て、階段を降りて外に出る。
彼女の部屋があったのは、例の賭場の隣の建物だった。
帝都は基本的に明るく広い通りがまっすぐ伸びている。名君と誉れ高い三代目の皇帝は、『帝都に攻め込まれている時点で帝国は終わりだ』と城塞そのものは拡張せず、取り壊しまではしなかったが、まっすぐ伸びる大通りを整備していった。
だが、時が過ぎ、帝都が拡がり続けると、その外郭部分は入り組んだ道が出来ていった。
そして、そんな地域には、帝都に集まってきたはいいが、まともな職にありつけない者達が住む事になっていく。
汚い路地を進むと、大通りに出る所に花がいくつか置かれていた。ひとりの少年が新しく花を並べる。
「ご、ごめんよ、アリス」
少年は涙を流して、祈りを捧げる。




