第10章
ピジョンの臨時休業、つまりは夫妻の娘・サリーの命日から1週間が経とうとしていた。ラメルは結局、あの日聞いたことはセレンやオリビアにも話せずにいた。なんとなくだが、夫妻もあまり話したがらなかったのなら、自分が勝手に言うわけにもいかないと思っていたからだ。
記念礼拝に出席していたアデリアも、その後ラメルと夫妻が何を話したかを尋ねてくることもなかった。
後日ピジョンに来店したカミーユも、行列の客を待たせた接客中のためほとんど話はできなかった。だが、マリアの抱いた遺影に気がついていた程だ、彼なりに悟っているのかもしれないとラメルは感じていた。
特に変わらない日々が過ぎていくだけだと思われたある日。閉店後に声を掛けてきたのは、アデリアだった。
「ラメル。次の休日に、クリストフが剣術訓練をしないかと言ってるけど」
「剣術……ですか?」
ラメルはこれを聞いて二重に驚いた。
まず一つは、クリストフとはカミーユの件があって以来会っていなかっただけでなく、長年の知人であるエミリアがクリストフの母親だと分かってからは、アデリアとクリストフの話をすることさえ憚られた。それに、騎士団の施設で訓練をする話はカルムの村からの帰り道で投げかけられただけで、ラメルはてっきり冗談かと思っていたのだった。
もう一つは、てっきり訓練をするのは炎魔法のことだと思っていたのに、剣術訓練を持ち掛けられていることだ。
「ええ。わたしも前に言ったでしょ。ナイフよりも、剣の方がいいわよって。
剣はクリストフが昔使っていたのを譲ってくれるらしいから、そのまま手ぶらで王都まで来てですって」
ラメルは、アデリアのこの言葉にも疑問を覚えた。
というのも、ラメルは今アデリアを通じてクリストフから魔術書を借りていて、次に会うときに返そうと思っていたのだ。いや、エミリアのことがあってから、これを口実にしてでも会って話をした方がいいとさえ思っていたのだ。
――あえて魔法に触れさせない、ということ……?
魔術書も、"制御"の本だったし……
炎魔法を使うことによって、ラメルがトラブルに巻き込まれることは、以前からアデリアとクリストフも懸念している。それは、恐らくリュファスの言った通り、自分がクロウド・ドーランの娘で、その力を受け継いでいるのが露見するのを危惧しているのだろう。それに、カルムの村で盗賊に囲まれたとき、ラメルは魔法を使いこなせず自分も負傷したこともあった。そのようなことから、あれ以来魔法は使わないようにしている。
と、表面上はそうなのだが、このままでは本当に炎魔法がまともに使えず、忘れてしまうこともラメルは恐れていた。制御の本を読みつつ、小さな火を作ることは度々行っていたが、それは誰にも内緒だ。
ラメルはあまり前向きではなかったが、アデリアから待ち合わせの時間と場所を聞き出した。
* * *
「久しぶりだな。元気だったか?」
聖日。待ち合わせ場所は、王都のあの時計塔であった。
もう何度ここで人を待っているのだろう。
柱にもたれかかって待つラメルに、クリストフは、いたって普通に声を掛けてきた。
腰に剣を差しているものの、騎士のローブや鎧姿ではなかった。私服とはいえ高貴でおしゃれな雰囲気を漂わせるクリストフに、ラメルはしばし見とれてしまう。アデリアと同年代だとしても一回りほど年上なのだ、大人の男性であることを思わされた。
しかし、すぐにぼんやりしていた自分に気付くと、クリストフの表情を窺った。
エミリアから何も聞いていないのかもしれないし、何か聞いていてもそれを窺わせないようにしているのかもしれない。中堅の騎士ともなれば、簡単にラメルが見抜けるような相手ではない。
しかし、そんなラメルの思惑はクリストフには筒抜けだった。
「いきなりそんなに睨まなくても」
クリストフは思わず笑みをこぼしたが、ラメルはそれが真の笑いではないような気がした。
