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異世界史上最強のじゃんけん少女  作者: 菅田原道則
第一縁談者
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007話 大根役者

 との事があり、今も芋達から追われている身なのだ。


「シリル君、もう一度あれを出せないのかね?」


「同じ武器は一日に一回までですよ~、本気出していいならグラム出しますけど?」


 椅子の上でぐったりと寝転がっているシリルは言う。グラムってあのグラムだろうか?


「うぬぬ、やはり逃げるしか道は無いのか。いや、しかしこのままでは追いつかれてしまう」


 頭を抱えてボイルド教授は唸っている。シリルが本気を出せば街道は壊れて教授に負担がかかってしまう。そうなれば神探しを継続できない。ソフィリアが魔法を使って少しづつ削って行っても、こちらの魔力切れで終わるだろう。


 ソフィリアも難しい顔をして状況の打破を考えるも、妙案は思いつかなかった。たった一つ、皆が助かる方法だけはあったが、恐らくシリルが絶対にさせてはくれないだろう。それは本当に最終手段だ。


「御者君、あとどれくらいで着きそうだね!」


「半刻はかかるかと・・・」


 半刻か。こちらの速度と、芋達の速度を計算すると、大体あと十分で追いつかれる解が導き出せた。


「せめてセラス手前まで行ければ・・・」


 大きな町や街には魔物やこういった自然災害が発生した場合に備えて、大きな防壁が作られている。防壁には魔物や強い魔力を帯びた野菜達が嫌がる魔法が施してある。ソフィリア達がセラスに行くことで芋達の進軍はある程度緩み、対処する事ができるのだ。


「ま、気楽に行きましょうよ。セラスに着くまでに追いつかれるようだったら伝家の宝刀を抜きますから」


「その時はこの始まったばかりの旅の終わりですけどね」


「死な無ければ、また出来るよ。わたしとソフィたんならね!」


 シリルは親指を立てて言うが、それはボイルド教授はもう負債漬けで旅は出来ないと言っているようなものだった。


 ガクリと、車体が揺れた。


「なっ何だね今の揺れは!」


「あぁ・・・どうしてそんな知恵が!」


 御者席から絶望に満ちた声が聞こえて来た。


 ソフィリアが窓から顔を出して後ろを除くと、長い金髪を纏めていたゴムを掠め取って何かが前方へと飛んで行った。


「ソ!ソフィたん!顔出しちゃダメ!」


 金髪がサラサラと乱れていながらも何が起こったのかを知りたくて後ろを見続けていたソフィリアをシリルは力尽くで荷車内に戻して、自分の膝の上に体を預けさせた。


「ソフィたんを膝枕するのも・・・良い!」


 シリルの膝に頭を乗せながらソフィリアは今見た景色を思い出す。あれは本当に先程逃した男爵芋だっただろうか?


 あろうことか男爵芋には腕が生えており、成長していたのだ。その腕の生えた男爵芋が隣にいる家族の芋をこちらに向かって投擲しているのだ。先程髪を纏めていたゴムを奪っていったのはそれだった。


「大変です。あの男爵芋、成長しています」


「成長だって!?学会発表レベルではないか!」


「正に奇跡の現場に私達は立ち会っていると言っても過言ではないでしょう」


「はいはい、教授もソフィたんも現実逃避はしないの。あのまま投げてくるのをわたしが切り落としてもいいけど、やっぱり状況の打破はあの男爵芋を何とかするしかないのかなぁ」


 ソフィリアは功績など更々どうでもよくてボイルド教授に皮肉を込めて言っただけなのに同じように扱われたことが腹立たしかった。なので柔らかく、落ち着けていたシリルの膝から体を起こした。


「皆様、お困りでござるか?」


 唐突に男性の声がした。全員がキョロキョロと辺りを探すが、声の主はいなかった。


「拙者はここでござるよ」


 男の声はどうしてかソフィリアの鞄の中からした。ソフィリアは鞄の留め具を外して中身を確認すると、白い何かが飛び出て来て、ソフィリア達の前に現れた。


「お、オコジョ?」


 目の前に現れたのは割と小さめのオコジョだった。白い体毛に包まれてはいるが、頭に茶色いデンガロハットを被って、黒いベストと青いズボンを穿いている、どこかワイルドウエスタンのようななのだが、腰には剣を帯刀していて、各国のカルチャーを混合しすぎて訳の分からない、人間味のあるオコジョだった。


「如何にも、拙者はオコジョのアルトレウスと申すで候。分け合ってソフィリア殿の鞄の中に居座らせてたでござる」


 この世にも珍しい喋るオコジョを目の当たりにしても驚きはそこまで無かった。


「貴様、何ソフィたんの私物の中に体を預けているんだ」


「ぐっぐえー苦しい!拙者はか弱き動物、握撃は止めてくだされー!」


 シリルがオコジョを取って掴み、首を絞めつけ始めた。


「シリル!」


 ソフィリアはシリルの手からアルトレウスと名乗ったオコジョを奪って、自分の小さな手の上に乗せた。


 アルトレウスと名乗ったオコジョは絞められていた首を摩ってからソフィリアに向き直った。


「いやはや、忝い。ソフィリア殿、事情は後で説明するとしまして、拙者、今の状況を打破できるのでござるが、やらせてもらっても構わないでござろうか?」


「え、えぇ。私達としても出来るなばやってもらいたいのですが、その・・・大丈夫ですか?」


 ソフィリアの手の上に置かれたアルトレウスはいとも小さく芋三つ分くらいの大きさだった。そんな大きさのアルトレウスがあの自然災害をどうにか出来るのか?と皆が同じことを思っていた。