「話したいことが沢山あるのは、分かっている。
とりあえず、行こう。先にこれを渡しておく」
そう言うと、クリストフは腰に提げた以外に、もうひとつ手にしていた剣を、ラメルに手渡した。
アデリアの使用しているレイピアよりも一回り程小さく、柄の装飾も質素で、それほど重たくなさそうだ。
クリストフの剣同様、腰に提げるためのベルトまで付いていて、これは女性用で新品と思われた。剣はお下がりと聞いていたが、ベルトはわざわざ買ってくれたのだろう。
慌ててラメルが礼を述べると、クリストフは特に気にしない様子で歩き出した。ラメルもそれを数歩遅れて追う。
「いいんですか、わたし、騎士団の関係者でも何でもないですけど」
騎士団と思われる建物が見えたところで、ラメルは改めて問いただす。
「そこは、考えてある」
それ以上は、訊くことができなかった。こんなに人目の多い場所で色々と聞き出すことは、さすがに憚られた。アデリアと親しいはずの男性と、ふたりでいるところを見られるのもなんだか変な気分であった。
クリストフが案内してくれたのはやはり騎士団の訓練場で、休日にもかかわらず、戦闘訓練をしている騎士がちらほら見られた。若くして大佐であるクリストフは有名人なのであろう、誰もが一度訓練の手を止めて、クリストフに挨拶をしながら、謎の同行者であるラメルを注意深く見つめている。
「大佐、お疲れ様です。新しい入団候補者ですか?」
「まあ、そんなところだ」
ピジョンを辞めるつもりも、騎士になるつもりもないラメルは、それを聞き心配になったが、恐らくそれが自分を施設に招き入れるための口実なのだろうと気付くと、話を合わせるように頷き、会釈をした。
クリストフが使用の手続きを終えると、先ほどのような開けた訓練場ではなく、誰もいない訓練場の一室に案内された。
「ベルトのつけ方は…今は、ナイフ用のベルトをつけているから分かるな? ナイフも、いざというときの武器になるから持っておくといい。これみたいに、懐剣を入れられるタイプの防具を着るんだな」
そう言いながら、奥の倉庫から女性用の騎士団の制服を取り出してきた。制服と言いつつも、防具としての機能を備えている丈夫な物だ。ラメルが衣服の上にそれを身につけ、ベルトを付け直すと、クリストフは倉庫から練習用の木刀を取り出してきた。
「早速だが、始めようか。僕の普段の剣は両手剣だから、これを使わせて貰うよ」
そこから、クリストフは剣の持ち方から構え方から、ラメルの横に立ち実演して教え始めた。
クリストフの出世が早かったのは、彼の剣の腕前だけでないというのがラメルでも分かるほどに、分かりやすく丁寧な教え方であった。
基本的なことを教わった上で、クリストフと手合わせとなった。
「ほぅ…なるほど。今はナイフと違った重さや長さに慣れていないだけだ。ナイフの器用さがあるから、これからが楽しみだな」
クリストフはラメルの剣を木刀で受け止め、返すと、感心したように言った。
「アデリアが、自分で教えてやれたらと言っていたんだが。なかなか練習できるような場所もないし、店が忙しいと言っていたからな。休日を使わせてすまないとは思ったが、いい機会にはなったかな」
「ええ、こちらも、休日にわざわざありがとうございます。
…わたし、騎士になるつもりは今のところないですけど、良かったんですか」
周囲に他の騎士が見えないことを確認し、ラメルは後半小声で尋ねた。
クリストフはニヤリと笑うと、答えた。
「まあ、アデリアはじめ、あの店で君は大事にされて、上手くやってるみたいだからな。
もちろん入団希望というのならいつでも歓迎する。
ここを使う手段といえば手段だ。手続きには偽名を使ってあるから安心していい」
最後の一言にラメルは一瞬ぎくりとした。偽名を使わなければならないほど、クリストフは自分に関して慎重になっているのかと考えないではいられなかった。
「制御の本を…お返ししようと思って、手荷物に入れているんですが」
「ああ…まだ持っていてもいいのに。読んだのかい」
「ええ」
クリストフは何かを感じたように、訓練場の扉を閉めた。
「だから、てっきり今日は魔法の訓練をするのかと思いました。
もちろん、剣術訓練もありがたかったんですけれど。でも、それってまるで―」
「あれから、炎魔法は使ったのか?」
クリストフは、ラメルの言いたいことを遮るように尋ねた。
ラメルは釈然としなかったが、クリストフの問いに答えることにした。
「あの本に書いてあるように、気をつけました。
それで時々、かまどの火起こしをしてました。ライスを炊くのに」
ラメルのこの答えには、クリストフはこれまで見たことがないほどに声を上げて笑い出した。
「仕事でそれをやるとは、なかなかやるな。失敗したらどうするつもりだったんだ」
「でも、小さな火を出すのにはいい練習だと思ったんです」
そして天井を仰ぐと、ラメルは話し出した。
「ああいう本や魔法の学問もあるんですね。孤児院で育った人も、生まれつきの魔力に悩んでいたから、知っていれば良かったのしれませんね…」
ラメルが考えたのは、ジャスミンのことだった。
「でも、わたしは忘れたくないし、使えるものなら使いたいと思うんです。
自分も知らない親から譲り受けた力なら、なおさら。
でも…それでも、わたしは炎魔法を使わない方がいいと思いますか?」
クリストフは直球の質問を受けて、少し考えているようだった。しかし、その時間は長くはなかった。
「君が騎士だったら…迷うことなく、魔術騎士の道を行かせたと思う。僕のように」
魔法専門の騎士や、両方を扱う騎士のことだろう。
「でも君は、商人として歩んでいる。君の幼馴染の人だって、違う道を選んでるんじゃあないか? 能力とは別の道を。
違う道を選ぶのなら、その力が仇になってしまうこともある。君の場合は特に心配なことがある。自身がケガをすることだってあるかもしれない。だから、あの本を渡したんだ」
実際のところは、ジャスミンは複雑な感情を抱きながらも、占いの能力を使う道を選んでいる。ラメルはそう言おうかと思ったが、ここで、クリストフがふっと笑ったのを見て、言い留めた。
「でも、かまどの火起こし程度まで魔力の調節ができるのだったら、自分をケガさせるようなことはないかな。突然大きな魔力を使うことがなれれば、な」
そう言うと、ラメルの剣を指差す。
「君のスモールソード、かつては僕が使っていた物だが。そこにマジックストーンをはめられるようになっている。今はそこの剣に移したが、僕は翡翠を付けていた。君の場合は、そこに制御のマジックストーンをはめることもできる」
確かに、ラメルの剣の柄には、簡易な装飾と共にぽっかり穴が空いている部分があった。翡翠は風のパワーストーンだと聞いたことがある。クリストフはシルフィードを召喚するので、翡翠を用いているのだろう。
「クリストフさんは、魔法はここで習ったんですか」
「僕の場合は、召喚術だな。そうだとも言えるが…素質はあったようだな、子どもの頃から」
何気ない質問だったが、クリストフは真剣にそれを聞いてくれたようだ。
「子どもの頃から、色んな生き物と触れ合うのが好きだった。召喚士というのは、第六感といえばいいののだろうか…人間同士のコミュニケーション以上に何かを感じる能力があるものなんだ。僕は、生き物を通じてその力を知らず知らずのうちに習得したらしい」
そう言いながら、クリストフは訓練場に立てかけて置いていた、自らの剣を手に取り、抜いた。
クリストフが言っていたとおり、そこには翡翠が埋め込まれている。クリストフが剣を掲げると、翡翠はキラリと輝いた。
「目には見えないものの力、耳には聞こえないものの力を感じるんだ。
まあ、そうは言っても君には分からないと思うが」
しかし、クリストフの言葉から、ラメルは孤児院のあったフロガー村でのことを思い起こした。