「心配ご無用、拙者にも伝家の宝刀があるのでござるよ」


 鞄の中で先程のシリルの発言を聞いていたのであろう。アルトレウスは帯刀している剣を抜いて見せた。剣の刀身は真っ白で、太陽の光を反射させてキラキラと輝いていた。


「これは?」


「これは聖剣エクスカリバーでござる」


 ソフィリアが訊ねると、アルトレウスはそう自信満々に答えた。エクスカリバー。現代世界でもかなり有名な剣だ。その剣がアルトレウスの小さな御手に持てるほど、か細い剣だとは信じられない。


 この世界の聖剣エクスカリバーについてはソフィリアは目にした事があった。聖剣エクスカリバーは曰く付きで、持った者を死へと誘う不幸な剣だと言われている。持っていた王が不幸にあって亡くなったためにそんな伝承が残っているらしい。


「あたしもエクスカリバーの原型のカラドボルグ持ってるけど、それ本物?」


「本物も本物!拙者、一世一代の命を受け、十万Gゴールドで譲り受けたんでござるよ!」


 全員が黙ってしまった。ふんふんと鼻を鳴らしながらアルトレウスは全員が黙ったことを自分がそれだけの決心をしたのだと思い、感服し、息を呑んでしまったと勘違いしたらしく、聖剣エクスカリバーを手に入れた経緯を語り始めた。


「あれは過ぎ去る事は半年前、寒空の下で倒れている老婆がおりまして、その老婆はなんと聖剣エクスカリバーを代々持つ家系の娘、だがしかし、嫁の行く手では聖剣エクスカリバーに纏わる不幸が訪れ、夫は他界。結局誰も傷つけない為に老婆は聖剣エクスカリバーと共に世間から身を引いたのでござります。拙者、その話を聞いて、居てもたっても居られなくなりまして、拙者が引き受けると申しますと、一度は老婆は断ったのですが、十万Gでなら譲っても構わないと申したのでござります。拙者の身を案じてくださったのでござりましょうが、拙者は引かずに十万Gを払い、この聖剣エクスカリバーを手にしたのでぇ、ござります!この半年、何事も起きていないのは拙者がエクスカリバーの適合者だったと言う事でござりましょう」


 全員がこのアルトレウスに目も当てられなかった。このアルトレウス嘘は言っていない。今、舞台役者風に語った事も本当の事だろう。ただ、自分が詐欺にあった事を自覚していないのだ。言ってしまうと、純粋で世間知らずのお馬鹿さんだ。


「シリル殿何をなさってござるか?」


 シリルはくんくんと偽のエクスカリバーの刀身を嗅いでいた。そして舌をだして刀身を舐めた。


「何をなさって!舌にお怪我は!」


「うーん、独特な匂いにこの味。それ、大根だよ」


 シリルの舌に傷が出来たかもしれないと医療道具を取り出そうとしていたアルトレウスは告げられた言葉を聞いて動きを止めた。


「今、なんと?」


「だから、それ大根なの。試しに舐めてみたら?」


 無慈悲にも告げるシリルには慈悲という感情は無いのだろうか。


 アルトレウスはそんな訳があるはずないと高を括りつつも、恐る恐る刀身を嗅いでみる。愛らしい鼻がヒクヒクと動くのがなんとも可愛らしかった。


「だ・・・大根・・・」


 ショックを受けたのかアルトレウスはソフィリアの手の上に膝を崩してしまう。試しにソフィリアも大根ソードを嗅いでみると、確かにつんと鼻につく臭いがした。確かにこれは大根だ。


 ズゴン!と何かがぶつかる音がして馬車が揺れた。ソフィリアは手に乗っているアルトレウスを落としそうになったが、なんとか落とさずに留めれた。


「いだだだ、髭を引っ張るないでくれー」


 ボイルド教授の髭をジャガイモが脚で掴んでぶら下がっている。今の音は荷車をジャガイモが貫通してきたのか。アルトレウスのくだらない件を聞いていたおかげで、自分達が置かれている状況を忘れていた。


「あらよっと」


 揺れる車内にも関わらずにシリルはジャガイモの脚を見事に切ってみせた。脚を切られたジャガイモは意思を持つことを止めて、ポトリと落ちて、ただのジャガイモになってしまった。


「アルトレウスさん?」


 アルトレウスが何も言わずに立ち上がり、大根ソードを持って窓枠へと飛び移ったのでソフィリアは呼んだ。


「拙者に、任せてくだされ」


「駄目ですよ、何を考えているんですか!」


「拙者も男の端くれ、恥を見せて終わる男ではないでござる!この聖剣エクスカリバーで男爵芋を討ち取ってみせるでござる!」


「駄目ですってば」


 ソフィリアがアルトレウスを掴もうとすると手からすり抜けるようにアルトリウスは馬車から飛び降りてしまった。


「いざ!出陣でござる!」


 口に大根ソードを咥えてアルトレウスは芋の群れの中へと斬り込んで行ってしまった。


「何者だが解らんが、私達の為に単身であの中に入っていく勇気を称えよう」


 ボイルド教授はエリュシュオン協会の祈りをアルトレウスに向けて捧げた。突然に現れたアルトレウスと名乗るオコジョはソフィリア達の前から姿を消したのだ。


 状況はアルトレウスが現れる前に戻っただけだった。


「皆さん、あれ」


 戻ると思っていた。


 ソフィリアも流石に呆気に取られていた。馬車二台分程まで迫った芋達の大群の中に単身で突貫していったアルトレウスが芋達の波の上で男爵芋と戦っているのだから。

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