フロガー村は山間の村で、見える景色は山や森ばかりだった。だが、田舎だから、人のいない場所だから何もないわけではないことを、ラメルは知っていた。
風が吹いているときはもちろんだが、そうでなくても、木々の騒めきが聞こえる。山の生き物が立てる物音にしては、規模が違う。ラメルにはそれが山や森そのものの蠢きのように思えてならなかった。それを聞くと、人間や目に見える生き物など、なんとちっぽけな存在なのだろうかと考えずにはいられなかった。
一方で、静寂を思った。特に冬の空気は恐ろしいくらいに澄んでいて、山や森だけでなく、生活の中でだって、あらゆる空気の音を吸い取ってしまう。まるでシーンという音が流れているかのように。その中で、どんな些細な物でも、音は響き渡っていたように感じられた。
「ラメル…」
呼びかけられて、ハッとする。その声は、女性の声だった。
気が付くと、クリストフの傍らに小さな緑色の女性がいるのが目に入った。背中には羽根がある。以前、カミーユのことをクリストフが知らせに来たときにいた、シルフィードの姿だった。
そのラメルの様子と、シルフィードの声にはクリストフも驚いたようだった。
「聞こえたのか? シルフィード自身の声が?」
「ラメル。貴女も、知っていたのですね。見えないものの蠢きを、感じることを。
クリストフも同じです。風は目に見えるようで見えない。聞こえても、そこから何を聴き取るかは人によって異なる。貴女もクリストフも、聴き取ることのできる人間です。
貴女の力は、心配することはありません。自然の声を聴き、訓練の下、冷静さを保てば暴れることはないでしょう」
シルフィードの声は、その名の通り風のように落ち着きと安らぎのある声だった。小さく見えるも、子どもではないらしい。静かにそう言うと、彼女は微笑んで、翡翠に吸い込まれていった。クリストフは驚いたままの表情で頭をかく。
「参ったな。また君の力を引き出してしまったらしい。今日はこの辺りにしよう」
そう言って、クリストフは木刀を片付け始める。ラメルは鎧を兼ねた制服を返そうとしながら、思い切って話し出した。
「エミリアさん…お母様だったんですね」
クリストフはピタリと動きを止めたが、表情は変えなかった。
「エミリアさんは…わたしの親のことを、恐らく知っています。あなたも知っているんですか」
「何の話だろうか」
クリストフの表情や声は、穏やかなものに見えたが、ラメルには自らがクリストフの心から閉め出されているような気がした。
「僕の母親は確かにエミリア・マレスだ。職業ギルドの役人で、その夫である父はギルドマスターだ。
でも両親は僕には役人ではなく、僕の信ずる道を行かせた。お互いそれに干渉することはない」
"第一、それは職務上の機密事項だろう"と言うと、クリストフはラメルの手から制服を受け取り、倉庫に向かってしまった。ラメルはそれを追い掛ける。
「一体、何を知るべきでないって言うんですかッ? エミリアさんも、クリストフさんも、アデリアさんだって…」
感情の高ぶりからか、ラメルの声が震える。
倉庫の暗がりから、クリストフの瞳が差し込む光と共に鋭く光って見えた。
「僕が? 僕やアデリアが、何を知っているって言うんだ」
思わず、ラメルは言いよどんだ。クリストフの迫力もだが、今、自分が立てている仮説を話すことが、正しいことなのか戸惑ったのもある。新聞記事を調べたりしている、そんな手の内を見せることは、気安くできなかった。特に、クリストフが何かを隠していると疑っているからには。
そんなラメルを見て、クリストフは倉庫から出てきて、続けた。
「僕は今日、剣術を教えただけだ。それ以上教えるつもりはなかった。制御の本は、元からあげるつもりだったから、返す必要はない。
馬鹿馬鹿しいと思っているが、盗賊からも根拠のない誤解を受けているんだ、トラブルを避けるためにも、炎魔法は使わないことだな。アデリアもそう言っている。これ以上僕は話すことはない」
そう言うと、クリストフは自らの剣を身に付け、訓練場を後にし出した。慌ててラメルも手荷物を持って追う。それから、クリストフは退室の手続きを取るときも、ラメルに対しては無言だった。煮え切らないラメルは、そんなクリストフをもどかしく見つめていたが、クリストフはそれに参ったのか同情したのか、訓練場の外でふぅっと溜め息を付くと、やっとラメルを振り返った。
「さっきのようなことは、あまり言いたくなかった。すまない。
でも、君のことをいつも案じているつもりだ。
もし何か危険に晒されたら、シルフィードに呼び掛けるといい。君も、魂や自然の波動を感じられるということだからな。発することも…恐らく、できるはずだ」
そしていつもの笑みを取り戻すと、言った。
「剣の腕、あとは自分で練習して重さと長さに慣れれば上達してくるはずだ。
今日は休みなのに、わざわざ来てくれてご苦労だった」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
ラメルはそう言ったものの、剣も貰い、稽古もつけて貰っておきながら、素直に感謝の気持ちを抱けないでいた。先ほどの会話の気まずさもそうだが、クリストフが今度こそ自分と決別するような気がしたのだ。そのための剣術訓練のような気がした。そしてそれは、自分の出生に触れさせないためのように感じられた。
「クリストフさん」
顔を上げ、クリストフを見つめた。クリストフは優しく見つめ返す。
「自分が何者か知ることは、そんなにいけないことですか」
「いいや」
ラメルはダメだと言われるような気がしたので、その返事には逆に驚いてしまった。エミリアも、アレックスも、ジャスミンも、誰もがそれにノーを突き付けてきたからだ。
「本当は誰だって自分が何者か知らないものだ。僕だって、自分が何者なのか考えることはある」
ラメルをしかと見つめると、クリストフは続けた。
「自分が誰なのか知っても、それまでの自分を見失わないで欲しい。否定もしないで欲しい。僕の願いは、それだけだ」
クリストフの瞳に宿る光は、先ほどのものとは全く違っていた。どこか哀しげで、慈愛に満ちている気がした。それは自分に対してというよりは…そうだ、クリストフがアデリアに投げ掛けているあの視線だと思った。
「分かりました。それは、約束します」
「ああ」
クリストフは、どこかほっとしたように頷く。一方でラメルは後悔した。どうして約束なんて言い方をしてしまったのか。これでは決別のようなこの雰囲気を、認めてしまったようなものだ。
「クリストフさん、なんだか一生の別れみたいじゃないですか」
冗談めかして言ったつもりだったが、声が震えているのが自分でも分かってしまった。
クリストフはふっと笑ったが、その冷静過ぎる笑みが、ラメルには不安だった。案の定、その笑みはすぐ消えてしまった。
「そんなことはない。だが…会わない方が良いかとは思ったんだ。やはり君に僕は危険すぎる。いや、僕こそが恐れているのかもしれない。それは、何となく君にも分かっているはずだ。僕は騎士団の上官ではあるが、何事にも万能ではない。これ以上…」
そこまで言ったところで、クリストフはハッとしたように、俯きがちだった顔を上げた。
「送っては行かないが、気を付けてな」
「ええ、ありがとうございました」
ラメルは、何もなかったかのように振る舞ってクリストフに別れを告げた。
――分かってたことじゃない、クリストフさんが話してくれないことは。
ひとり歩き出しながら、ラメルは思う。
むしろ、まだ潔いのかもしれないとさえ感じられた。
僕は知ってるけど、言えないから君には近づかない。そんな態度を示してくれただけ…。
とぼとぼ歩くラメルは、まだ知らない。
その王都の桟橋に、今しがた、東洋系の女性が降り立ったことを…